3-7 会議は激しく躍る
シーリアがアクトに話した内容は次のようなものである。
まず、シーリアが現地に潜り込んだ時は、丁度会議の開始時間だったらしい。
そこにはドライとアインだけがいて、ツヴァイはいなかった。
それから1時間。アインが足をバタバタとイライラしながら動かす中、ツヴァイが入ってきた。
「おやー、お二人共お揃いで「遅いであります!!」
ツヴァイの言葉を遮ったのはアインであった。
「開始時間は1時間前でありました!!何故遅れてきたのか!!理由の説明を求めるであります!!」
「1時間前?いや、私はこの時間だと聞いたのです。ドライの部下から「その耳は飾りでありますか!?」
「まーまーまーまー、二人とも落ち着いてぇ。何かこう、手違いとかがあったんでしょー。ここで言い争っても仕方ないですよぉ。本来の議題に「お前は黙ってるであります!!」
ドライの取りなしを、アインはピシャリと吠えて止めた。
「……まぁいいであります。座れ」
アインの指示に、不貞腐れた様子で渋々従うツヴァイ。
「あ、あはははは。まぁじゃあ、本題に入ろうねぇ。最近魔界からの侵攻が激しい件について。ジャンベールの使者から話があったけど、支援を依頼するのもアリだと思うんだけどぉ、どうかなぁ」
「却下であります」「賛成なのです」
「ああ!?」「んん!?」
アインとツヴァイが同時に声を上げ、同時に威嚇した。
「ややや、やっぱり意見真っ二つだねぇ……。僕としては国民の保護のためにもぉ、手は打つべきだと思うんだよねぇ。……国内にある魔導兵器を外に出す、とかさぁ」
ドライは苦笑しながらも、ちくりと嫌味に近い事を言った。
痛いところを突かれたと思ったのか、しばしアインとツヴァイはドライを静かに睨みつけて、
「……ワンダラーの一族を守るためにもそれは出来ないであります」
「こちらも同様なのです。どこぞの好戦的な阿保がその銃口を国内に向けなければいいだけなのです」
「どこかの心配性の馬鹿がその銃口を国外に向けたら考えてやるであります」
そう言って二人は再び睨み合う。
「はぁ。……このままじゃあさぁ、埒が開かないよねぇ。……そうだなぁ。もうそろそろこの三巨頭体制も無理があるんじゃないかなぁ」
ドライは唐突に言い出した。
「せめて二人のうちどちらかがちゃんと話を聞いてくれたらなぁ」
独り言のつもりなのだろうか。だがそれはしっかりと声に出ている。
「私はちゃんと聞いております!!この阿呆が聞かないだけであります!!」
「私はちゃんと聞いてるのです!!この馬鹿が聞かないだけなのです!!」
「なんですと!!」
「なんなのです!!」
また睨み合う。だんだん二人の額には血管が浮き出ている。本当に互いのことを好かないのだろう。波長は合っているようなのだが、だからこそなのか、憎しみが表に出始めていた。
そこから始まったのは極めて低レベルな言い争いであった。
アイン・ツヴァイ個人の悪口から一族郎党の特性まで、様々な暴言が飛び交う。シーリアも言葉に詰まるほどに醜い言い争いを繰り広げる二人に対し、ドライはどちらを咎めるでもなくぼんやりと見ていた。
1時間程不毛なやり取りを経て、アインが遂に口を開いた。
「もう我慢の限界であります!!ドライ!!お前が言う通りにしてやるであります!!」
「えぇ?どういうことぉ?」
ドライは汗をかきながらアインに尋ねる。
「ワンダラー家の総力を以って!!この阿呆共を根絶やしにしてやるのであります!!」
「本気なのです!?本気で言ってるのです!?」
ツヴァイが立ち上がり力の限り叫ぶ。
「本気に決まっているであります!!そもそもずっと気に食わなかったのであります!!魔導兵器を無駄に国内に配置した辺りから!!」
「そっちがずーーーーーーーーーっと喧嘩を売ろうとしているから自衛の為なのです!!」
「喧嘩を売ろうとしているのはそっちであります!!」
「そっち!!」
「そっち!!」
「ちょちょちょちょちょ、落ち着いてぇ……」
だがもはやドライの事は二人の視界から消え失せていた。
「「『届け我が声、呼び出し』!!」」
アインとツヴァイが同時に通信魔法を唱え、
「砲撃!!」
「開始!!」
叫んだ。
ドォォォォォォォン!!という炸裂音がワンダラー家とツーレイン家の区画から響き、ここスリーブ家の区画の、二人が泊まっている宿屋まで聞こえてきた。
「……その後は滅茶苦茶。互いに転送魔法で消えて、ドライだけが残された」
バババババババババ!!というゴーレムの魔法による攻撃音が轟き、シーリアの神妙な言葉を邪魔する。
「その後ドライは笑いながら場を後にした。確かにアンタの言う通り、ドライは少なくとも魔物に与してると考えてよさそう。だけど」
「問題はこの状況、だね」
アクトは頭を抱えながら言った。
内戦が始まってしまった。
極めて下らない理由で。
だが戦いは大概そんなものなのかもしれない。
始まってしまった以上、そこについて考えても仕方がない。
止める方法の方が重要である。
「……原因となった奴を生贄、というわけではないけれど、「こいつが犯人です!!」と突き出すしかないかもしれない。それで止まるかどうかは分からないけれど、少なくともアインとツヴァイは振り上げた手を下ろす切欠にはなる」
アインとツヴァイの統治がどれほど厳格かは分からないが、指示通り砲撃が開始されるあたり、指示は聞くようである。つまり二人を止めれば戦いも止まるかもしれない、という事になるとアクトは考えた。
「止まらなかったら別の方法を考えるとして、だ。まずはあの二人を止めなければならないのは間違いない」
アクトは懐から書類を取り出して言った。
「生贄を用意しようか」




