2-9 後片付け
「君の言う通り。先日来賓として迎えていた者が行方不明になっている。そして、あの部屋から、相当量の未鑑定品も見つかった」
数時間後、合流した皇帝に事情を説明したアクト達は、兵士達に調査を指示した皇帝からその調査の結果を聞く事になった。
「……レアアイテム。悪魔のような高等の魔物で無ければ落とさないようなものです」
未鑑定品の殻を切り離し、鑑定スキルでそれを同定しながら、アクトが言った。
「やはりか。つまり君の考えは正しかったという事だな」
「はい。悪魔が来賓に化けていた可能性が高いと思われます。この切れ端もそれを物語っています」
そう言って彼は、現場に残された服の切れ端を取り出した。そこに残っているのは、三つの扇の中央にフルートが描かれた、ルフト共和国の国章であった。
「申し訳ありません。私が変身するところを確認していればより確証が得られたのですが」
「いや、どの道変わるまい。相当前から入れ替わっていなければこんなもの見つからん。だろう?」
「そこは、はい」
「来賓というのはいつから来ていたのですか?」
シーリアの問いにニールは深く頷いた。
「一週間程前に来た。ルフトの外交官という名義でな。ちゃんと身分証も持っていた。魔物の入れ替わりなどという発想が我輩にもなかったので、魔法解除の確認は怠っていたのが失敗だったな」
ニールは大きく溜息を吐いた。
「問題は。これをルフト共和国が知っていたかどうかだろうな」
アクトは大きく頷いた。
「知っていなければまだマシといえます。道中で成り代わられた。こちらに来てから成り代わられた。そういう可能性が考えられますから」
「ああ。知っていたとすれば問題だ。それはルフト共和国が魔物と、魔王と手を組んだ可能性を示唆する。……どうなってるんだこの世界は」
ニールは頭を抱えた。
「無いと信じたいものだ。一国は魔物に乗っ取られつつあり、もう一国も乗っ取られているか、下手をすれば魔物と手を組んでいる」
「この世界で魔物連中が陣取り合戦でもするつもりかしら」
「冗談にしても笑えないし、本当にその可能性すらあるから困るね」
シーリアの言葉にアクトは乾いた笑みを浮かべた。
「笑い事ではないけれど」
アクトは真顔に戻った。
二つの魔物の勢力が存在する事だけは確かである。魔王とレヴェル。それぞれが別々に同じような行動を取っている。それらが全く関係せず、それぞれ独立した動きである可能性は果たしてあるだろうか?アクトはそうは考えられなかった。
「何かしら関連性がある可能性は高いと思います」
「我輩も同感だ。そして、ルフト共和国が今、我が国にとっても捨て置けない状況にある可能性が高いという事も。そしてあの国が魔界と手を組んでいる、あるいは乗っ取られているとすれば、地理的に人間側が不利になる。あそこは魔界との最前線だからな」
ニールは手を組んでアクトとシーリアに向き直った。
「という事で本題に入ろう。君達の働きには大変感謝している。本来であれば二人を客人として迎え入れたいところだが、今はナクールの動きを見張る必要があるし、下手に刺激する事も出来ない。君達を迎え入れたとなれば、ナクールの反感を買い、戦争の口実となりうる」
シーリアはうんうんと頷いていたが、アクトには彼が何を言おうとしているのか、大凡の予想がついた。自分達を追放、というわけではないが、ジャンベールとして大手を振って迎える事は出来ないという事だ。
「今のところすぐにそのレヴェルとやらが動き出そうとしている気配は無い。その間に、奴らの動きを探る。と同時にルフト共和国の状況も把握せねばならん。そこでだ」
ニールがベルを鳴らすと、兵士が入ってきて、書類をアクトとシーリアに渡してきた。
「我が国の身分証ーー偽名だがーーだ。外交官としての身分を付与している。これを持ってルフト共和国の状況を探ってきて欲しい」
「なるほど」
「え?アタシ達?」
「この事態について一番理解出来ているのは君達だ。君達が適任であると考えている。それに、先程言った通り、我が国としては君達を受け入れていないという体を取りたい。ナクールの油断を誘うためにも」
「……なるほど。厄介払いね」
シーリアが言葉を選ばずに言った。
「まあ、そういう側面もあるが。だが君達の功績を忘れたわけではないし、軽んじるつもりもない。あのままでは悪魔が暴れて要人や我輩が死ぬ未来もあった。悪魔に情報が筒抜けになる未来も有り得た。それを避けられたのは君達のお陰だ。感謝している。だからこそ君達を我が国で保護する土台を作らねばならない」
「先程皇帝陛下が仰った通り、このまま僕達を受け入れれば、ナクールへの宣戦布告にも成りかねませんからね。僕達政治犯ですから」
「ああ……そういえば王様と王女様の暗殺未遂って事になってるんだっけ」
「うむ。すまんが理解して欲しい」
「分かりました」
「まあ、それしかないわね」
アクトとシーリアはその身分証を手に取った。
「頼むぞ二人とも。何か分かり次第これで連絡をくれ」
そう言ってニールが渡したのは、魔法通信機ーー魔法を組み込み、遠隔地との連絡を自由に取る事が出来る機械ーーであった。
「これは我輩の部屋直通だ。必ず我輩が取れる。これで逐次報告を頼む」
その言葉に二人は深く頷いた。




