12-9 死後、魂となって
自分の顔を自分で見るというのは鏡を使う時くらい。鏡の中の像は反転しているわけで、他人と同じ視線で自分の顔を見る事は出来ない。
だが今僕の視線は正しく他人と同じであった。
不思議なもので、鏡の中の自分と実際の自分とには殆ど差異は無いはずなのに、左にあるはずのものが右に、右にあるはずのものが左に位置するというだけで、得も言われぬ違和感に包まれる。これ本当に自分か?と思う程である。
だが確かに自分なのだろう。胸に文字通り空いた穴。槍の突き刺さった跡がしっかりと残っているあたり間違いない。
僕、アクト・ヴァーディは今、魂だけの存在となって宙空を漂っていた。
正直、またか、という感想が真っ先に浮かぶ。
昔元の世界――地球は日本にて同じような状況になったときの事が頭に浮かぶ。
流石に記憶している中で(記憶を引き継がない転生とかしているかもしれないからこう表現しておく)二回目ともなれば、また死んじゃったよハハハ、などと軽口を叩きたい気分だが、若干ヤケも入っている。
今回は、今はまだ死にたくなかった。自分がやるべき事はいっぱい残っているし、自分としても成し遂げたい事もあった。まだ一緒に居たい人だっていたし、死ぬ前に叩きのめしたい奴だっている(一度叩きのめしたけど)。
でも、今はもう、何も出来ない。誰とも一緒には居られない。
死んだのだから。
嫌だ。本当に嫌だ。まだ死にたくなかった。出来る事なら蘇生とかして欲しいのだけれど、クレア達なら出来るんだろうか。
――クレア。魂の管理者。彼女に最初に呼ばれた時もこうやって右往左往していたのを思い出す。
生前――今のアクトに転生する前の話――電車に引かれて死んだのだけれど、その時も少しの間はこうやって自分の死体を眺める事が出来た。その時はどうしたんだっけ。行き場が無くしたところに天から声が聞こえて、それでクレアの所に行ったんだと思う。
その声は、今はまだ聞こえない。
彼女が忙しいせいなのか。自分の中で死んだ事が受け入れられないからだろうか。どちらの可能性もありうる気がする。特に後者については思い当たる節が多すぎる。
自分の中でも未だ整理がつかない部分が多い。さっきも言ったけれど生きてやりたい事やるべき事が多くて後ろ髪引かれる思いは強い。何より、何故僕が死んだのか、誰が殺したのか知りたい。電車に引かれるのはまだ、まだ起こり得る事態だとは思うが、フードの男にいきなり槍で突かれて死にましたハイ御仕舞、なんていうのは理不尽がすぎる。
そう、方法は分かっている。僕が知りたいのは、誰に殺されたか、そして|何故殺されねばならなかったのか《ホワイダニット》だ。
僕は悲しみと僕の体を堪えて逃げていくシーリアの背中を見てどうか無事をと祈りながら、未だ魂が留まる原因となっているであろう疑問を解決させようと思った。
勿論彼女は心配だし、先に逃げていたサチやクレスも気掛かりではある。だが、認めたくもない事実ではあるのだが、死んだ人間は蘇らない。この世界でもそれは一般的な知識である。蘇生魔法を研究しているという話は聞くけれど、間違えてゾンビを製造してしまったというニュースばかり耳に入ってきていた。多分無理なんだろう。
蘇生に関しては考えないでおこう。クレアが何とかしてくれるかもしれない。
それよりも、今この場に魂だけの状態で留まっているというのは、ある意味活用が出来るかもしれない。シーリアの反応を見ても僕の事は認識出来ていないらしい。下に居たゾンビの前にも現れてみたが、特に反応は無い。生者――ゾンビが生者かどうかについては諸説あるが――には魂だけの状態となった僕は認識出来ないものと考えるのが筋だろう。
となれば、この魂だけという状況を活用して色々調べる事も出来る。特に、誰に殺されたかに関しては簡単だ。
僕は槍が飛んできた方向を確認してそちらに向けて魂の体を動かし始めた。




