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小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


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オルグの過去

 王都に、行く。

 そう、決めたはいいものの、問題は、山積みだった。

 王都までは、馬車で7日。街道には、野盗も出る。個人で行くなら、護衛を雇う金も、かかる。

 それに、俺たちは、ただの旅人じゃない。13年前の一件を、探る人間だ。オルグの忠告が、頭に残っていた。

 ──蒸し返されたくない人間が、まだ、いる。

 迂闊に、動けば、こちらの動きが、筒抜けになる。

 悩んでいた矢先、当のオルグが、店に、現れた。

「王都に、行くそうだな」

 開口一番、それだった。

「……どこで、聞いたんですか」

「お前が、街道の乗合馬車の値段を、聞いて回ってると、うちの若いのが、報告してきた」

 この男の耳の早さには、もう、驚かなくなっていた。

「止めに、来たんですか」

「逆だ」

 オルグは、カウンターに、一枚の札を、置いた。

 バルト商会の、隊商通行証だった。

「10日後、うちの隊商が、王都に向かう。それに、乗れ。護衛付きだ。商会の荷運び人足、ということにしておけば、目立たん」

 俺は、札と、オルグの顔を、見比べた。

「……どういう、風の吹き回しですか。俺は、あんたの提携話を、断った」

「ああ、断られたな」

 オルグは、こともなげに、言った。

「これは、商会としてじゃない。……俺、個人の、話だ」

 オルグは、店の奥に立つ、アイリスに、目を向けた。

「初めて、この店で、お前を見た時。どこかで見た顔だと、言ったな」

「……はい」

「思い出したよ。ずいぶん、かかったが」

 オルグは、静かに、語り始めた。

「13年前、俺は、まだ、バルト商会の、下っ端の仕入れ係だった。北の、シャルダン伯爵家に、月に一度、食料や日用品を、納めに行くのが、俺の仕事だった」

 アイリスの目が、見開かれた。

「屋敷に行くと、いつも、庭先に、小さな娘がいてな。俺の荷車を見ると、飛んできて、荷台に乗りたがった。……乳母に、いつも、叱られてた」

 オルグの口元が、わずかに、緩んだ。

「リディア様、と、呼ばれてた」

 店の中が、静まり返った。

「あの家が、潰された時。俺は、何もできなかった。ただの、下っ端だったからな。……取引先が、一晩で、消えた。それだけの話として、飲み込んだ」

 オルグは、アイリスから、目を逸らさなかった。

「だが、ずっと、喉に、刺さってた。あの家の人たちは、俺みたいな下っ端商人にも、まともに、飯を出してくれた。謀反なんぞ、企てる家には、見えなかった」

「……オルグさん」

 アイリスが、掠れた声で、言った。

「わたしが、その、リディアだって……本当に、思いますか」

「分からん」

 オルグは、首を振った。

「13年も経てば、顔も変わる。俺の記憶も、あてにならん。……だが、庭先で笑ってた、あの娘の面影が、お前には、ある」

 オルグは、通行証を、指で、押し出した。

「確かめたいんだろう。自分が、何者か。……なら、行け。これは、13年前に、何もしなかった男の、罪滅ぼしだ」

   ◆

 オルグが、帰った後。

「乗るのか、あの話」

 じいさんが、聞いてきた。

「罠の可能性も、考えた」

 俺は、正直に、言った。

「でも、あの時のオルグの感情の色に、嘘はなかった。〈後悔〉が、ずっと、滲んでた。……あれは、演技じゃ、出せない色だ」

「お前の眼が、そう言うなら」

 じいさんは、それ以上、反対しなかった。

「店は、俺が、見といてやる。9年、お前を育てた店主を、信じろ」

「……頼む」

 俺は、頭を下げた。

 手元の資金は、あの机を除く、蔵の品の売却が進んで、28,000クルまで、戻っていた。そのうち、20,000クルを、旅の資金と、王都での仕入れに、充てることにした。残りの8,000クルは、店の運転資金として、じいさんに、預ける。

 王都行きまで、10日。

 準備することは、山ほどあった。

 それでも、進むべき方向だけは、もう、迷いがなかった。

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