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14-2 帰還した彼

「という感じで何とかなったよ」


 少し緩めの白衣を身に着けた彼が言った。二年前の肉体に戻った彼には少しだけ大きかったらしい。


「いやあ……心配させてしまった。油断もしてしまった。本当にすまない」


 アクトが頭を掻きながら言う。


 それをじっと、無言のまま、シーリアは見つめる。


 何の反応も無い彼女の姿に彼は若干の困惑の表情を浮かべた。怒られるだろうか?怒鳴られるだろうか?その二つの間にどれだけの差があるかは彼も疑問ではあったが、彼の予想出来る反応としてはその程度であった。


 だから。


 ガシッと肩を掴まれ、距離を詰めたかと思うと、


 彼女にガシッと抱きしめられた時、


 彼は唖然として口を開けた。


「……おかえり、おかえり……っ!!」


 不安だった。戻ってこなかったらどうしよう。助けられなかったらどうしよう。そう思えば思う程、彼女の心の何かはどん底に突き進んでいた。


 彼の姿を認めた時、落ち続けていた彼女の心が急浮上し、常に張り巡らされていた緊張の糸が解れるのを感じた。


 愛しい物を抱きしめる彼女の目から何かが落ちる。


 肩に何かが零れ落ちるのを感じて、彼は彼女の心が怒りでは無い別の物に満たされているのを理解して、彼もまた彼女の体を抱きしめた。


「……ただいま」


 しばし宙空で二人は抱き合い、しかし人間に戻った人々の視線が自分達に注がれているのに気付いて、慌てて距離を取った。


「おほん、えへん」


 アクトがわざとらしく咳をすると、状況が理解出来たのか、シーリアが頬を染めながら離れた。


「ともかく、だね。まだ問題は片付いていない。今の一発で戻せるのはせいぜい迷宮の森ラビリンス・フォレストの中まで。外にはまだいるかもしれない。一度そこまで行こう」


 シーリアが頷く。


「敵の、少なくとも男の狙いは大体察しが付いている」


「え、ホント?」


「魂の時にヤツの顔を覗き込んだからね。……ヤツの最後の狙いはルフト共和国だよ」


 アクトはルフトの三又の塔が聳える南の方を向きながら言った。


「顔をイジっていなければ、だけど。ヤツは本物のドライ・スリーブだ」




 その名を聞いてシーリアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。


「誰それ」


「覚えてないのか」


「ルフト……行ったの何だかんだ前だし、その後ほら、色々あったでしょ」


 確かにとは思いつつも、元とはいえ、国家元首の名前を忘れる騎士団長があるか?と思いつつも、アクトは説明した。


「……魔物であるリンガ・ヂュウガに成り代わられていた奴だよ。アインとツヴァイの仲を取り持つのに疲れて出ていった奴」


 しばしの沈黙の後、シーリアはポンと掌に握り拳を載せた。


「ああ!!居たわねそんなの」


「一応国家元首なんだから覚えておきたまえよ……」


「リンガの方で覚えちゃったわよ。やり取りするのそっちが多かったし」


 アインとツヴァイが共通の敵=レヴェルという存在の登場により和解した後も、政治的混乱を防ぐために、ドライが失踪したという点については未だ国民には伏せられ、ドライの代わりにリンガが間を取り持つという状況が続いている。


「まぁ確かに、付き合いはそっちの方が長いけれど」


 アクトは若干呆れ気味に続けた。


「フードの下の顔はリンガが化けたドライのそれだった。リンガはルフトに居るのは確認してる。だから多分アイツはドライ・スリーブ本人だろう。どういう経緯でレヴェルと手を組んだのかは分からないけれど、リンガの口ぶりから言ってルフトでのアレコレが相当な負担になっていたようだし、恐らく狙いはルフトなんだろうと思う。……まだ確定ではないけどね」


「何れにせよ許せる話じゃないわね」


 シーリアは手を打ち合わせた。


「とりあえず叩きのめして、後はそれから。いいわね」


「異論は無いよ。とにかく森を出よう……と言いたい所だけど」


 アクトは足元の人々を見る。自分達が解放された事は理解出来ても、それ以上は状況がつかめないでいる。見覚えのない種族――ケンタウロスや遠くではサラマンダー達――を見て衝撃を受けているし、不安そうに震えている者も居る。


「この状況を何とかしないと」


 アクトはそういうと、手元のエクストラクター、ヒューマンリリーフカードの装着されたそれに、バードリリーフカードをセットする。


『ヒューマン』

『バード』

『|結合《インテグレイション!!》』

『♪空を舞い!!風に乗る!!ウ・イ・ン・ド・フォォス!!』


 かつてフォーゲルが纏っていた鳥を模した鎧がアクトを包み込む。


「とりあえず元の、フィナに戻ろう」


 アクトはそう言うと、足元に向けて手を翳し、レバーを二回引く。


『ウインド!!』『エクストライニング!!』


 するとアクトの籠手の先から風が生じ、平原全体へと広がっていく。


「一気に運ぶから皆目を閉じ給え!!」


 アクトの叫びによく状況を噛み締められていない人々もとりあえず目を閉じていく。


「吹けよ嵐!!飛ばせ全てを!!ウインディ・トランスポーテーション!!」

『ウインド!!』『カムバックフィニッシュ!!』


 アクトの言葉と共に平原に広がる人の波を風が文字通り押し上げる。


「うわ、う、うわわわわ!?」


 シーリアも、


「なんなんなんなんなんなんなんよ!?」


「どういう状況ですかコレは!?」


 サチとクレスも巻き込まれる。


「広範囲の強制運搬、それがウインドフォースの能力!!というわけで戻ろうフィナへ!!」


「こんな無茶苦茶もう少し説明してからやりなさいよ!!」


 シーリアの怒りも混じった懇願を無視するように、吹きすさぶ風は、しかし巻き込まれた人々を優しく包み込むようにしながら、森を超えて遥かフィナの地まで流れていった。



「あー、……なんかこう……元気、じゃなぁ」


 眼前に居たゾンビ達が突然人間に戻ったかと思うと、そのまま強風に流され空を飛んでいくという、理解の及ばない状況が立て続けに起きて、アクト達と交流があったサーラでさえ、何が起きたのかよく理解できないまま、そう呟くしか出来なかった。

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