記録庫
「調べるって言っても、どこから、手をつける」
俺は、閉店後の店で、アイリスと、ゴダじいさんに、聞いた。
「街の、公文書記録庫だ」と、じいさんが、答えた。「貴族家の取り潰しなんかは、表向きの記録が、必ず残ってる。閲覧するには、ギルド証か、それなりの身分がいるが……お前なら、通る」
「行ってみる」
俺は、頷いた。
◆
記録庫は、街の中央、役所の地下にあった。
薄暗く、埃っぽい。棚には、古い書類の束が、隙間なく、詰め込まれている。
受付の職員に、ギルド証を見せ、13年前のシャルダン伯爵家の記録を、探していると伝えた。
「シャルダン、ですか」
職員の顔が、わずかに、曇った。
「少々、お待ちを」
待つこと、しばらく。戻ってきた職員は、薄い書類の束を、一つだけ、差し出した。
「これだけです」
「これだけ、ですか」
「本来、取り潰しの記録は、もっと、分厚いはずなんですが……この件に関しては、大半が、閲覧制限になっていまして」
「誰の、権限で」
「そこまでは、私には」
職員は、それ以上、何も言わなかった。言えない、という顔だった。
◆
俺は、渡された書類に、目を通した。
「シャルダン伯爵、謀反の疑いにより、爵位剥奪。一族、追放処分」
それだけだった。具体的に、何をしたのか。誰が、告発したのか。何も、書かれていない。
「追放……処分」
アイリスが、ぽつりと、繰り返した。
「処罰、じゃなくて?」
「言われてみれば」
俺も、引っかかった。
じいさんは、以前、「一族もろとも、処罰された」と、聞いていると言っていた。だが、記録には、「追放」としか、書かれていない。
「処罰と、追放。意味が、違いすぎる」
俺は、呟いた。
「処罰されたなら、生き残りは、いないはずだ。でも、追放なら」
「……わたしみたいに、生きてる人間が、いても、おかしくない」
アイリスの声が、震えていた。
俺は、書類を、もう一度、見返した。
最後のページの端に、小さく、走り書きがあった。
「詳細は、王都の司法院へ照会のこと」
「王都、か」
この街から、王都までは、馬車で、何日もかかる。
「本気で、調べるつもりなら。……いつか、行くしかないかもしれない」
俺は、書類を、閉じた。
◆
記録庫を出る間際、職員が、周りを気にしながら、小声で、言った。
「……あの、これは、記録には、残っていないことですが」
「なんですか」
「13年前、あの家の取り潰しの時。まだ若手だった、うちの上司が、担当したそうです。今は、もう、引退してますが……街の外れで、隠居してるとか」
「その人の名前、教えてもらえますか」
「……ベルナールという、老人です。会えるかどうかは、保証できませんが」
職員は、それだけ言うと、そそくさと、奥へ戻っていった。
俺は、アイリスと、顔を見合わせた。
「ベルナール」
新しい、糸口だった。
真価堂の経営も、シャルダン家の謎も。どちらも、一歩ずつしか、進まない。
それでも、止まるつもりは、なかった。




