4-4 希望は未鑑定品の中に
「貴様ァ!!また邪魔をするのかゴリラァ!!」
「誰がゴリラだっ!!」
シーリアが盾を振り回すと、その動きに腕を持っていかれそうになったレヴェルは一歩退いた。
「あと一歩!!あと一歩なんだ!!邪魔するな!!『記憶を辿りて門よ開け、転送門開放』」
パチンと彼女が指を弾くと、転送魔法が発動、リザードマン、ゴブリンからドラゴンまで、大量の魔物達が現れた。
「行け!!」
号令と共に彼らはシーリアと魔王の部下、アインやツヴァイに向けて走り出した。
「ぐっ……油断しすぎたか……」
シーリアがリザードマンを引き裂き、他の面々がそれに続く中、部下のドラゴンに守られながらヴェルムが言った。
「今ハオ休ミ下サイ!!喋ルト傷ガ!!」
腕からは血が吹き出している。ドラゴンは腕に治療魔法を掛けながら叫ぶ。
「すまんの……」
「大丈夫ですか!!」
アクトが近づく。
「ああ……すまん、あんさんとの約束は守れるかわからんわ……」
「ソンナ事イワナイデ下サイ!!」
ドラゴンが悲痛な叫びを上げる。
「全く……相手を舐めるとかアホな事したわ……」
「そんな……自らを責めるのは後でも出来ます。今はまず傷を」
「ああ、やってみるが……痛い、意識が……ちょっと……」
出血が酷いせいか、ヴェルムの意識は朦朧としていた。自ら治癒魔法を唱えようとしたが、それも叶わない。
「ああ……もう目が霞んできたわ……。悪いのぉ、あんさんの提案は呑めないかもしれんわ」
「気をしっかり持って下さい!!このままじゃアイツの、レヴェルの思い通りです!!」
「だが……ちょっと辛い……」
「ダレカー!!医者ヲ!!治癒師ヲ連レテコイ!!」
部下達が叫んでいる。が、混乱の最中にあるこの会議室では、その悲痛な叫びが届く事は無かった。
「何か……何か無いか……せめてレヴェル共を追っ払えれば……!!」
アクトはあたふた周りを見渡す。シーリアはレヴェルと戦っているが、その剣を避ける事に注力しているため、防戦一方になっている。彼女のスキルすら無効化するであろう剣、避けざるを得ない。アインは攻勢に出ているが、レヴェルの部下ーー元は人間であろうその数に圧倒されている。ツヴァイと意外なコンビネーションを見せているが、それでも拮抗状態に持っていくのが精一杯である。リンガは逃げている。
「僕も戦うしかないか……」
だがこの狭い部屋の中では真価を発揮する事が出来ない。ここがナクール城のように広ければまだ良かったのだが。
「何か、何か手は無いか……」
ポトリ。
焦るアクトの前に何かが落ちた。
それを手に取り良く見る。見なくても分かったが、それでも良く見た。
殻だ。
未鑑定品。
魔物が多数居て、魔王まで居るこの場である。未鑑定品が出てきても不思議では無い。
アクトは急いでそれを『鑑定』する。このタイミングで、魔王という絶大な魔力を持つ者がいて、更にこの魔物多数、老廃魔力多数の状態で生み出された物である。もしかすると、もしかすると、何か突破口になるような物があるかもしれない。
ナイフで切り取り、殻の中のアイテムを取り出す。
「……なんだこれ」
それは武器ではなかった。期待にそぐわない物が出てきた事に落胆の表情を浮かべるアクト。
「ブレスレット?」
腕に嵌める防具だった。
「いや、今こんな物あっても……」
ボヤきつつもその能力を見極める。もしかすると何かこれが、突破口になりうる能力をーー
「は?」
ーーその表情はすぐに困惑へと変わった。それはアクトも全く予想出来ない能力だった。
『人間化』
鑑定して見極めた能力はこの一つのみであった。
「……意味が無い」
レアな能力なのは間違いない。こんなもの見た事が無いし、アイテム自体が秘めている魔力も相当の物である。だが意味が無い。今欲しいものではない。元々のアクトなら喉から手が出る程欲しい物だったが。
ーーアクトはチラとシーリアを見る。苦戦している彼女を。
ーー今は違う。
今欲しいのは、彼女を守る力。
人間になったところでなんだと言うのか。今はーーそういうわけではない。
「……」
だが、それでも、もしかすると。
何かが彼の中で訴えていた。
この場に生まれたこのアイテムに、全く意味が無いーーという事も勿論有り得る。だが、何かの予感がしていた。人間化という一言に、何か別の意味が込められているような気がしていた。
「いち、おう」
アクトは恐る恐るそれを身につける。
ドクン。
付けた瞬間、ブレスレットが輝き始めた。
赤い宝玉とベルトだけだったそれが、突然、アクトの肉体と反応し、姿を変え始めた。
「ん?」
その宝玉の下に、何かを挿入する空間が生まれた。そしてその空間にちょうど収まる、元の世界で言うと、比較的大きめのカードゲームのカードと同じくらいのサイズの大きさの物体が、彼の手の平へと生み出された。そこにはドラゴンの絵が描かれている。
「……え?」
アクトは呆気に取られた。
なんだこれ。
付けた瞬間に、電流のような物が走ったかと思うと、突然形を変えた上に何かを生み出した。意味がわからない。
しかも生み出されたカートリッジには何かがある。
「……ボタンだ」
押せと言わんばかりに存在するボタン。なんでこんなものがあるのかは分からないが、それでもこれは押すしか無い。そんな気がして。
ーーボタンを、押した。




