3-5 侵入準備
この世界において、透明化の魔法というものは開発されていない。
何故か?
危険だからである。
透明になれれば好きな時に好きな場所に入り込む事が出来る。
それはメリットであるが、同時に自分がやられた場合の事を考えればデメリットでもある。誰が忍び込んだか分からないのだから。その透明化の技術が精巧であればあるほどメリットもデメリットも高まっていく。
そうした経緯もあって、全世界統一宗派たる魔法協会においては、透明化の魔法をはじめとする幾つかの「悪用されれば危険な魔法」に関する研究の禁止が合意された。
研究が発見されれば即座に焚書、そして最悪の場合死刑が言い渡されるほどの重い処罰が課せられる。こうした魔法は、一般的には「禁忌魔法」と呼ばれている。他には寿命に関する魔法や、瞬間移動に関する魔法がそれに該当する。
とはいえ。
人の業とは深い物である。
黙っていればバレないと考えて研究する者も多々存在している事は、周知の事実である。
だがそれでも未だ透明化の魔法は実用化には至っていない。何故か。
それは単純に難しいからである。
人の体の周りに光を透過させるフィールドを作り出すという事でそれは実現可能であると仮説が立てられているが、光属性の魔力は扱いが難しく、少し間違えるだけで光量が上がり人の体を灼き尽くすなどの事態を起こしやすい。そのため、理論自体は出来ていても、実際に完成には未だ至っていないのが現状である。
「だがっ」
アクトは懐からスクロールを取り出してふふんと胸を張った。
「ドラゴンの巨体と知識、魔力制御技術を会得した僕ならば、こうした禁忌魔法も簡単……とまでは行かないが、理論さえあれば組み立てる事は容易なのさ」
実際には相当の時間を要した。魔法の解除よりは基礎研究が公開されていた事もあり容易だったとは言えるが、それでも人間変化の魔法のように、一から作り出すよりは遥かに楽であった。
「それで?そんな危ない魔法持ち出して何をするっていうの」
「忍び込むに決まってるだろう。僕は主にドライの塔へ行って未鑑定品が無いか探る。君は三人の会合場所に忍び込んでどんな話がされているのか探る」
「ええ……?アタシも巻き込まれるの……?」
「仕方ないだろう。適材適所、というか、単純に人手が足りないんだから。はいコレ、透明化の魔法のスクロール。効果時間は2時間くらい。効果が切れる前に逃げ出してくれ。これは瞬間移動の魔法のスクロール。この宿に戻れるように設定もしてある」
アクトはスクロールーー魔法の構成式を書き記し、広げて魔力を込める事で、本来使う事の出来ない人間であってもその魔法を使えるようにした書物ーーにサラサラと追記をしてシーリアに渡した。
瞬間移動は禁忌では無いが、行ける場所には限りがある。スクロール或いは魔法の使用者が行った事のある場所で、かつ魔法にその場所を組み込む必要がある。スクロールであれば追記するという形で、魔法であれば術式に登録するという形で。今アクトが行った追記がそれである。
「バレたら死刑ね」
そう言いながらもシーリアはそれを受け取った。
「どのみち僕らがナクールの連中に捕まったら死刑だし、そもそも魔物に世界を乗っ取られたら死刑の方が楽な場合だってある」
「まぁ……それはそうかもしれないけれど」
「安心したまえ。ジャンベールは魔法協会に属していない。この件がバレても即死刑にはなるまい」
「うーわ安心出来るぅー」
シーリアはうんざりした顔で言った。
「……仕方ない。いいわよ。乗ってやるわ」
「そうこなくっちゃ」
アクトはニヤリと笑みを浮かべた。




