13-3 立ち向かう騎士は考える
『トリスタン』『フライングアップ』
ナイツエクストラクターの宣言とともに空へ舞い上がり、
『ガレス』『ウインドアップ』
続けざまに能力を発動し、かつてナクールの人々であったろう動く死骸達を吹き飛ばす。――吹き飛ばすだけ。殺しはしない。死体であろうと、トドメは刺さない。
彼が帰ってくればきっと、そんな希望が彼女にそうさせていた。
「ふぅ、ふぅっ」
肩で息をするシーリア。ホスの村に押し寄せていた軍団はある程度押し返した。しかし第二陣第三陣が迫っている。
「やはり多勢に無勢ですね」
ゴーシュが悲しげに言った。
「ここは人々を逃がすことに注力すべきでしょう」
「そうね……ただ何処にって言うのが問題ね」
シーリアは言うと羽ばたき空へと舞い上がり、サラマンダーの村の方を見る。遮るものない上空からは、サチとクレスが奮戦しているのが見える。だが徐々に押されているのも見える。
どうする?
今から森の外に戻るわけにも行かない。
全員ワープさせるというような能力があれば良いのかもしれないが、残念ながらパワーアップしたナイツエクストラクターをもってしてもそのような能力は発動出来ない。
「くそっ」
分かってはいたが絶望的な状況に、シーリアは悪態を吐いた。如何にシーリアが無敵であっても、他の者は無敵ではないし、物量を巻き返す方法は限られている。
一気にゾンビ達を焼き払う?そうなればゾンビと化した人々を元に戻す事が出来ない。それにさっきも吹き飛ばすに留めたのは、アクトが戻ってくる事を期待しての事だ。今更何を言っているんだ、彼女は自分を咎める。
本当に期待していいのか?
が、シーリアの中の冷静な心がそう問いかけてきた。
彼は本当に帰ってくるのか?
問いの答えは「わからない」。期待はしたい。だが過度には出来ない。奇跡のような出来事を起こしてきた彼とて、死んだ後生き返るなんてことが出来るかどうかは分からない。幾ら遡行する川という神にも等しい力を使っても、誰も使ったことの無いものなのだから、どう転ぶかなんて予想も出来ない。
翻り、更に心は自問する。
自分の力では何とも出来ないのか?アクトが居なければ自分には何も出来ないのか?
「んなわけあるかぁっ!!」
その問いの答えは口から出た。
『ランスロット』『ディフェンドアップ』
叫びと共に能力を発動させる。より硬化した盾でゾンビ達を弾き飛ばす。
「何とかしてやるわよ、少しでも――」
と、視界の隅に何かが映った。宙に浮いたその姿には見覚えがあった。ほんの少しだが、忘れようもない姿であった。
「アイツ……!!」
それはアクトを殺した男の姿であった。
「このぉっ!!」
彼女はそのローブの男に向けて駆け出した。
「あ、ちょっと!?」
ゴーシュの声が下から聞こえたが、彼女にその声を気にする余裕は存在していなかった。
アクトがどうなるか分からない。でもとりあえずアイツだけはぶん殴らないと気がすまない。そんな怒りが彼女を行動させた。
「おやぁ……?」
黒いロープの男は視界の隅に見覚えのある女性の姿を認めた。
「やばい……かもしれないねぇ」
冷静だった彼の顔に少し焦りの色が浮かんだ。
敵対者についてはレヴェルから軽く聞いていた。面倒な奴が二人程いると。
そのうちの一人、アクトは死ぬ、何故なら生物だから。エクストラクターをつける前なら殺せるというのは彼女から聞いた話だ。実際殺せた。
だがシーリアは違う。あれは化物である。彼は"とある理由"により元々知っていた。
固有スキルである無敵=傷つかないという事を差し引いたとしても、特にその腕力たるや凄まじい。魔物一匹ならそもそも攻撃自体を受ける前に瞬殺出来る程の実力を有している。一個師団が本気でかかって相手になるかとかそういう次元の話だと聞いたことがあった。
レヴェルのようにインジェクターがあれば対抗出来るかもしれないが、彼にはそのような能力は無い。
となれば策は極めて限られる。
「逃げよっかなぁ。とりあえず指示は出したしぃ、後はよろしくぅ」
言うと彼は転移魔法を詠唱、姿を消した。
「ああっ!!クソッ!!」
シーリアの口から悪態が漏れる。あと少しで手が届くという所で男の姿が消えてしまった。もう少し、もう少し手を伸ばせていれば。
後を追うべきか。いや、まずはこの状況を何とかしなければならない。
シーリアが見下ろすと、多少数は減っているようだったが、相変わらずゾンビの平原が広がっていた。




