12-8 遡行
「つまり、もしかして、助かるの!?」
アタシは思わず叫んだ。
「遡行する川ってさ!!前に蘇生がどーこー言ってたよね!?」
クレアに詰めよる。
「可能性は、出てきた、そう思います。……ちょっとというかかなりこう……不服な部分はありますが……姉のやらかしのお陰でどうにかなったというのも確か……」
クレアが神妙な面持ちで言う。
「確かにこのマグマ、川は遡行する川。蘇生すら可能にする、浸かったものの時間を巻き戻す能力を持つ川です。この辺に設置していたのですが、どうやらちょうどその地下にマグマ溜まりがあって、それで川がマグマに飲み込まれたようです」
「私の作った仕組みはマグマ如きでは壊れないからね」
「なんとも……複雑な気分です。しかし、最終的にどうなるかはまだ分かりません。実際に使われる前にここに設置して、それからは多分利用されていない……と思いますので」
クレアは手元に何らかの四角い書類のようなものを取り出してパラパラと捲りながら不安げに言った。何かの記録のようだ。
「あー、分からない……この川が使われた記録は無い……です。後は……その、もう彼次第ですね」
クレアはヤケになったような口調で書類をしまいながら言った。
「彼次第?」
「遡行する川の仕様上、肉体は元に戻るはずです。遡行する川の遡行機能は魂以外の、物質にのみ作用するので。そうなった時に問題になるのは彼の魂。彼の魂は既に肉体を離れ、何処かへ行っています。少なくともこちら、魂の監視所には来ていません。彼の魂が肉体遡行に気づき元に戻ってくれれば。そうすれば……可能性は……」
偶然出来た可能性。しかしそれが達成するかどうかは全く分からないという事か。未だ絶望的な状況は変わらないようである。
「一応、遡行自体は上手く始まっているようですが、彼の肉体はマグマの中。果たしてどうなるか、期待は、したいのですが……」
クレアは落ち着きなく頬を撫で回したり指の爪を噛んだりしながら言葉を吐き出す。本当に全く分からないというのが実状のようであった。
「それでもまだ……希望があるだけマシよ」
アタシも絞り出すように言った。
「とにかく今は彼の事を――」
待とう、そう言いかけた時、山の麓から光が登った。
「あれは……?」
サラマンダーの村の方からだった。
「森の方にも火の手が上がってるんよ」
サチが魔法で視界を拡大させて言った。
「追手ね」
……勿論彼の事は気になる。気になるし、この場を離れたくないという気持ちは強い。でも、追手だとすれば、それはアタシ達を追ってきた可能性が高い。サーラやゴーシュに迷惑をかける事は避けたいし、犠牲を出すなんて以ての外である。
「クレア」
アタシが彼女に声を掛けると、魂の管理者は深く頷いた。
「この場は任せて下さい。始終見ておきますし、私の方でもフォロー出来る事があればやります。どの道地上に干渉出来ない以上、私に出来るのはここまでではありますが」
不本意な様子で彼女が絞り出した声に、私は声を掛ける。
「十分よ。お願い。サチ、クレス、行くわよ」
「え、私はちょっとその怖いのですけれど」
「同感なんよ」
「元とはいえ神みたいなのがウダウダ言ってんじゃないわよ」
アタシはそう言うと二人にバリアを貼ってからその背中を蹴り飛ばした。
二人の体がバリアに守られながら坂道をゴロゴロと転がり落ちていく。
「あたしは神じゃないんよおおおおおおおおお」
「元です!!元ですからあああああああああああ」
二人の叫びが山の麓へと消えていくのを見てから、アタシはクレアに目配せをして、そしてそれを追って下り始めた。
どの道山から降りておかないとこの山が荒らされるかもしれない。麓の村を守る事は彼を守る事にも繋がるだろうし、どちらの村の人達を見捨てるなんて事は絶対出来ない。そのためには人手が足りない以上、二人には申し訳ないが巻き込ませてもらう事にする。
お願い。無事でいて。
ケンタウロスとサラマンダーの村の人達の事を考えながらそう願い、
お願い。……助かって。
背にしたマグマの川で今も遡行し続ける彼の肉体にもそう強く願った。




