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4-3 襲撃

「通すな!!」


 その名を聞いたアインが真面目な顔で叫んだ。


「今すぐ殺してもいい!!絶対にこの部屋には入れてはならないであります!!」


「え?いや、しかし、既にもういらしておりますの」


 言いかけたその時、警備兵が真っ二つに切り裂かれ、最後まで言葉が紡がれる事は無かった。


「ハァイ。魔王様が来ていると聞いて駆けつけたよ」


 警備兵を文字通り分け入り、血を浴びながら出てきたのは、アクトが忘れる事の出来ない相手、魔人レヴェルであった。


「いやぁ、この国の警備はザルね。このカードがあるだけで顔パスだったわ」


 レヴェルはエレアの姿を捨て、元の魔人の姿に戻ると、首元のカードをプラプラと見せつけるように振り翳した。


 アクトは内心、この国のセキュリティはどうなってるんだと嘆いた。だがこの世界においてはまだセキュリティという概念自体が殆ど無いのを考えて口を噤んだ。勿論全く無いわけでは無い。身分証には魔法が掛けられており、照合魔法により身分証が正しいかどうかを確認出来る。元の世界で言えば公開鍵暗号方式のそれが既に確立されていた。


 だがレヴェルはそれを凌駕出来る。何故なら今彼女はエレア・ナクールその人であり、ナクール王国の発行する身分証を偽造する必要性すらなく、正式なそれを手に入れる事が出来る立場だからである。


 だから兵士を悪くは言えない。これは仕方のない事なのだと自分に言い聞かせながら、次にどう出るべきか、それを考える事にした。


「レヴェル。レヴェル・ジェイルメンド。直接会うのは初めてやな?」


 アクトの思惑とは別に、魔王ヴェルムが人間達の前に立ってから歯噛みしながら言った。


「何でこないなとこに来たんや。まさか我を殺すつもりやないやろうな」


「そのつもりですよ?人間界にノコノコと現れてくれた無能な魔王様。まさしく完璧なタイミングでした。魔界のスパイから連絡を受けてすぐに動きましたとも」


 ヴェルムの額に血管が浮き出た。


「無能、と。随分な物言いすんのう?」


「事実ですから」


「我を殺す?それが無理なのはテメエは十分知っとるよな?魔界で知らない奴はおらんて」


「勿論。ですがそれでも私はここにいる。その意味を考えるべきでは?」


 そう言うとレヴェルは転送魔法で剣を取り出し、振りかぶった。へっぴり腰で全く力が込められていない。


「無駄な事すんのう」


 ヴェルムはレヴェルを嘲笑うと、何もせずにそのまますっと立ち続けた。


 ヴェルムは確信していた。自らの体を傷つける事は、否、傷つける事は出来ても殺す事は出来ないと。


 何故なら彼のスキルは『無敵』。シーリアと同じものである。だから効かない。剣ごときで魔王を殺すなど不可能である。



 ザクッ。



 ――不可能のはずであった。


「……れ?」


 ヴェルムの肩に剣が入り込み、そのまま左脇までをさっくりと切り裂いた。ポトリと腕が落ち、赤く燃え盛るドラゴンの血が吹き出し、床を灼いた。


「ぐ……何……?」


 ヴェルムがよろよろと倒れ込むと、それまで余裕のあった彼の部下達が慌てだした。


「ドウイウコトダ!?」


「大丈夫デスカ!?」


 漸く庇うように魔王の前に立ちふさがる部下のリビングアーマーだったが、それもレヴェルはいともたやすく切り裂いた。


「ははははははは!!す、素晴らしい!!」


 他方、レヴェルは震えていた。感動と、そして今まで振るった事の無い剣の重みに。


「さ、流石だ!!これだ!!これを求めてわざわざ人間界に来たんだ!!」


 その言葉の意味がアクトには理解出来なかった。何かの聖剣だろうか。いや、その剣はどこにでもありそうな普通の鉄の剣だった。――一見する限りでは、だが。


「違う!!」


 アクトは思わず叫んだ。


「スキル無効化の能力が付いている!!」


 アクトの目、鑑定のスキルを通したその目で見るとはっきりと分かった。スキル無効化という能力が付与されている事に。



 そこでアクトの脳裏に一つの仮説が、電撃の如く閃いた。


 人間の魔物化。


 スキル無効化の能力。


 レヴェルの狙い。


 無敵の魔王。



「このためにナクール王国を!?」


 その叫び声にレヴェルは悪魔のような笑みを浮かべた。


「そう!!人間界でなければ生まれないマジックアイテムを求めて!!魔物化させる材料の多いあそこを選んだのさ!!」



 つまりこういう事である。


 レヴェルの目的は、魔王ヴェルムを殺し、自らが魔王となること。


 だがヴェルムは文字通りの『無敵』。剣でも魔法でも傷をつける事は出来ないだろう。


 そこで彼女が目をつけたのが未鑑定品、そこから発見されるマジックアイテムである。


 マジックアイテムの中には強力な能力を有するものがある。その中にはスキルを無効化するものもあるだろうと彼女は考えたのだろう。


 人間界をその場所に選んだのは、彼女の言が正しいとすれば、人間界でなければ未鑑定品が生まれないからだろう。


 アクトはこの時点では知らないが、事実、その通りである。


 魔界には大気中に古い魔力を餌にする微生物が存在するため、古い魔力と新しい魔力の反応が起きづらい。そのため未鑑定品があまり生まれない環境になっている。他方人間界には、元々魔力の存在する場所が少ないため、そうした微生物は存在していないのである。



「迂遠な計画!!だからこそバレないでここまで進める事が出来た!!」


 手を震わせながらレヴェルは勝ち誇る。


「痛いでしょう?!ヴェルム様!!すぐに楽にして差し上げますよ!!ははははは!!」


 高笑いと共に再び剣を振りかぶる。護衛のドラゴンがそれを止めようとするが、間に合わない。



 ガキィン。



 が、それを受け止める者は居た。


「ぐっ!?」


「むざむざ殺させるものですか……!!特にアンタには!!」


 そこには持っていた盾で剣を受け止めたシーリアの姿があった。

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