4-6 切り裂け!!ドラゴンフォース
「なん、なん、なんだこれ!!」
「そいつは魔物の力を人間のような小さい体へと凝縮する伝説の装備や!!」
先程まで意識が朦朧としていたはずの魔王は、興奮を隠せない様子で叫んだ。
「魔界ではそいつを見つけた奴は勇者になれるとまで言われとった!!まさか実在するとは……!!」
「確カ、1/157500000カソレ以下ノ確率デ見ツカルノデハ無イカト言ワレタ……!?」
「ソレガココニ!?」
魔王の部下達がアクトのブレスレットを見て口々に叫ぶ。
「しかも適合するかどうかも賭けと言われとったはずや!!」
「え、失敗したら死んでたんですか僕」
魔王は頷いた。
「うまくいったからええやろ。ほれ行けや!!今のあんさんならあんな奴らイチコロやで!!」
そこまで言って彼は腕を持ち上げようとして、血が吹き出して再びバタリと倒れた。
「あ、もうダメや」
「……あーもう行くにも行けないじゃないですか」
さっきまでのテンションはどこへ行ったのかと文句が頭の中を駆け巡る中、アクトが回復魔法を唱えようと手を翳す。
すると翳した手に光が現れ、それがヴェルムを包み込む。光がヴェルムの切り落とされた腕とその切り口に集まり、それらが接合されていく。
「あれ?何もしてないのに」
発生した光。それは回復魔法の優しい暖かな光。本来は魔法には詠唱が必要である。しかし今起きた事といえば、手を翳し、回復魔法を唱えようとしただけ。それだけで詠唱無しで魔法が発動し、魔王ヴェルムの腕は元に戻ったのだ。
ヴェルムはそのまま寝ているが、ダメージが回復した分、脈などは正常に戻っているようである。
「……これまさか詠唱無しで魔法発動できるのか?」
アクトはつぶやくと、試しにとばかりに業火球を発動しようと念じ、手を翳す。
すると眼前に巨大な火球が現れ、部屋の気温が急上昇する。そしてそれは翳した手の向いた方に向けて真っ直ぐに突き進んだ。
その先に居たのはレヴェルと切り結んでいるシーリアであった。
「ぎゃあ!?」
シーリアの元にそれが届くと、スキルの前に無効化される。
「殺す気!?」
一応シーリアにも恐怖という感情は存在した。自らを斬る事が出来る魔剣に相対する現状であれば尚の事である。シーリアは思わず声を荒げてアクトの方を振り向いた。
「な、なんだね?今のはーー」
レヴェルも同時にアクトの方を見る。
「…………」「…………」
そこにはゴッテゴテの真っ赤な鎧と羽に身を包んだアクトの姿があった。
「アクトはどこ?」「なんだいソレ」
思わずシーリアとレヴェルが剣や盾を下ろして尋ねる。
「君の目の前にいるのがアクトだよ!!」
アクトも思わず吠える。
「アクト!?」
「なんだその姿は!?」
「お前をとっちめるためにこうなったのさ!!」
アクトはレヴェルに吐き捨てると、手を翳して極凍結を発動させた。翳した手からレヴェルに向けて猛烈な冷気と吹雪が発生し、そしてそこから冷気が応接室全体へと広がっていく。
「あああああ危ない!!」
レヴェルは近くにいたリザードマンを盾にする。リザードマンは強烈な吹雪に見舞われ、文字通りの氷漬けとなった。
カチン、という音を立てて氷と化したリザードマンを、もう用は無いとばかりに蹴り捨てるレヴェル。彼女に足蹴にされた彼の勇姿は、ガシャリと音を立てて砕け散った。
冷気は拡散する。
「暑いと思ったら今度は寒いであります!!」
「さっきからどういう事なのでアレは何なのです!!」
「ゴッテゴテでカッコいいですねぇー」
アイン、ツヴァイ、ドライのふりをしたリンガがそれぞれ戦闘しながら感想を述べる。リンガはともかく、魔物と戦争の真っ只中にいる国の元首である。レヴェルの配下程度であれば余裕であしらっている。
「は、ハハハハハ……」
レヴェルは顔を引き攣らせながら笑った。
部下はやられ、眼前には妙な格好の、しかし圧倒的な力を持った相手がいる。『無敵』スキルにあぐらをかかず十分な力量を詰んだ相手もいる。
このままでは殺される。
魔王を倒し自らが魔王になるという目的も達成出来ない。
「…………さらばと行こうか!!『記憶を辿りて門よ開け、転送門開放』!!」
レヴェルはそう言うと転送門を開き、自らが飛び込むと、
「代わりに行ってこい!!」
何かを蹴り出して、その門を閉じた。
「グルゥゥゥゥォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!」
出てきたそれは一つ目の巨人、サイクロプスと呼ばれる種族の魔物である。けたたましい咆哮が室内を大きく揺るがす。それなりに高い会議室の高さも足りないようで、少し前のめりである。
だが揺るがないものもある。
「すっごいなぁ、全然耳も何も痛くないぞ」
アクトは平然とそこに構えていた。彼の纏ったドラゴンフォースアーマーのヘルムにはそうした効果も無効化する機能が備わっていた。
「よし、こうなったらヤケとノリだ」
レバーを一度スライド、ドラゴンのリリーフカードを表に出すと、再びレバーを倒して読み込ませた。
『ドラゴン!!』『ラストイニング!!』
カードとプレスレットが連動して声を上げる。
すると手の甲に付いた鉤爪に炎の魔力が宿っていく。それがアクトにも伝わる。鉤爪はどんどん温度を増し、熱を帯び、赤く紅く燃え上がっていく。
アクトは熱が最高潮に達した瞬間に、ブレスレットの宝石を押し込んだ。
『ドラゴン!!』『バトルエンディングヒット!!』
「でぇぇぇぇぇぇい!!」
ブレスレット達が叫ぶのに合わせて、アクトが腕を振るうと、朱く燃え盛る炎の鉤爪がサイクロプスを切り裂いた。
断末魔すら上げる事なく、サイクロプスは何も出来ないままに幾重にも分割され、そして傷口から燃え盛る業火が湧き上がりその断片を灰も残さず燃やし尽くしていく。
「……ふぅ」
アクトが溜息を付くと、残された灰にも満たない欠片が、風に飛ばされて何処かへと消えていった。
あとにはレヴェルが転送させた魔物の死体と、その魔物に殺された兵士の死体、そして無事乗り切ったアイン、ツヴァイ、リンガ。傷が癒えて立てるようになったヴェルム。
「アクト!!」
そして何より。
「凄いじゃない!!一気にあいつら倒すなんて!!……でその格好何?」
傷一つ無いシーリアが、赤い鎧に身を包んだアクトに抱きついて言った。
「……無事で良かった。後これは僕が聞きたい」




