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小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


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20/26

蔵の中

 偽装箱の一件から、店の商いは、落ち着きを取り戻していた。

 手元の資金は、27,000クルほど。あの損失を、日々の商いで、ようやく埋め戻したところだった。

 そんな折、真価堂に、身なりのいい、初老の男が、訪ねてきた。

「ここが、正直な値付けをするという店か」

 男は、亡くなった父親の遺品を、整理しているという。

「父は、古い物を、集めるのが道楽でな。蔵が一つ、丸ごと、遺品で埋まってる。……正直、目利きする気力もない。まとめて、引き取ってもらえんか」

「拝見してから、お返事します」

 俺は、その足で、男の屋敷へ、向かった。

   ◆

 蔵の中は、埃と、黴の匂いで、満ちていた。

 棚には、絵皿、燭台、古書、置物。雑多な品が、無造作に、積まれている。

 俺は、片端から、眼を、走らせていった。

 〈絵皿:真価200クル〉〈燭台:真価150クル〉〈古書:真価900クル〉──。

 ほとんどは、ありふれた品だった。だが、時折、埃の下に、光る数字が、混ざっている。

 全部を、見終わるのに、2時間かかった。

 蔵一つ分の、総真価。合計して、20,000クルだった。

「いくらなら、引き取ってもらえる」

 男が、聞いてきた。

「知り合いの業者には、まとめて6,000クルと、言われたが」

 6,000クル。真価の、3割だ。

 俺は、迷わなかった。

「うちは、真価の8割で、買い取ります。総額、16,000クルです」

 男が、目を、丸くした。

「16,000……倍以上じゃないか。正気か」

「それが、うちの商いです。代わりに、売る時は、真価どおりの値で、売らせてもらいます」

 男は、しばらく、俺の顔を、見つめていた。

 やがて、ふっと、笑った。

「……親父も、あんたみたいな商人に、売りたかっただろうよ。頼む」

   ◆

 手元の27,000クルから、16,000クルを、支払った。残りは、11,000クル。

 店の資金としては、心細い額だ。だが、蔵の品を、売りさばけば、20,000クルが、戻ってくる。差し引き、4,000クルの利益になる計算だった。

 荷車で、品を、店に運び込む。アイリスと、二人がかりの作業だった。

 その、最中だった。

「ノア、これ」

 アイリスが、荷の奥から、一つの品を、引っ張り出した。

 古い、書き物机だった。飴色の木肌に、精緻な彫刻。

 その、引き出しの取っ手に。

 見覚えのある、絡み合った蔦の意匠が、刻まれていた。

「……シャルダン家の、紋章」

 アイリスの声が、かすれた。

 俺は、急いで、眼を向けた。

 〈書き物机:市場800クル・真価3,500クル〉

 数字が、出る。

 〈ERROR〉じゃない。この机には、偽装が、かかっていない。

「なんで、シャルダン家の家具が、こんなところに」

「……そうか」

 少し考えて、思い当たった。

「取り潰された貴族の財産は、競売にかけられる。13年前、あの家の家財も、売りに出されたはずだ。この蔵の持ち主が、当時、競り落としてたんだ」

 道楽で古い物を集めていた、という故人。その蔵に、シャルダン家の流れ品が、紛れ込んでいても、おかしくない。

 アイリスが、机の表面を、そっと、撫でた。

「……この机、なんだか」

「どうした」

「分からない。でも……見てると、胸の奥が、ざわざわする」

 記憶は、ないはずだった。

 それでも、体のどこかが、覚えているのかもしれない。

 13年前、この机が、あった場所を。

 俺は、机に、もう一度、眼を向けた。

 真価、3,500クル。

 だが、この机の本当の価値は、数字じゃ、測れない気がした。

「これは、売らない」

 俺は、言った。

「調べてみよう。……何か、残ってるかもしれない」

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