12-10 "協力者"
大量のゾンビ達が森へ向かう。その流れに逆らうように、ふわふわと魂だけの状態で飛んでいく。結構この状態も気楽なものかもしれない。
――んなわけあるか。我ながら何をバカな事を。気楽な要素が何処にある。今正に彼女は危機に陥ろうとしているのに。
幸いというべきなのだろう、森の魔物達がゾンビ共を喰わんとして襲いかかっているようだ。ゾンビ共と言ったが元は人間、本当は勿論死んでほしくないが、今は仕方ない。
僕はその時間を使って探す。問題を生み出したさっきの男、多分レヴェルの"協力者"であろう彼を。
さっき刺された辺りから少し離れた所で、男の姿を見つける事が出来た。フードを被ったその姿からは顔を窺い知る事は出来ない。覗き込めば見えそうだけれど、果たして本当に見えるのだろうか。バレたりしたらどうしよう。
「逃げられたけれどまあ、それはそれで面白いよねぇ」
僕が悩んでいると、男は血の付いた槍を拭いながら言った。
空に浮いている彼の足元では、ゾンビと化した人々があーうーと声を上げながら、ゾンビと化していない残った人々を襲っている。迷宮の森も騒がしい。随分と大規模な軍勢のようだ。
「レヴェルが起きてくれればもっと面白い事もできそうなんだけどねぇ。まぁ――流石にインジェクター?だっけ?アレをフル活用すれば眠くもなるかぁ」
レヴェル。忌まわしい名前である。
男の「起きてくれれば」という表現には、今は寝ているという意味が含まれている。彼の言葉が真実とすれば、この事態はやはりレヴェルが引き起こしたもので、今は眠りについているという事のようである。
僕達にとっては不幸中の幸いと言うべきだろう。このゾンビの群れがそれ以上増える事は無い、という事だからだ。最悪の場合、人住まぬ地以外に住む全住民が魔物化する、なんていう事態も考えられる所だったので、それは無さそうという事は有り難い事実であった。だが、所詮それは今現在の話。もしかするとすぐに起きてしまうかもしれない。油断は出来ない。――油断もクソも、今の僕には何にも出来ないのだけれど。
「スリンジャーク、インジェクター、エクストラクター、ふきききき」
僕が自嘲するように溜息を吐くと、男は歯を擦り合わせて奇妙な笑い声を上げた。一瞬僕の存在がバレたのかと思ったが(よく考えれば魂の状態でバレたところで何が出来るのかという話ではあるけれど)、そういうわけではないようであった。
「いい、面白いねぇ。やっぱりあんなクソみたいな”橋渡し”よりこーいう騒乱の方が僕としては楽しくて仕方ない」
“橋渡し”?
彼が元々していた事だろうか。物理的な橋渡し?それとも別の、例えば他者の話し合いに割り込むような、そういう意味での橋渡し?どちらなのだろうか。
そう言って彼は東を見た。僕もそれに続いてその方向を見ると、地平線の向こうに、ルフトの兵士達が押し寄せるゾンビの群れを押し留めているのが見えた。
「ああ、後は、あの国がとっとと潰れればいいのにぃ」
男はそう呟く。あの国。何処の事だろうかとその視線を追うと、ルフトの遥か彼方、この間行ったあの三又の国を憎々しく睨みつけているように見えた。
「まぁ……でもアレかぁ。楽しみは最後まで取っとくってのもアリだよねぇ。……ふきききききききき!!」
男はまた歯を擦り合わせて笑い声を上げた。
三又の国を憎む、橋渡しをしていた男。そしてこの口調、誰かに似ている気がする。
僕はバレない事を祈りながらそのフードに隠れた顔を覗き込んだ。
そこには、最近見ていなかったけれど、しかし確かに見覚えのある顔があった。




