3-1 三又の国
ルフト共和国は、三名の「スリーオーダーズ」と呼ばれる主導者達により作られた国家であり、殆どの住人はその何かの家系に属している。地理的に極めて魔界に近く、魔物との戦いの最前線ということもあり、結束力が重要となることから、互いの結びつきを強くする傾向にある。
代々、各家系の当主が当代のスリーオーダーズとなり、その三名による合議制で意思決定が為される。
さて、当代のスリーオーダーズは、他国からも知られる程に仲が悪かった。魔界の侵攻は待った無しに進んでいるにも関わらず、下手をすれば内戦を起こすのではないかと噂される程である。
一人目はアイン・ワンダラー。女性。防衛と領土の管理を主に担当している。強国を目指す過激派で、周辺国への侵略による領土拡張を訴えている。
二人目はツヴァイ・ツーレイン。女性。財務と衛生の管理を主に担当している。アインとは逆に穏健派で、とかく周辺国との融和による戦争の回避と内政の拡充を訴えている。
三人目はドライ・スリーブ。男性。外交と二人以外の担当範囲外の庶務を担当している。バランス派で、国民の声に過敏。二人の意見を聞くだけで自分で意見を出す事は殆ど無く、ドライが他の二人の政策に賛成/反対する事で国としての方針が決まる、という事が大半である。
問題はアインとツヴァイ、そしてワンダラー家とツーレイン家の対立である。
特に数ヶ月前からその対立は強烈になった。毎日のように二つの勢力間で怒号が巻き起こる。お題は様々であるが、その殆どが魔物との戦いについてである。
ワンダラー家は魔物を殲滅すべきとし、その為にも戦力の拡充と領地の拡大をすべきと訴える。
ツーレイン家は領地の拡大については他国への侵攻にも繋がりかねないとして反対し、魔物の殲滅についても、住民に対する被害が増えることが考えられるため反対。魔物との不可侵条約を締結すべきとさえ訴えている。
他国、特に隣国からすれば、ルフト共和国が陥ちれば被害を被るのは自分達。不可侵条約などもっての外だが、かと言って領地の拡大をされるのも困る、だが戦力自体は、魔物との戦いの最前線ということもあってルフト共和国の方が圧倒的という、目の上のたんこぶ、頭痛の種であった。
それをなんとか制御しているのがドライ、そしてスリーブ家である。彼は調整役でもあり、とにかくバランスを崩しやすい二人の意見を取りまとめ、国民の声を聞き、賛成/反対を決める。悪く言えば風見鶏であるが、だがその嗅覚は高く、彼が国民の意見に反する政策に賛成した事は無い。彼のお陰で今代の三巨頭体制が成立していると言っても過言では無い。
とはいえ、ここ最近の対立については、完全に国民も各派閥ごとに意見が真っ二つに別れている。そのため、それぞれが行動を起こさないように静止させることが手一杯であった。
一触即発の火薬庫、それが今のルフト共和国である。
以上の内容はアクトも噂程度に耳にしていたが、実際にルフト共和国に足を踏み入れると、この三巨頭体制が目に見える形で現れている事に驚愕させられる事になった。
「いつ見ても呆れる構造よ」
シーリアが呆れたような声を上げた。彼女は騎士団長として何度か訪れた事があった。それもあって顔を少し変えている。鎧の国章もーー反逆者扱いを受けたという事もありーー上から別の金属を貼り付けて消している。
「僕は初めて見たけれど、……呆れを通り越して感心するよ」
街の入り口で彼らは思わず立ち止まった。
共和国全体を大きな壁が囲い、入り口は三箇所。そこから真っ直ぐ大きな通路を通り、円形の広場に出る。そしてそこから、扇状の空間に繋がる三つの門がある。それがそれぞれ、アインが管理する区画、ツヴァイが管理する区画、ドライが管理する区画に繋がっている。つまり、国全体が物理的に三つの区画に分かれているのである。
「この体制が変わったらどうするつもりなのやら」
「さあ。その前にどこまでこの国がーーモガ」
保つかどうかわからない、とシーリアが言おうとした時、その言葉を察したアクトが急いでその口を塞いだ。
「バカ、その国民の前で悪口を言おうとするアホが何処にいるんだ」
「モガガ(ごめん)」
「はぁ……気をつけてくれ。明らかにピリピリしてるんだから。火種をわざわざ作る必要は無いだろ?」
シーリアが辺りを見回すと、確かに睨み合っている人々が多数居る。どちらかがワンダラー家の人間で、どちらかがツーレイン家の人間なのだろうか。
「ごめん、気をつける」
「うん。そうしてくれ。とりあえずは誰に会えばいいのかな?」
他の観光客や外交官に聞こえないようにシーリアにアクトが尋ねると、彼女は答えた。
「まずはアインから。これは殆ど決まりみたいなもの。アインの区画は代々好戦的で、かつプライドが高いの。だから他の連中より先に行かないと、すぐ拗ねて話を聞いてくれなくなる。会話にも注意ね。少しでも言葉選びを間違えると大変な事になるわよ」
「……初っ端から面倒だね。まぁ気をつけようか」
アクトは肩を落としながら、アインの管理する区画へと足を踏み入れた。




