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5-7 人間界の一幕、そして

「……」


「この間から窓の外ばかり見てるな。窓の外には雪しかないぞ」


 ぼんやりとしているシーリアに、ニールが話しかけた。


「失礼しました」


「気にしなくていい。雪を見たいわけじゃない事くらいわかるし、君の心配も理解出来る。今のところこの近郊は平和だからな。少し気を抜いても大丈夫だ」


「しかし、そうは言っていられません。レヴェルの奴らがどう動くか分かりませんし、何より彼との約束ですから」


「そうか。まぁあまり……気を張りすぎても倒れられても困るし、気が抜けすぎても困る。その辺は注意してくれ」


「無論です」


 そういうと彼女は愛用の盾をでんと床に置き、改めて気を引き締めた。



 アクトと別れてから、人間界は動きがなかった。


 もとより殆ど時間が経過していない。当然と言えば当然ではある。が、彼女にはそれがもどかしかった。彼から任されたというのに、何をしたものやら。如何ともし難い。


 とりあえずジャンベールへと戻ってきたが、ナクールに行った方が良かったかもしれない。そんな事を考えながらしんしんと降る窓の雪を見つめる。


「ナクールの動きは?」


「無い。結界が張られている現状、そこまで様子は見えないので、何かしらやっているだろうとは思うのだが。……結界をどうやって張ったかも含めて、どう動くのかが全く見えないのが困ったものだ」


「マジックアイテムによるものとは思いますが、確かにどう動くのか見えないのは不気味ですね」


「全くだ」


「結界魔法は基本的に解除しなければ外にも出られん。何が狙いなのやら」


 そんな話をしていると、突然兵士が割り込んできた。


「失礼致します!!」


「全くだ」


「すみません!!ですが事態は」


「んなもん見りゃ分かる早く言いたまえ」


「ナクール城の結界が一瞬途切れました。時間は十分程度。現在は結界が再構築されています」


「十分だけ?魔物たちが外に出たりは?」


「しておりません。脱出する人間も、確認出来る範囲ではおりませんでした」


「……何を企んでいる?」


 ニールは考え込んだ。全く意図が読めない。その十分の間に何かをやったのだろうという事は理解できたが、その"何か"が想像できなかった。


「ともかく魔界にも連絡をすべきでは」


 意識が考え事の方へ集中していた彼であったが、シーリアの言葉に我に返った。


「そうだな。すぐに魔界とルフトへ連絡を」


「はっ」


 そう言って兵士は再び出て行った。


「何が考えられる?」


 兵士がいなくなってから、シーリアに尋ねた。


「分かりません。結界は一定周期で途切れるとかならば良いのですが」


「そうだな。それなら敵の隙に繋がる。が、そうでなければ……なんだろうな……」


 ニールは頭を抱えてしまった。色々な予想は出来なくはないが、確信を持てる考えが浮かばない。


「まぁいい。ともかく動きに備えーー」


「大変です!!」


 さっきの兵士がまた戻ってきた。


「え、また!?」


 思わずニールが威厳も何もないような声を上げた。


「い、今、魔界への連絡員から通信が入りました!!魔界の大穴、魔界側の出口付近に結界を確認!!現在誰も魔界へ侵入できない状態とのことです!!」


 魔界は別の世界、魔界へ直接通信魔法を実行することは出来ない。そのため、連絡員を経由して魔界へと連絡するという方式を取ることを魔王と合意していた。しかし、魔界そのものに結界が張られては、連絡を取ることが出来ない。結界は完全な壁で、様子を伺うことも出来ない。そのためジェスチャーで伝達するという最終手段すら取れない。


「…………いつ?」


「つい先程とのこと!!確認しましたが、どうやら」


「ナクールの結界解除と同時、か?」


 ニールが暗い顔で言うと、兵士は答えた。


「仰る通りです。全くの一致を見ました。即ち、恐らく、ナクールの結界解除はこのためと考えられます」


「空間転移が起きたのか?レヴェルーー皇女の目撃証言は?」


 兵士はその点は首を横に振った。


「今のところは不明です。魔界の入り口は広く、我が方の兵がカバーしている範囲は限られています」


「そらそうだ」


 ニールがまた頭を抱えた。


「……ご苦労。とりあえず手を考える。何かあるまで連絡員との連絡を続けてくれ。連絡員には現地の様子、および結界解除の試みを指示してくれ」


「承知致しました!!」


 そう言って兵士は慌てて出て行った。


「……というわけで、どーすべきか困り果てる。……実際どうすべきだ?これ。それに……」


 ニールは大きく、大きく溜息を吐きながら言った。


 だがシーリアはすでに意識は上の空、別のことを考えていた。


「……アクト……!!」


 彼女は魔界へ旅立った幼馴染の安否を、そして彼と再会することが出来ないのではないかという不安を抱え、呆然と立ち尽くしていた。


 その視界の先、窓の外の雪は未だ轟々と吹き荒んでいた。

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