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4-7 別行動

『うむ、こちらで人をやったが、ナクールには結界が張られている。出入りは出来ないようだ。そのレヴェルとやらは、籠城して時間でも稼ぐつもりだろうか』


 数日後、死体を片付けた応接室で、今後の方針を検討すべく、ルフト共和国の二名と成り代わり一名、魔界の代表者一名が会議卓で顔を合わせ、通信越しに話すジャンベール帝国の皇帝の言葉に耳を傾けていた。


 その中心には、功労者であり全ての事件の関係者であるアクトとシーリアがいる。


「奴も鑑定スキルを持っているのだとすれば、そのスキルと未鑑定品により何か新しい戦力を得ようとしているのやもしれません」


 アクトの言葉に、傷も完全に癒えたヴェルムが頷いた。


「あんさんの、アクトはんのそのブレスレットーーエクストラクターに対抗出来る何かを探しとる言うわけか。んむ、その可能性は高いのぅ」


 あんさんの、という言葉にアクトは反応して、手元のブレスレットを見つめた。その後何度か外そうとしたが全く外れない。呪いのアイテムか何かだったらしい。幸いと言うべきか、手を洗う時だけは何故か消えてくれるので、装着し続ける事で汚れるという事はなさそうであったので、その点については彼は安心していた。が、それでも邪魔、否、色々な意味で重い事に変わりはない。


「……これ僕が使わないとダメですか?」


 アクトがポツリと言った。


「それはおまはんしか対応してないねんや、仕方あるめい」


 良くわからない訛りでヴェルムが言った。アナウンスもあった事から、その言葉は間違いなさそうである。アクトは溜息を吐いた。元々同じような薬を作ろうとは思っていたので、濡れ手で粟とは言えるかもしれないが、こんな鎧を纏うことは彼も想定外であった。


「しかし結界なんてどうするのです?」


 ツヴァイが言う。


「壊すのであります!!」


 アインが叫んだ。


「壊し方を聞いているのです!!」


「えーと……先程ニール皇帝陛下よりお聞きした状況から考えますとぉ、壊すには相当のエネルギーが必要になると思われますぅ」


 リンガが、自分では場違いではないかと思いながらも、恐る恐る言った。ドライについては捜索隊が出されたが、未だ見つからない事から、当面リンガがそのまま代わりを勤める事となった。


「それこそぉ……アクトさんのそれ(エクストラクター)を最大限活用する方向で行かないとぉ……」


「なら当面はあんさんの修行やな」


「修行、ですか」


 アクトはボヤいた。あまり好きな言葉ではない。


「修行ゆーても滝に打たれろとかサンドバッグ殴れとかそーいうわけやない。我にいい考えがあんねん」


 ヴェルムは続けて言った。


「魔界にあんさんの持っとるエクストラクターと同じもん持っとった奴がおってな。そいつがあんさんのその板?みたいなのの研究をしとるって噂を聞いたことがあんねんな」


「板……」


 アクトは懐からDRAGONと書かれたカードーードラゴンリリーフを取り出した。そこにはドラゴンの絵が書かれているが、六つほど穴が空いていて、上から何かを被せることが出来るように見える。


「これが更に強化出来ると?」


「多分な。少なくとも会って損は無いんやないか?」


 外す方法も知っているかもしれない。アクトは頷いた。


「そうですね。貴方はどうするのです?」


「当面は休戦と行きたいんやが、どや?我としてはや、あんのゴミムシを叩き潰さなあかん。……が、残念ながら、あいつにゃ、レヴェルにゃわしも手が出せなさそうでな。何か動くにしてもあの結界を破って、尚且つアクトはんに体張ってもらわにゃいかん。そうなると、あんさんら人間組と争ってるわけにもいかんゆーわけや」


『それは有難い。我々人間側としても、レヴェルと貴方を両正面で止める事は難しい』


 ニールが暗い顔で言った。


「下手に領土を増やせば付け入る隙を増やす事になりかねんでな……。それにあんさんが成長すれば領土を提供して貰うことも出来そうやし」


 そう言ってヴェルムはアクトに目配せをした。人の住まぬ地(ノーマンズ・ランド)の件であろう。確かにあそこは危険だという噂だけが残っている。アクトが強くなる事でそこへ入植する事も容易になり、それはヴェルムにもメリットとなるという事である。


「では休戦と行きましょうなのです」


「書類の方は我々の方で作りますよぉ」


「たのんます」


 ヴェルムは頭を下げた。先程レヴェルにいい様にやられたのが応えているようで、魔王らしい傲慢な態度というのは全く無かった。


「このリンガを使ったって下さいな。我は魔界に戻って停戦の準備をするで。ついでにあんさんらも案内するわ」


「……まぁ、今はそうするしか無いですね。……お願いします」


 魔界に行く。


 普段であればそれは死を意味する言葉である。


 いくら魔王その人の案内とはいえ、危険が伴わないというわけでは決して無いだろう事はアクトも確信していた。



 内心恐怖が渦巻いていた。今後どうなるのだろうという漠然とした不安も含めて、アクトの脳裏には様々な考えと未来、そして絶望にも似た思いが去来していた。


「アタシもーー」


 行く、と言いかけたシーリアに、アクトは言った。


「いや、君は残ってほしい」


「なんでよ。ここまで来て」


「……人間界の方で何か起きた時、すぐに動ける戦力が必要だろ?」


「まぁ」


『自由に動ける人間として、君は最高の戦力と判断力を有している。君にはこちらで待機して欲しい、というのが率直なところだ』


「二人が揉めた時に止める人がいないと困りますよぉー」


 ニールとリンガが口々に言う。


「僕は君を信頼している。だからこそ君に留守を頼みたい」


「……仕方ないわね」


 シーリアはそう言うと、アクトに抱きついた。


 全員の視線が二人のその姿へと注がれたが、アクトは気にする余裕もなく、シーリアは気にする事も無かった。


「え」


「気をつけてね」


 シーリアはただ純粋に彼の身を案じてそう言った。


「……う、うん」


 アクトは手をわなわなと動かし、何も出来ずにただ呆然としながら言葉を紡いだ。

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