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小説 鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


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10/26

格上

 あの一件から、3日後。

 ゴダじいさんの店に、また、来客があった。

 今度の男は、前の代理人とは、纏う空気が違った。仕立てのいい上着に、指には、いくつも指輪。歩き方一つに、余裕がある。

 俺は、眼を向けた。

 〈真価:38,000クル〉

 感情の色は、驚くほど静かだった。〈苛立ち〉も〈焦り〉もない。ただ、値踏みするような、冷めた色だけがある。

「お前が、ノアか」

 声も、落ち着いていた。

「バルト商会の、副会頭を務めている。オルグという」

 副会頭。前回の代理人とは、格が違う。

「先日は、うちの代理が、失礼をしたようだな」

 オルグは、淡々と、切り出した。

「品のすり替え、証拠を揃えられて、言い逃れできなかったと聞いている。……見事だ」

 嫌味には、聞こえなかった。ただ、事実を、確認しているような口調だった。

「うちの代理は、この件で、更迭した。商会として、正式に、謝罪する」

 オルグが、深く、頭を下げた。

 予想していなかった反応に、俺は、少し戸惑った。

「……あっさり、認めるんですね」

「認めないと、こちらの信用が、余計に落ちる」

 オルグが、顔を上げた。

「バルト商会は、この街の流通を、大きく扱っている。信用があってこそ、成り立つ商売だ。……お前の眼は、その信用を、揺るがしかねない」

「だから、潰そうとした」

「そうだ」

 オルグは、隠さなかった。

「だが、失敗した。しかも、証拠付きでな。これ以上、下手な手を打てば、うちの方が、潰れる」

 俺は、じっと、オルグを見た。

 〈真価:38,000クル〉。この街で、それなりの地位にある人間だ。だが、感情の色に、嘘はない。今の言葉は、本音らしかった。

「今後は、正面から、付き合わせてもらう」と、オルグは続けた。「お前の鑑定は、正確だ。それは、商会にとって、脅威でもあり──使い方によっては、武器にもなる」

「協力しろ、ってことですか」

「今すぐには、言わない。だが、覚えておけ。この街で、大きく商売をするなら、いずれ、うちと組むか、うちとぶつかるかの、二択になる」

 オルグは、そう言うと、視線を、ふと、店の隅に向けた。

 そこには、黙って様子を見ていた、アイリスがいた。

 オルグの目つきが、一瞬、変わった。

「……お前は」

 オルグが、アイリスに、まっすぐ、歩み寄った。

 俺は、とっさに、二人の間に、体を入れかけた。

「待て」と、オルグが、手で制した。「取って食おうというんじゃない。ただ──」

 オルグは、アイリスの顔を、まじまじと、見つめた。

「どこかで、見た顔だと、思っただけだ」

 アイリスの表情は、変わらなかった。

「人違いです」

「……かもな」

 オルグは、なおも、しばらく、アイリスを見ていたが、やがて、視線を外した。

「気のせいならいい。だが、もし──」

 言いかけて、オルグは、口を閉じた。

「いや、なんでもない。今日は、これで失礼する」

 オルグは、丁寧に一礼すると、店を出ていった。

   ◆

 店に、俺と、じいさんと、アイリスだけが、残った。

「……なんだったんだ、今の」

 俺は、アイリスを見た。

 アイリスは、いつもと変わらない、感情の読めない顔で、窓の外を、見ていた。

「さあ」

「さあ、って」

「本当に、知らない」

 アイリスの声は、静かだったが、どこか、硬かった。

 嘘を、ついているのか。それとも、本当に、心当たりがないのか。

 俺の眼では、判断できない。

 ゴダじいさんが、腕を組んで、唸った。

「バルト商会の副会頭が、覚えがある顔、か。……ただの世間話とは、思えんな」

 俺も、同じことを、思っていた。

 バルト商会との一件は、ひとまず、片がついた。だが、それ以上に、大きな謎が、目の前に、転がり出てきた気がした。

 アイリスは、何者なのか。

 なぜ、この街の実力者が、彼女の顔に、見覚えがあるのか。

 俺は、窓の外を見つめる、アイリスの横顔を、そっと、見た。

 〈真価:ERROR〉。

 いつもと、同じ表示だ。

 でも、今日ばかりは、その空白が、これまでとは違う重さで、俺の胸に、残った。


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