表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/26

バルト商会

 ギルド証を手に入れてから、世界の見え方が、また変わった。

 同じ大市場でも、俺を見る商人たちの目が、違う。ただの子どもから、駆け出しの鑑定士へ。数字一つで、扱いが変わるのが、少し滑稽だった。

 俺は、その証を使って、少しずつ、動く金額を、大きくしていった。

 ギルド証があると、できることが、まるで違った。

 これまでは、露店や道具屋の店先しか、見て回れなかった。だが証があれば、商人しか入れない、ギルドの競売場に、出入りできる。まとめ売りの倉庫にも、堂々と足を運べる。

 最初の獲物は、競売場の隅に積まれていた、埃だらけの絵画だった。

 〈絵画:市場60クル・真価2,400クル〉

 誰も見向きもしない山の中から、それだけを拾い上げた。60クルで競り落とし、目利きで有名な画廊に持ち込むと、2,100クルで買い取られた。

 次は、質流れの古い羅針盤。

 〈羅針盤:市場40クル・真価1,900クル〉

 これも、驚くほどの安値で手に入り、航海士組合に持ち込むと、5倍近い値がついた。

 小さく買って、大きく売る。それを、繰り返した。

 ギルド証があるおかげで、以前は門前払いされた画廊や、組合にも、堂々と品を持ち込めた。「駆け出しだが、目は確かだ」という評判が、少しずつ、後押しになっていた。

 半月が経つ頃には、懐は、50,000クルを超えていた。

 最初の3クルの短剣を思えば、ばかげた数字だった。

 それでも、俺は、まだ、満足していなかった。

 小さな掘り出し物を、拾い集めるだけの商売には、いずれ、限界が来る。

 もっと大きく、動く金の流れに、加わりたかった。

   ◆

 風向きが変わったのは、ある日、大きな仕入れの話を持ちかけられた時だった。

「倉庫一つ分の、輸入雑貨。まとめて、鑑定してほしい」

 持ち込んできたのは、中堅どころの貿易商だった。真価を見誤って高値で仕入れてしまい、大損する前に、確かめたいという話だった。

 俺は、倉庫に足を運んだ。

 棚に並んだ品を、片端から、眼で見ていく。

 半分ほどは、真っ当な品だった。だが、残りは、明らかに、値段の割に真価が低い。

 〈絨毯:市場3,200・真価900〉

 〈香油:市場1,800・真価400〉

 俺は、それを一つずつ、貿易商に伝えていった。

「これは、仕入れ値の半分以下です。この仕入れ先、信用できません」

 貿易商の顔が、みるみる青ざめた。

「まさか……バルト商会の口利きで、仕入れたのに」

 その名前に、聞き覚えがあった。

 この大市場で、最大手の商会。多くの商人が、そこを介して、仕入れをしている。

 俺の鑑定結果は、間接的に、その商会の信用を、疑うことになる。

   ◆

 案の定、数日後。

 ゴダじいさんの店に、身なりのいい男が、訪ねてきた。

 商人風だが、腰の低さの奥に、値踏みするような目をしている。

 俺は、眼を向けた。

 〈真価:1,200クル〉──それなりの器の男だ。感情の色に、〈苛立ち〉と〈警戒〉が滲んでいる。

「お前が、噂の鑑定士か」

「ノアです」

「バルト商会の、代理の者だ」

 やっぱりか、と思った。

「うちの仕入れ品を、値切らせるような真似をしてくれたそうだな」

「値切らせたつもりはありません。鑑定結果を、正直に伝えただけです」

「その結果とやらが、間違っているとは、考えなかったのか」

 男の声に、静かな圧があった。

 俺は、眼を、もう一度、彼に向けた。

 〈苛立ち〉が、さらに濃くなっている。それから──〈焦り〉。

 図星を突かれた人間の顔だ。

「間違っていない、と思っています」

 俺は、はっきりと、言った。

「もし違うと言うなら、バルト商会さんの方で、第三者の鑑定を、受けてみてはどうですか」

 男の顔が、一瞬、強張った。

「……小僧が、生意気な口を」

「事実を言ってるだけです」

 男は、しばらく俺を睨んでいたが、やがて、鼻で笑った。

「いいだろう。だが、覚えておけ。この街で商売をするなら、うちを通さないと、いずれ困ることになる」

 それだけ言い残して、男は、店を出ていった。

   ◆

 ゴダじいさんが、腕を組んで、俺を見た。

「敵に回したな、バルト商会を」

「向こうが、勝手に、出てきただけだ」

「まあ、そうだが」

 じいさんが、ため息をついた。

「あそこは、この街の流通を、半分近く握ってる。まともにぶつかったら、痛い目を見るぞ」

「じゃあ、見て見ぬふりをすればよかったのか」

「そうは言ってない」

 じいさんが、にやりと笑った。

「お前がそういう性分だってことは、最初から分かってる。ただ、覚悟だけは、しておけって話だ」

 俺は、頷いた。

 真価を見誤らせて、儲ける。それがバルト商会のやり方なら、いずれ、正面からぶつかることになる。

 この眼は、嘘をつけない。

 だったら、俺も、逃げるつもりはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ