3-10 追求
「ゔぇ!?え!?なにこれぇ!?どういうことぉ!?」
リンガは頭を抱えた。ツノが手に刺さりかけて慌てて耳に手を当てた。
今この姿になるべきではない。なってはいけない。なのに何故唐突に魔法が解けたのか。
「今の水か!?」
「その通りよ」
女の使者が言った。
「アンタが魔人であると当たりをつけてコイツが薬を盛ったのよ」
「当たって良かったよ。間違ってたら国際問題になりかねないからね」
男の使者がしみじみ言った。
「なななななな、何故!?」
何故バレたのか。何故魔法を解いたのか。そもそもこいつらは何なのか。混乱するリンガの頭では何もかもが処理出来なかった。
「まず君の正体を暴いたのは、それを見せたい相手が居たからだ」
男はそういうと、宙空に向けて声を発した。
「見ておりますかー?アイン様、ツヴァイ様ー」
『見ているであります!!』
『どうやら私たちはまんまと騙されたようなのです』
二人の怒気を孕んだ声が宙空から返ってきた。
「……はへ?」
「中継させてもらいましたよ。二人の誤解を解いて、内戦を終わらせるために。内戦を終わらせるのに手っ取り早い方法は何か?一つ思いつくのは、その矛を別のところに向けること。そしてそれが終わったら休戦してはい終わり。それがまぁ手っ取り早くて犠牲も少ないというものなのですよ。その矛を向ける先が、そもそもの内戦を招いた相手なら更に好都合というもの」
男がしたり顔で言った。
「そういうわけでこの立場を利用して、会談の場を設け、そして貴方の正体を暴いた。こういうことです。ああ手紙は貴方が会議に言っている時に拝借致しましたよ」
「なっ、な、ななななななな」
『そういうわけなら仕方ないでありますな、ツヴァイ』
『そうなのですね、アイン』
『一時休戦とするのであります』
『そして攻撃先を変えるのです』
『敵はお前だ』
『ドライ』
二人の女性の怒りに満ち満ちた声が上がる。通信魔法を経由しても尚その迫力は健在であり、思わず、
「ひぃっ!?」
とリンガが腰を抜かした。
「さて」
男の使者が口を開いた。
「お聞きしたい事がありますが、死ぬのと口を開くのどちらが良いですか?」
男の方の使者ーーアクトがニッコリと笑みを浮かべながら言った。
「ば、馬鹿にしてるなぁ……?」
リンガはヨロヨロと立ち上がると、魔法の詠唱を開始した。
「人間如きが僕をハメようなど無駄な事を……!!『燃え尽きよ、業火炎』!!」
建物の中という場所を全く意に介さず、超強力な魔力の火球を生み出す魔法を唱えたリンガ。魔人の体の前に巨大な火球が生まれ、熱で会議卓が燃え始める。
「死ねぇ!!」
月並みな叫びと共にその火球が放たれた。人間大の火球がアクトに向かって一直線に進む。
「おっと」
そう言って前に立ちはだかったのは女の使者、シーリアである。
彼女が盾を翳すと、その火球がまるでその盾に吸い込まれるかのように収縮し、そして消えていった。
「……え……?」
「悪いわね。アタシ無敵なの。まぁ無敵じゃなくてもこのくらいなら余裕だけど」
シーリアが言葉とは裏腹に悪びれた様子もなく軽く言った。
「さて」
アクトがパン、と手を叩いた。
「本題に入りましょう。……ジャンベールに使者を送ったのは貴方ですか?」
表情が凍りついていたリンガであったが、どうやらこの男、いや女の方が問題かもしれないが、ともかく二人に逆らう事は出来そうにないという事を理解した。
逆らうのであれば、それこそ、男の言う通り、死を覚悟せねばならない。
リンガは今ここで次期魔王の座を失う事は耐えられなかった。
「……はい。その、ヤツは……」
「死にました。魔王という単語を口にして。あれは貴方の仕組んだ事ですか?」
「はい……。情報漏洩防止のため、魔王様の事について話そうとしたら死ぬようにしておきました……」
「では貴方が話しても死ぬことはありませんね」
アクトはニヤリと笑みを浮かべ、リンガはハッとなった。
こいつは魔王様の情報を引き出すつもりなのだ。
「……や、いや、その」
「ご心配の点は理解してますがーー」
アクトが目配せをすると、シーリアが頷き、ドンッと机に拳を叩きつけた。
金属で出来た机はひしゃげ、バキィッという音と共に崩れ落ちた。
「ヒッ」
「こうなるか、洗いざらい話すか。どちらか選んで下さいね」
「早く選ばないと強制的にこうなるわよ」
アクトとシーリアが満面の笑みを浮かべながら言った。




