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5-1 魔界へようこそ!!

 僕はアクト・ヴァーディ。鑑定士をやっている。やっていた。


 やっていた僕が今は何故か魔界に来賓として招かれている。


 なんでやねん。


 僕はただの鑑定士。鑑定士としてやっていきたい。にも関わらず最近はどんどんどんどん変な事に巻き込まれている感がある。



 理由は分かっている。元を正せばあの二年前の村の焼き討ちから全てが始まった。そして原因はあのレヴェルとかいう魔族である。あれのせいでどんだけ酷い目に遭ったか。筆舌に尽くし難いというのはこの事であろう。


 だが嘆いているだけでも仕方がない。何も進展はしない。とにもかくにも出来る事をせねばなるまい。


「あれや」


 そういうわけで僕は今、魔界の入り口に居る。魔王ヴェルムが指差す先にはそのゲートが存在している。


「……あんなところに、ですか」


 僕の視線は下を向いている。下の下の下の下の下の……真っ暗な、暗闇だけが広がる、真っ黒の空間。


「せや。ほな行くで」


 そう言って彼は飛び降りた。勿論ただ飛び降りたわけではない。背中の翼をはためかせて、ゆっくりと降下している。


「はぁ」


 僕は手元の薬を飲んでドラゴンの姿に戻る(この言い方を早く何とかしたい)と、同じように翼を羽ばたかせて空を舞い、そして地底の闇へと向かっていった。



 穴に落ちると凄まじい魔力が体全体へと掛かるのを感じた。あまりに強烈な魔力の奔流。荒れ狂う川に飲み込まれるのと同じような感覚を覚える。


「詳しくは我も分からんのやが、次元の位相が違う、らしいで。なんで結構な負荷が掛かるんでな、注意してや」


「ががががががががが、もう少し早く言って下さいよおおおおおおおお」


 揺れる体、揺れる口、漏れる愚痴。


 兎にも角にも耐え切って、その奔流から脱出する。


「ぶぇ」


 頭から落下した。地面ーー普通の、魔界から言うところの人間界の地面と同じような地面に感じるけれど、それに頭を思い切りぶつけた。痛い。


「大事か?」


「大事というわけではありませんが、その」


「あー(わん)りぃ、大事っつーんは大丈夫かっつー意味さや」


「……どこで覚えたんですがその訛り」


 そう言いながら立ち上がる。でかい図体なので疲れるが、仕方がない。


「よいしょ」


「まーいろんな奴に聞いたりしたからのう。なんか珍妙かもしれにゃーが、まぁ許してや」


 どんどん混ざっていく訛りに、こいつわざとなんじゃないか?と思ったりもするが、そこは口には出さない。


 それより気になる、目に留まるのが、魔界の風景であった。


「ふえー」


 ちょうど到達したのが高台だったので、魔界の景色というものを眺める事が出来た。


 前世のゲームとかで扱われる、魔界と聞いて想像するような汚れた不浄の地という感じではなく、もっと綺麗で、色鮮やかな世界が広がっていた。色が鮮やか過ぎるきらいはある。やたら色の濃い木々とその葉っぱ。緑も毒々しく、赤も赤々しいというか、とにかく真っ赤で目が痛い。原色という感じである。


「こんなところなんですか」


「せやで。ええとこやろ。人間界はどーにも薄くてあかん。もっと濃くないと」


「ここまでなんというか直接的に濃いのはどうなんでしょう」


 そんな話をしていると、僕の横に誰かがやってきた。


「Oh、スミマセーン。ここはミー達の土地なんデース」


 大きなカラスのような魔物がやってきて声を掛けてきた。大きな、と言っても、今の僕との体格差は相当なものだが、正直良く口を出せたものだと感心すらする。


「とっとと出て行って……」


「すまんのう。もうすぐ出ていくからちょい待ってや」


「魔王様!?あああああいいいいいいいやなんでもありまセーン長居してくだサーイ」


 そう言ってカラスは空へ飛んでいった。


「権威には弱いのか……」


「ありゃヤタガラスやな。逃げ足は早いんでドラゴンも恐れずずけずけ文句言うんだわ。テキトーに流しとき」


「そうします」


「ホントならこーいう重要な土地は政府のものにしたいんやがな。勝手に住み着いてんねん。土地がないからゆーてな」


 うんざりした様子でヴェルムが溜息を吐いた。


「とっととレヴェルのアホンダラを叩きのめして、色々済ませたいわ」


「そうするために僕はここにいるわけです」


「せやな。あれ見えるか?」


 彼は遠くの山を指差した。赤黒い山肌が露になっており、その上空には雷が轟いているのが目に見えてわかる。


「あそこに例の研究者の研究所があったはずや。行ってみてくれや。これ持っていき」


 そう言ってヴェルムは魔力が込められた板を取り出した。


「こーいう時のために持ってきてあるんや。我の紹介状みたいなもんや。これがあれば我があんさんを紹介したってわかるようになっとんねん。魔界だけで使えるとっときのもんや」


「ほへー。有り難く頂戴致します」


 僕はそれを受け取って、体の割には小さいがそれでも十分大きな爪で、ゆっくり、白衣の中へ入れた。慎重になったのは、白衣を傷つけて人間になった時にぼろぼろにならないようにするためである。


「手間かかるのう。エクストラクター使えばいいんでねぇか?」


「あれは疲れるんです」


 実際大変に疲れる。あの日、会議室だか応接室だかで使った時は翌日全身筋肉痛だった。そういうものなのだろうか。そういうものなのだろう。とりあえずここぞという時以外は使わない方が良いと判断した。


「まぁええか。んじゃ行ってき。我はあそこ。魔王城でレヴェルとの戦いに備えて準備しとくさかい」


 僕は頷き、分かりました、というと、翼を羽ばたかせて空へと舞い上がった。


「オイ、コノ空ハ我ラぐりふぃん族ノモノダゾ!!」


 飛び上がった先でいきなりグリフィンに絡まれたので、火を吐いて追い払った。


 ギスギスしてるとは聞いていたけれど、なんというか、こういうギスギスの仕方か。世知辛い世の中だなぁ。前から実感していたが、改めて思う。……剣と魔法のファンタジー世界もまた現実、現実とは世知辛いものなのだ、と。


 僕は内心で肩を落としながらも、目的地である山へと向かって空を切り裂いた。

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