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12-5 再顕現

 灼熱の山道を歩き続ける事数十分。山頂が見えてきた。


「……ゔあー」


 道中サチはさんざん文句を言っていたが、もはや彼女は声も出せなくなっていた。


「つー、つー、かー」


 クレスもロクに言葉を紡げない。アタシは一度来た道、例えナイツエクストラクターを装着していようと、まぁどうにかなってしまうものである。


 山頂で来た道を振り返る。高さに一瞬足が竦む。空を飛んだりする事も最近では全く珍しくはない。とはいえ、やはり落ちた時の事を考えると脳が拒否反応を起こす事はあるのだ。アタシは死なないけど。


「クレアー!!クレアー!!反応してー!!」


 アタシは山頂で魂の管理者の名を叫ぶ。


 すると噴煙を切り裂いて天から光が差し込み、そこから女が一人降りてくる。白髪のサイドテールが更に真っ白になっているような気がした。


「ゔあー」


 魂の管理者クレア・スピリットは開口一番不気味な声を上げた。生ける屍(ゾンビ)のような声。

アタシはエクスカリバンカーを強く握る。万が一の場合に備えて。


「ゔばー、もー、もおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 クレアは突然発狂したように大きな声を上げた。山の上からその声が響く。


「なんですかあこの状況はああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 怒りとやるせなさと辛さと憂鬱さとそういったものが入り混じった悲痛な叫びだった。まるでこう、長期休暇の残り半分くらいで仕事の連絡が入ったみたいな。アタシは毎日仕事だったからあんまりその気持ちは分からないけれど、警備兵の何人かがこんな叫び声を上げているのを聞いた事があった気がする。


「何かあった時のために!!結構使える能力を渡したアクトは死に!!人々の命はゾンビとして利用される!!悪夢だ!!悪夢以外の何者でありますまい!!最悪です!!」


 クレアは喚いた。


「姉さん!!姉さんというものが居たというのに!!なあああああああああああんでこんな事になっているのですかああああああああ!!」


 絶叫の矛先はクレスへと向かう。


「知らないわよ煩いわね!私だって好きでこの状況を生んだわけじゃない……というか私は今回に限っては何も悪いことしてないわよ!!」


 クレスへ向けられる異論に対し、彼女が絶叫で以て反論する。


「おお……もう……この世界は駄目です。もうどうにもなりません。まさか……まさかあんな能力(スキル)を持っている人間が居るとは思いませんでした……。あんな……管理者しか入り込めない領域の能力(スキル)を……」


能力(スキル)?」


 アタシがそう言うと、クレアはギロリとこちらを見た。そういう目で見られても困る。アタシは状況が全く飲み込めていないのだ。


「……説明します、説明しますよ。ですから何とかして下さい。私、いえ、我々ではもはや手に負えないところまで来ています。いや負えるけれど、負えるけれどそれは……その、物凄い雑な卓袱台返ししか出来ないというか、それを"手に負える"と表現して良いのか戸惑うと言いますか」


「よくわからないし、何とか出来るかは約束は出来ないけど、出来る事はするつもり。だから落ち着いて、まずは説明して、貴方が知っている事を」


 クレアは数度の深呼吸の後に静かに頷いた。


「……あの協力者の能力(スキル)時間加速タイム・クレッシェンド。発動すると周りの時間を強制的に加速させます。例えばある木の時間だけ3倍の速度で進むようにして大樹にする事が出来るといった感じでしょうか」


 そこまで言ってクレアの顔は更に曇った。


「時間の操作は規模が大きい。世界全体に作用する、余りに強力な能力です。そのため普通の人間には使いこなすどころかそもそも触れる事すら出来ない概念。特殊なアイテムでも無い限りは魂の管理者しか操作出来ない……はずなのです。はずだったのです。ですがこのヘッポコシスターのせいで、時間操作の素養を持つ者が生まれるバグというものが発生しました。それを得たからなのか、それとも生来のものなのか、そんなバグ要素を悪用するヤツが有するに至ってしまった。ああ……もう……この馬鹿姉野郎のせいで……」


「……てへ」


 クレスが頭に握り拳を当てて舌を出した。サチの目が細くなる。


「こいつと縁切った方が良さそうな気がしてきたんよ」


「オススメします」


 クレアはそう言うと話を続けた。クレスは両膝と両手を熱い地面につけて絶望した。熱い地面で手が灼けるようにジュージュー言ったのですぐに立ち上がったけれど。


「さて本題に戻りますが……この能力(スキル)のせいで、レヴェルの封印は解けました。本来数ヶ月掛かる封印が、彼女の周りの時間の進行が加速する事で、数分で解けてしまったわけです。それが貴方方が森を出る数時間前の話。しかし協力者はまだ続けました」


 クレアは両手で自分の顔を覆った。


「レヴェルが……インジェクターの能力を使いこなすまで……或いはインジェクターという物質に宿る意志に完全に侵食されるまでなのか……詳しい事は私ですら把握出来ていませんが……、ともかく……余計に時間を加速させる事で、レヴェルの能力は強化されました。これにより、一気に周囲の国の住人まで魔物化してしまったのです」


「うげぇ……」


 大凡の事態は把握出来たが、絶望的にしか聞こえない。アクトで何とか抑え込んだレヴェルの、インジェクターの能力が強化された?そんな無茶苦茶な。


「この事態をどうにか出来るかと言われると、正直厳しいものがあります。私達魂の管理者の中でも勿論話し合いはしました。しかし結論としては、世界そのものを作り直すくらいしないと、インジェクターという致命的なバグを取り除く事は出来まい、というものです」


 クレアの目がどんどん曇っていく。溜息も軽いものが何度も何度も挟まれ、正直ちょっと鬱陶しいと思ったりもしたが、そのくらい憂鬱なのだろう。


「そして……最悪なのが、彼についてです」


「彼……」


 アタシは息を呑んだ。彼、という言葉が誰を指す言葉なのか、すぐに理解が出来たからだ。


「アクトは……死にました。それを生き返らせるという事は……」


 クレアは絞り出すように言った。


「如何に異常事態といえど、私達には許されていません」


 ごめんなさい。彼女はそう続けた。

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