同盟
「それで、二人は、これから、どうするの」
ミラが、聞いてきた。
青い扉の店の、奥の小部屋。俺たちは、卓を囲んでいた。
「調べたいことが、二つある」
俺は、指を、立てた。
「一つ。13年前、シャルダン家を潰した、塩税横領の、黒幕。二つ。アイリスの、記憶と、素性の証」
「大きく、出たわね」
ミラが、薄く、笑った。
「相手は、化粧師と、その、雇い主よ。地方の道具屋の手に、負えると思う?」
「思わないから、ここに来た」
俺は、ミラを、まっすぐ、見た。
「あんた、俺に、賭けるって言った。だったら、組もう。あんたは、化粧師の内側を知ってる。俺は、奴らの偽装を、見破れる。……足りないところが、綺麗に、噛み合ってる」
ミラは、しばらく、俺を、見つめた。
「……交渉ごとに、慣れてるのね」
「商人なんで」
「いいわ。同盟、成立」
ミラは、手を、差し出した。
握り返そうとした、その手を、アイリスが、横から、ぱしりと、掴んだ。
「握手は、わたしが、代わりに、しておく」
「……なんで」
「なんとなく」
アイリスは、無表情のまま、ミラの手を、事務的に、上下に振った。
ミラが、吹き出した。
「あなたの連れ、面白いわね」
「面白くない。わたしは、真剣」
何に真剣なのかは、教えてくれなかった。
◆
「それで、まず、教えてほしいんだが」
俺は、本題に、戻した。
「王都に入る前、俺たちを探してる、二人組がいた。宿場で、人相書きまで、回ってた。……あれは、化粧師か」
「ああ、あれね」
ミラは、あっさり、頷いた。
「化粧師の、“影”って呼ばれてる、回収役。逃げた道具や、都合の悪い証拠を、回収して回る、二人一組の追手」
「回収……」
嫌な言葉だった。
「目的は、たぶん、二つ。一つは、わたし。工房から逃げた道具は、必ず、回収される決まりなの。もう一つは──」
ミラは、アイリスを、見た。
「先代頭領の、置き土産」
「わたし」
アイリスが、自分を、指した。
「そう。二代目が、頭領になって、真っ先に始めたのが、先代の痕跡消しだった。先代の技を知る職人は、工房から、次々、消えた。……先代が最後に遺した最高傑作の”覆い”が、生きて、歩いてるなんて知られたら」
「回収、対象ってわけか」
俺は、拳を、握った。
「一つ、分からないことがある。連中は、なんで、俺たちが王都に向かうって、知ってた? 人相書きが、先回りしてた」
「あなた、地元で、派手にやったでしょう」
ミラが、呆れたように、言った。
「バルト商会の罠を、証拠付きで、返り討ち。街中の、噂になった。……化粧師は、各地の商業ギルドに、耳を飼ってる。“物の真価を言い当てる眼”なんて噂、連中が、聞き逃すわけがない」
思い当たる節しか、なかった。
「そして、あなたの正体を調べれば、連れの娘に、行き着く。娘の顔を調べれば……13年前を知る古株なら、気づいたかもしれない」
「俺が、目立ったせいで、アイリスが、見つかった……?」
血の気が、引いた。
隣で、アイリスが、俺の袖を、引いた。
「ノア。顔」
「……悪い」
「違う。謝らせたいんじゃ、なくて」
アイリスは、いつもの、平坦な声で、言った。
「ノアが目立ってくれたおかげで、ミラが、わたしたちを見つけた。ベルナールさんにも、会えた。わたしの名前の、手がかりも、掴めた。……全部、ノアが、派手にやったから」
「……アイリス」
「だから、差し引きで言うと」
アイリスは、真顔で、続けた。
「ちょっとだけ、黒字」
「儲かってるみたいに、言うな」
でも、少しだけ、救われた。
◆
「今夜から、宿を、移りなさい」
ミラが、言った。
「この店の、二階が、空いてる。防犯は、そのへんの宿より、よほど、しっかりしてるわ」
「防犯って、この店、偽物だらけだろ」
俺は、店の棚を、指した。
「泥棒が入っても、盗んでいくのは、全部まがい物。〈壺:市場900・真価40〉とか」
「そういう店なのよ」
ミラは、悪びれもせず、言った。
「盗人が、偽物を掴んで、勝手に、大損する。王都で一番、盗みがいのない店。……最高の防犯でしょう」
「性格悪いな!?」
「褒め言葉として、受け取っておくわ」
こうして、俺たちの、王都の拠点が、決まった。
偽物だらけの、青い扉の店。
その二階で、俺たちの、反撃の準備が、始まった。




