3-4 ドライ・スリーブ
「いやいやいやー、どうもどうも。お待たせしましたぁ」
三人目。ドライ・スリーブが間延びした口調で応接室へと入ってきた。金髪でローブに身を包んだ若い男性である。
「やーすんませぇん。あのぉ、明日の会議に向けての準備とかがありましてねぇ」
「いえ、こちらこそお忙しいところ訪問してしまって申し訳ありません。ところで、会議ですか」
「ええ。アインさんとツヴァイさんとの方針検討会議ですねぇ。あのぉ、今後の国の運営方針を決めにゃーあかんわけですがぁ、まぁー、まとまらないんですよねぇ。あれでしょぉ?お二人ともぉ、アインさんとツヴァイさんにはお会いしてますでしょぉ?この国に来た人はみんなそーいう順番でいらっしゃいますからねぇ。まぁ抱いた印象は色々あるとは思うんですけどぉ、……お二人の印象通りの方々ですから」
のほほんとした口調でゆっくりと話す彼の言葉はパッと聞いた感じではふんわりと柔らかい印象を受けるが、アインとツヴァイの両名に関しては良い印象を抱いているようには見えなかった。少なくともアクトには、若干の棘が見えた。
「ははは。まぁどこにでも扱いに苦労する人というのはいらっしゃいますので」
シーリアはその言葉に微妙に引っかかるものを覚えたが、今は気にしない事にした。
「さて、我が国としましては友好国として伺っておきたい事がございまして」
「なんでしょー」
「友好国として、貴国の魔界との戦闘の状況について伺いたく。と言いますのも、必要とあらば我が国としても支援をと思いまして」
アクトはアインとツヴァイに尋ねた内容をそのまま伝えた。
「はははぁ、問題ありませんよぉ。今は色々と揉めておりますがぁ、それでも十分に対応できてますのでぇ」
色々と揉めている、という言葉の意味はアクトにもおおよその察しがついた。
「それは安心しました」
「"あの"お二方はなんと?」
「お二人とも回答は同じでした」
「うむうむぅ、まぁ良かったというところでしょーか。僕も二人の意向をちゃーんとつかめているというところですかねぇ。ちょっと安心しましたよぉ」
「ですが、アイン様は攻勢に、ツヴァイ様は守勢一辺倒で、方針に関してはどうも一致を見ない様でしたが……」
「あの二人は本当に仲がねぇ。まぁ何れに転んでも大丈夫ですよぉ」
「左様でしたか。安心しました。私共としても犠牲が増える事は勿論望む所ではありませんので。……ところでお聞きしたいのですが、ドライ様としてはどのような方針なのですか?」
「僕ですかぁ。僕は……国民の皆さんの意見を踏まえるだけですのでぇ。あまりこう、ちゃんとした気持ちというのは特にないのですねぇ」
それはそれでどうなんだ、という言葉が、アクトの口から出かかった。
「ですが強いて言えば、そうですねぇ、魔物は魔物で色々あるでしょうからぁ、手は出したく無いですねぇ」
「そうですか。確かに、魔物にも生活がありますし。ですがそうも言ってられない世の中ですから、なかなか、ね」
「ですねぇ」
あはは、という笑い声を上げる二人であったが、その片方であるアクトとしては、内心この男を怪しんでいた。この世界において、魔物に同情する者は少ないーー魔物を調教するテイマーなどを除いて、大概の場合は魔物に殺意を抱いている。
だがドライの今の言葉には、同情の色しかなかった。恨み辛みの感情ではなく、ただ只管に善意ーーなのか、それとも別の感情なのかは分かり兼ねるが、少なくとも悪感情を抱いていないように受け止められたのである。
その後会話を続けても大体の内容は軽い世間話程度に止まった。と同時に、アクトのドライに対する心象を大きく変えるような内容ではなかった。
「さて。私はこの辺りで失礼致しますぅ。皆様はまだこの国に滞在されるのですかぁ?」
「ええ。差し支えなければ、ですが」
「勿論私としては歓迎ですよ。そちらの国の状況ももっとお聞きしたいですしねぇ。他のお二人は分かりませんが……。まぁー、大丈夫でしょう。何かあれば私に相談してくださいねぇ」
そう言ってドライは優しく微笑んだ。
「さて」
宿屋に戻ったアクトはシーリアに言った。
「誰が怪しいと思った?」
「……全然わからん」
シーリアは頭を傾げた。
「え?分かりやすいだろう」
アクトがそう言うとシーリアの目が縮こまった。
「分かりやすいぃ?誰よ」
「ドライ。まぁ確証はまだ無いけれど」
「何か引っかかった?」
「まず、ドライの立ち位置からして、国を転覆させるには丁度良い。ドライはアインとツヴァイの意見を取り持ちつつ、どちらかの意見を採用させる事が出来る立ち位置だ。それは、彼が実質的に国の方針をコントロールしているという意味でもある」
「……まぁそれはあるけれど、それだけで決めつけるのはどうなの?」
「まだある。そもそもあの特使について誰も触れないのがおかしい」
「特使……ああ魔物だったあれ?」
「そう。彼はどうした?と尋ねてくる者が誰も居なかった。これが怪しいと睨んでいる。いいかね、アインが派遣したならばツヴァイが、ツヴァイが派遣したならアインが必ず尋ねるはずだ。二人は対立しているんだから。だが二人は一言もそれに関して触れなかった。互いに知らされていない可能性もあるが、それだとしてもあの二人が尋ねてこないのは不思議ではないかい?あれだけペラペラと事情を喋ってくれる、口に板を立てられない様な二人が」
「……確かに」
「となると可能性として、ドライが派遣したという可能性が浮上する。アインもツヴァイも、ドライの事は眼中に無いから話題に出さなくても不思議では無いが、ドライが話題に出さないのはおかしい。とすると、バレた可能性を考慮して話に出さなかったんじゃないか?という話になる」
「うーん、まぁ理解出来なくはないけど、仮定に仮定を重ねてるだけよね、それ」
「勿論だ。そして、アインやツヴァイが実は見た目以上に強かで、特使も二人のうちどちらかがこっそりと派遣していた、という可能性も捨てきれない。もっと言えば、ただ忘れているだけという可能性すらある。ああいう人間は得てして忙しいからね」
「なんだ、じゃあアンタの勝手な妄想じゃないの」
「だからこそ確証が必要なんだ」
「確証、ねぇ。具体的には何よ」
「僕の職業は何だと思うね君」
アクトはそう言って、ドライの塔を見つめた。
「鑑定士だよ僕は。未鑑定品を探すのさ」




