12-3 合流
「ふぎゃああああああ!!」
「グジュルルルルルル!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ビシャアアアアアア!!」
サチが逃げて、涎を垂らしたフォレストウルフがそれを追う。その横をクレスが通り、更にその後ろにはウォークツリー……歩く木の魔物が追跡する。歩く木が垂らす樹液が土に触れ、ジュウ……という音を立ててその土を溶かす。
「逃げる前と変わってないんよ!!ジョーキョーが好転しないんよ!!」
「神は、私達を、ぜえ、見捨てたというのでしょうか!?」
元とはいえアンタが神だろと、サチで無くともツッコミを入れたくなる。が、そんな時間的余裕は無い。アタシはアクトの体を片腕でも木の上から飛び降り、二人とそれを追う魔物達の間に割って入ると、魔物達を盾で弾き飛ばした後で二人を回収、再び木の上へと戻り、そのまま木々の間を縫うようにして森の奥深く、人住まぬ地へ向けて駆け出した。片手で二人を持ち上げているものだから重い。覚悟はしていたけれど、それ以上の重さだ。
「シーリア!!」
急に体が軽くなって目をパチクリとしていたサチが、アタシの方を見て言った。
「なんでここに!?入れ違いで戻ってきたはずじゃ無かったん?」
「ちょっと、ね」
「ちょっとって、……あれ、アクトは……うえ!?」
サチがアクトの姿を探してキョロキョロと辺りを見回し、そしてすぐ近くに彼の姿を見留て、驚愕のあまり目を見開いた。
「しししししししし、しんで――」
「……止めて。分かってはいるんだけれど、それでも、今はまだ……」
アタシはその言葉を聞きたくはなかった。幾ら分かっていたとしても。
「……まあ、うん、わかった」
おかしい人を見る目な気がしたけれど、今は考えない。……考えたくない。
「アクトは――その、誰か、男にやられた。槍を刺されて。それでゾンビになった人々がこっちに向かってきたから逃げてきたの。アンタ達とすれ違ったのを思い出したから、一体森の外で何が起きたのかを聞きたくて合流した。こっちの状況はこんなもん。そっちは?」
「アタシ達と大体はおんなじ状況なんね」
「その男というのには会いませんでしたが。状況、ですか。分かっている事とすれば……そうですね。レヴェルが解放されてしまったという事でしょうか」
「レヴェルが!?」
彼女は数ヶ月の封印がされていたはず。アタシ達は確かにまあまあの時間を人住まぬ地で過ごしていたが、だからといって数ヶ月等という長期に渡るものでは無かったはずである。
「監視していた兵士が突然殺され、一人が命からがら連絡をしてきたんよ。なんでも、『男が近づいたと思ったら封印が解けた』とか」
「男……か」
もしかすると、アクトを刺した男と同一人物かもしれない。その方がむしろ有り難い。アクトを襲うという事は、彼がその性格から変な恨みを買っていたりしない限りは、レヴェルの関係者、恐れていた協力者の可能性がある。レヴェルの封印を解いた男と別人なら、協力者が二人居るという事になるわけで、中々に面倒な事になる。
「その兵士も連絡が途絶。そしてナクールのバリアも剥がれ、その近くにいた兵士達が魔物に変化させられ、それでそいつらがアタシ達のところに襲いかかってきたんよね」
「わけわからないですよ。私達はギリギリ、防御魔法掛けて逃れましたけれど」
確かにわけがわからない。
「誰なの、その男」
「全く分からないんよ。とにかく今回の範囲は広かった。レヴェル中心に、下手すれば全世界まるごと魔物になっちまったかもしれないレベルでウヨウヨしてたんよ」
「生きた心地がしませんでした……」
「何はともあれ逃げないとってことで、人住まぬ地に逃げようとしてたんよ」
「高い山があればクレアとの連絡が取れるかもしれませんから」
なるほど。
彼女らからすれば人住まぬ地は文字通り人、つまりレヴェルに魔物化される人間も居ないのではないか、という考えに至るのも頷ける。実態はそうではないが。だけど、アタシがその魔法を受けていないという事は、幾ら範囲が広いといっても、迷宮の森を越える程のものでは無かったという事だろう。人住まぬ地に被害が無い可能性は高い。
「でもレヴェルが追ってきたらどうするの」
「それは多分大丈夫。アタシらが逃げる途中で封印されているはずの場所見たけど、そこでぐったり寝込んでたんよ」
「多分魔力を使い果たしたのでしょう」
それならいいけれど、もしそうでなかったら。アタシは三人の体を抱えながら後ろをチラと見た。
追っ手は居ない。魔物に喰われるゾンビの声が響くばかりだ。腐肉でも魔物は平気で喰らう。それだけ被害者が増えるという事ではあるが、今はそれが有り難くも感じた。
「ともかく、人住まぬ地に行きましょう」
「山は?山はあります?あの馬鹿妹に連絡取らないと」
「火山ならある。ともかくそこに行って、体制を整えましょう」
アタシは腕に力を込めて、木々を蹴って奥へ奥へ進んでいく。もう、今はそれしか出来る事が無い。




