表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/26

2割の商売

 真価堂を開いて、ひと月が経った。

 帳簿の前で、俺は、頭を抱えていた。

「……おかしい」

 売上は、悪くない。客足も、増えている。なのに、手元の金が、思ったより、増えていない。

 開店前、俺の懐には、50,000クルと少しがあった。

 店の借り賃と、改装と、棚や什器で、18,000クルが出ていった。残りは、32,000クル。

 そこから、ひと月の商いで、買い取りに使った金が、21,000クル。売れたのは、そのうちの半分ほどで、売上が11,000クル。

 つまり、手元には、22,000クルしか、残っていない。

 棚には、まだ売れていない品が、眠っている。それを、全部、真価どおりに売り切れば、計算の上では、儲かる。

 でも、金は、寝ている。

「だから、言っただろう」

 帳簿を覗き込んだ、ゴダじいさんが、呆れたように、言った。

「真価と同じ値で、買い取ってたら、商売にならん。あの燭台、480クルで買って、いくらで売った」

「……490クル」

「儲け、10クルだ。飯代にもならん」

 ぐうの音も、出なかった。

 正しい値打ちで買う。その看板に、嘘はつきたくなかった。でも、このままでは、店が、続かない。

「なあ、じいさん。正直に買って、ちゃんと儲ける方法は、ないのか」

「あるさ」

 じいさんは、あっさり、言った。

「買値と売値の間に、堂々と、差をつければいい。隠すから、あくどくなる。明かせば、それは、手間賃だ」

   ◆

 その日から、真価堂の看板の下に、新しい札を、下げた。

『買い取りは、真価の8割。販売は、真価どおり。差の2割は、目利きと店の手間賃です』

 真価480クルの燭台なら、買い取りは384クル。売る時は、480クル。差の96クルが、店の取り分だ。

 包み隠さず、数字で、明かした。

「かえって、客が減るんじゃないの」

 アイリスが、札を見上げて、言った。

「2割も取るって、自分から、言っちゃうんだ」

「減るなら、それでいい」

 俺は、言った。

「他の店は、真価の3割や4割で、買い叩く。うちは、8割だ。それでも、よその倍以上、高い。……その上で、うちの取り分も、正直に見せる。それで離れる客なら、しょうがない」

   ◆

 結果は、逆だった。

 客は、減るどころか、増えた。

「あんたの店は、取り分まで、書いてあるんだねえ」

 常連になった老婦人が、笑いながら、言った。

「他の店は、いくら抜いてるんだか、分かりゃしないもの。ここは、気持ちがいいよ」

 正直は、看板になる。

 ひと月前の俺が聞いたら、笑ったかもしれない。でも、帳簿の数字は、嘘をつかなかった。

 新しい仕組みにしてから、半月。買い取りに14,000クルを使い、売上は19,000クル。差し引き、5,000クルが、手元に増えた。

 寝ている在庫を差し引いても、店は、初めて、まともに回り始めていた。

「ようやく、商人の顔に、なってきたな」

 じいさんが、店先で、目を細めた。

「9年、俺の店で、何を見てたんだって、思ってたが」

「見てたさ」

 俺は、言い返した。

「じいさんが、買い叩いた客の顔も、全部な。……ああはなりたくないって、思ってた」

「言うようになった」

 じいさんは、悪態をつきながらも、どこか、嬉しそうだった。

   ◆

 閉店後、俺は、帳簿を締めながら、ふと、考えた。

 真価の8割で買い、真価で売る。この仕組みが回るのは、俺の眼が、真価を、間違えないからだ。

 もし、この眼が、狂ったら。

 あるいは──誰かに、狂わされたら。

 この店は、その日のうちに、傾く。

 鑑定阻害の魔法。アイリスと、あの指輪の〈ERROR〉。

 真価を、隠せる者がいるなら。

 偽れる者も、いるんじゃないのか。

 嫌な、想像だった。

 俺は、帳簿を閉じて、灯りを消した。

 考えすぎだと、その時は、思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ