表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/26

アイリス

「──アイリス」

 娘は、そう言った。

「アイリス」

 俺は、繰り返した。

 名前を口にした瞬間、何かが変わるかと思った。眼が、何か読み取るかと思った。

 でも、変わらない。〈真価:ERROR〉のまま、そこにある。

 名前が分かっても、この子の中身は、相変わらず見えなかった。

「……で?」と、アイリスが言った。「名前を聞いて、満足した?」

「いや」

 俺は、正直に言った。

「もっと知りたくなった」

 アイリスが、初めて、ほんの少し目を見開いた。それから、また表情を消した。

「変な人」

 三回目だ。

「あんたの名前は」

「ノア」

「……ノア」

 アイリスは、口の中で確かめるように、俺の名前をなぞった。

 それだけで、なぜか、少し落ち着かない気分になった。

   ◆

 その日から、アイリスとは、たまに顔を合わせるようになった。

 示し合わせたわけじゃない。大市場の同じ通りを、二人とも、うろついていただけだ。

「また、値踏みしてる」

 ある日、アイリスが、呆れたように言った。

「あんた、暇さえあれば、店を見て回ってるよね」

「これが仕事だ」

「仕事……」アイリスが、首を傾げた。「商人には、見えないけど」

 鋭いところを突かれた。

 商人には、見えない。その通りだ。俺には、まだ、店もなければ、看板もない。

 あの短剣を売ってから、俺は、同じことを繰り返していた。安く眠っている真価を見つけて、買って、正しい値で売る。それだけで、懐は、少しずつ、膨らんでいた。

 でも、そこで、頭打ちになっていることに、俺は気づいていた。

   ◆

「一人でやるには、限界がある」

 俺は、ゴダじいさんの店で、ぽつりとこぼした。

「そりゃそうだ」と、じいさんが、鼻で笑った。「お前、いくら稼いだ」

「合わせて、10,000は超えた」

 じいさんが、片眉を上げた。

「たった数日で、たいしたもんだ。……で、何に詰まってる」

「大きい取引がしたい。でも、俺は、まだ、ただの平民のガキだ」

 貧民街の子どもが、いくら金を持っていても、大口の商談に呼ばれることはない。相手にされない。信用がない。

「商業ギルドに、登録すればいい」と、じいさんが言った。

「登録すれば、何が変わる」

「商人としての、身分が付く。ギルド証があれば、大商会とも取引できるし、店も持てる。今のお前は、ただ金を持ってるだけの子どもだが、ギルド証があれば、商人だ」

 俺は、身を乗り出した。

「どうすれば、なれる」

「鑑定試験を受ける。ギルドの目利きの前で、品物の真価を言い当てる」

 じいさんが、にやりと笑った。

「お前になら、造作もないだろう」

 俺は、拳を握った。

 金は、稼げるようになった。次に必要なのは、この世界で、まっとうに商売をするための、身分だ。

 この眼があれば、鑑定試験は、怖くない。

 問題は、別にあった。

「ただし」と、じいさんが、付け加えた。「受験するには、後ろ盾がいる。誰か、お前を保証してくれる商人が」

 俺の顔が、曇った。

 貧民街の孤児に、保証人になってくれる商人など、心当たりがない。

 その時、扉が開いた。

「なんの話?」

 アイリスが、立っていた。

 いつの間について来ていたのか、俺には、気づかなかった。

 じいさんが、興味深そうに、アイリスを見た。

「知り合いか、ノア」

「……まあ」

 アイリスは、俺とじいさんを、交互に見た。

「保証人がいる、って聞こえたけど」

「あんたには、関係ない」

「関係、あるかもよ」

 アイリスが、口の端を、わずかに上げた。

 初めて見る、表情らしい表情だった。

「わたし、ちょうど、暇してたところ」

 俺は、眼を、彼女に向けた。

 いつも通り、〈真価:ERROR〉。

 この子が、何者なのか。なぜ、保証人になれるようなことを、匂わせるのか。

 分からないことばかりだ。

 それでも、俺は、頷いていた。

「──頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ