5-2 研究所へようこそ!!
魔王が指差した先へと飛んで飛んで数時間。漸くそこに到達すると、魔界という場所の過酷さというものを実感させられる事になった。
雷が轟くせいで耳が痛いし、何か肌がピリピリと痺れるような感触を覚える。山肌はなんで露になっているのかと思っていたが、それはどうやら何かの魔物によるものらしい。赤黒いそれは爪痕であり、そして山に倒れている魔物の血であった。
数時間分離れた高台から見える魔物。デカ過ぎる。そしてそんなデカ過ぎる魔物が何故倒れているというのか。ここに何かそれだけの強大な何かが居るというのだろうか。
僕は用心しながら山の上の方に降りると、周りを気にしながら山の散策を開始した。
開始して数分、すぐにおかしなものを見つけた。
研究所だ。
そうとしか言いようがない。アンテナに白いコンクリート(異世界だぞ?剣と魔法の世界だぞ?)で形成されたそれは、まごう事なき研究所である。
「研究とは聞いたけど……なんでこんなもんがここにあるんだ」
魔界とは僕の元居た世界の成れの果て、みたいな展開なのだろうか。いや、それにしては新しい。いや結構年季は入っているように見えるが、数千年前とか古代の遺跡とかそういう様子は無い。ちょっと古めの建物という感じだ。元の世界で言うと、そうだな、平成に変わってすぐに出来た建物みたいな印象を受ける。古過ぎるわけではないが、新しいとも言えない、微妙な立ち位置という感じである。
「……まぁ何かあるとすればここだよねえ」
独り言ちた後、研究所のドアーー普通のドアノブを回して中に入ろうとする。
するとドアが勝手に開いて、僕の顔を襲った。
「あーキタキタキタキタ!!カモがネギしょって来たんよクレス!!」
女性が出て来た。髪は長く三つ編みにしていて、肌は青い。魔人と呼ばれる種族の中でも、水に関する魔獣の血を引いているようである。八重歯が鋭く尖っている。
「来たのですか?!来たのですか?!」
もう一人出て来た。こっちは天女のような羽衣を着て、髪は短い。肌は薄橙。羽衣はどこか薄汚れているように見える。このデザイン、どこかで見たような気もする。
「おお!間違いないブレスレットつけてますね!!」
「やった!!アタシの以外を漸く見つけたんよ!!」
「やりましたねサチ!!漸くこれで」
「ブレスレットを!!」
「ブレスレットを!!」
「研究出来る!!」「破壊出来る!!」
一瞬の沈黙。
「壊すな!!」
「いやだ!!いい加減壊しましょう!!研究なんてするもんじゃない!!壊すための研究なら許す!!昔っからそう言ってたでしょう!!分解止まりだったけれど!!」
「そんな勿体無い事ばっか考えてるから神を追放されるんよ!!」
「追放じゃないでーす!!バグ作った責任取って自分から都落ちしただけでーす!!そんな事言うならアンタの方こそブレスレット使えなかったからって追放されたじゃないですか!!」
「追放じゃないんよ!!こっちから出て行ってやっただけなんよ!!」
「何言ってるんですか!!」
「そっちこそ何なんよ!!」
「むむむむむ……!!」
「ぐぐぐぐぐ……!!」
「チュッ」「チュッ」
突然研究所の中から現れた二人の女性。揉めて睨み合ったと思ったら口付けを交わし始めた。
「なんだこれ」
どこかのお笑いトリオのネタを見せつけられた僕は多分アホみたいに惚けた顔をしていたと思う。後鼻が痛い。引き戸が思い切り僕の顔を打ってそのまま腰を抜かしたからだ。
「まぁ冗談はさておき」
「冗談でした?本当に?」
僕の意見は無視された。
「ようこそ現代魔法科学研究所へ。私は所長のサチ・レース。こっちは神様もどきのクレス・スピリット」
「もどきとは失礼な!!そりゃー妹よりは出来が悪いかもしれないけど私だって神様というか命の管理者なんですよ!?……だったんですよ!?」
「言い直す当たりがダメなんよ」
また二人の漫才が始まった。……命の管理者。スピリットという姓。覚えがあった。
「クレア・スピリット?」
「あれ?知ってるのですか?……あ、転生者ですね?」
クレスの方がふんふんと僕の匂いを嗅ぎながら言った。
「匂いで分かります。私は魂の管理者です……でしたから。魂の匂いっていうのを感じとることが出来るわけですよ」
サチが冷ややかな目でクレスを見つめた。
「あ、はい。それで転生の時にここに案内したのがその人でして」
「それ私の妹。出来のいい妹でしょう?」
「姉は追放される側、妹は追放する側。差というのは残酷な物なんね」
「うるさいですよ!!」
またまたまた漫才やられては困る。僕は割り込んだ。
「追放?」
「そいつを作り出しちゃったせいらしいんよ」
そう言って彼女は僕の腕に付いた物を指差した。
「これ……エクストラクター?」
「そう」
「カッコいいよねソレ」「ダサいですよねソレ」
真逆の意見をサチとクレスがそれぞれ言った。
「何なんよ!!」
「そっちこそ何ですか!!」
「やめてください!!やめろ!!」
完全に二人のペースに飲み込まれてしまう前に僕は二人に割って入った。
「百合の間に挟まんじゃないんよ!!」
サチが声を荒げた。アンタらのそれは百合という程綺麗な物ではなくもっとコンビ芸人的な何かでは無いだろうかと、会って数分の僕であるが、確信に近い思いを抱いていた。
「……百合?」
その単語を女性二人の間柄に使用するという風潮はこの世界にはまだ無いはずである。魔界にはあるのだろうか。
「魔界にもそういう文化が?」
そういうとサチはきょとんとしたような表情を浮かべながら言った。
「は?そんなわけないんよ。アタシも転生者だから知ってるんよ」
「ああなるほど」
確かに転生者なら元の世界の知識を持っていてもおかしくない。
……ん?
「転生者!?」
僕は今日一番の叫び声を上げた。




