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門の塔(改稿版)  作者: 烏鷹ヒロ
第2章
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第15話ー2 銀の門

 銀竜さんの体を掃除することになったコウとミキは、まず銀竜さんの体がどれくらいの大きさがあり、どれくらいの長さがあるのか調べることにした。

 

 ミキがトンガリ帽子から箒を出し、地面をタンッと蹴って空高くあがり、その大きさを目視で確認する。

 銀竜さんの体は本当に大きいらしく、全長は約十数キロメートルはあるという。体はただ平坦に長いだけではない。胴体は山のように大きく、それに加え大きな翼や手足もある。今日から急ピッチで掃除し続けても数週間はかかることが目に見えてわかり、コウはすでに気骨が折れるような気持ちになった。

 

 ミキとコウは、箒に二人乗りをして銀竜さんの尻尾がある場所へ向かった。

 

 コウは、銀竜さんの太く長い尻尾を見て先が思いやられそうになったが、ここでへばっていても仕方がないと気合いを入れ直した。

 箒から降りたミキは箒をトンガリ帽子に直したかと思うと、またトンガリ帽子を杖でポンと叩く。なんと、中から3本のデッキブラシが出てきた。

 

 「どうしてデッキブラシが? それも3本も」

 コウはミキに聞く。

 

 「こういうこともあろうかと思って、ダミアンさんに頼んで用意してもらったの」

 ミキは嬉々として答える。

 

 「こういうこともって……」

 「でも、本当にこういうことがあったでしょ?」

 ミキは得意げにそう答える。

 

 コウは何か言い返そうかと迷ったが、ここで言い返しても――ほとんどミキの独断でだが――掃除することは決まってしまったので、言い返すことはやめ、ミキからデッキブラシを一本受け取り掃除に参加することにした。

 

 二人に一本ずつデッキブラシが行き渡ったが、3本目のデッキブラシは何に使うのだろう? とコウは思った。

 

 ミキは杖を取り出し、杖の先でデッキブラシをポンと軽く叩く。すると、デッキブラシは少し宙に浮いたかと思うと、銀竜さんの尻尾の先へ向かい、毛先を撫でつけるように左右に揺れ始めた。自動で掃除してくれる魔法のデッキブラシとなったようだ。

 

 「これでよし」ミキはコウへ向き直り、

 「汚れの落ちにくいところは泡の魔法と水の魔法を使うからその都度言ってね。――それじゃ、掃除開始!」

 

 ミキの合図で銀竜さんの体の大掃除が開始した。

 まずは尻尾の先から順番に。デッキブラシの毛先を水で少し湿らせたあと、汚れた箇所を軽く磨く。すぐに汚れが落ち、銀竜さんの本来の鱗が姿を現した。

 

 銀竜さんの鱗は、日光を浴びて白銀に輝きとても眩しい。金属のようにも見えるが、手で触れてみると生命の温かさが柔らかく伝わってくる。こんなにも輝きを放つ美しい鱗を持つ生物などコウは見たことがなく、とても驚いた。

 

 だが、こんなにも美しい鱗が汚れやコケで覆われるほど放置していたことも疑問に思った。ここ数日や数年程度の汚れではない。コウたちが生まれるずっと昔からこのままの状態で放置されていたことが一目でわかる。怪我をしたのか、あるいは病気か。答えは銀竜さんに聞くことだが、疑問は置いておいて今は目の前の掃除をこなさなければ、とコウは手を動かした。

 

 門の塔の中にいる竜がどういう存在なのかはわからないが、外の世界における竜は魔法生物であったり、魔物であったりする。

 

 魔法生物とは、魔力を持った動物のことであり、普通の動物と変わらないように見えてなんらかの魔力を扱うことができる。魔物とは、魔法生物と同じく魔力を持った動物であるが、人に悪さをしたり危害を加えたりする。簡単に言えば、人に悪影響がないほうが魔法生物、人に悪影響を及ぼすほうが魔物である。

 

 先述した”外の世界における竜は魔法生物であり、魔物であったりする”というのは、一部の地域で目撃される竜は種類や個体によって人に悪影響があったりなかったりするので、とある地域にいる竜は温厚な性格で人に危害を加えないので魔法生物、またとある地域にいる竜は獰猛で危険なので魔物と区別されているので、同じ竜でも地域や種類などで差異がありニアリーイコールいうわけなのだ。

 

 竜と言えば、コウは幼少期に一度だけ見たことがある。と言っても、まだ病気で臥せっていたときに窓から見上げた上空を飛ぶ影を見た程度なのだが、太陽の一つを優に覆ってしまうほどの大きさでとても驚いたことを覚えている。一時は特別編成された自衛軍が出動するほどの騒ぎになり、バーオボ全体が竜の話題で持ち切りになったことを昨日のように覚えている。

 

 あのとき見た竜と銀竜さん、どちらほうが大きいのだろう?

 漠然と想像しながらコウは銀竜さんの鱗を磨く。泥が付着して取れにくい場所はミキに声をかけ泡の魔法を使ってもらうが、いちいち呼んでいると手間なので、コウはミキから泡の魔法の唱え方を教わり、空が真っ赤に染まる頃には泡の魔法が得意になってしまうほど上達した。

 

 その日の夜、銀竜さんの顔がある森が開けたあたりで野宿することとなり、コウが簡易なテントを張っているときだった。

 

 ミキがシングルバーナーで余った食料を使ってシチューを作っていると、銀竜さんが問いかけてきた。

 「どうだ? 掃除を諦める気にはなったか?」

 

 コウは作業の手を一瞬だけ止めたあと、すぐに手を動かし始め、そっとミキと銀竜さんの会話に耳を傾ける。

 銀竜さんは、ミキを諦めさせるためにわざと掃除をすることを了承したのだ、とコウはこのとき初めて気が付いた。

 

 ミキは一瞬ムッと表情を銀竜さんに向けたかと思うと、夕食のシチューに視線を移して、銀竜さんの問いに答える。

 「まだ尻尾の先だけなのに諦めるわけないです」

 

 銀竜さんは鼻で軽く笑い、

 「2人でやってまだ先端だけなのか。魔女なのだろう? 魔法でもなんでも使えばすぐに終わらせることだってできたはずだぞ」

 

 コウは、近くに落ちていた握りこぶしほどの大きさの石を使い、テントを固定するためのペグを地面へ打ち付ける。作業には集中しつつ、耳を像のように大きくしてミキと銀竜さんの会話に引き続き聞き耳を立てる。

 

 「確かにそうかもしれません。でも、しっかり手で磨かないと意味がないと思ったんです」

 「それは何故だ?」

 

 ミキは銀竜さんの問いには答えず、シチューを見つめたまま黙り込む。

 

 「答えられないのなら”意味はない”ということだな」

 「そ、そんなこと!」

 ミキは反論しようとするも、答えらしい答えがなかったようでまた黙り込んでしまった。

 

 コウは、ミキがこの銀の門で何がしたいのかすぐにわかった。

 

 銀の門へ入り出口の門がすぐに見つかったとき、「この門について調べてから出口に入ろう」と二人で決め、そこであのギザギザ角の鹿に会い、そして銀竜さんに会い……。ミキはそのとき、ただ銀竜さんの体を掃除したいだけではなかったのだと、ギザギザ角の鹿がこの銀の門の主である銀竜さんを何とかしてあげたい。その気持ちに答えるために掃除をすることを提案したのだと。だが、ミキの魔法ですぐに体の掃除を終えたとしても、今の銀竜さんのままだとギザギザ角の鹿の気持ちをわかってもらえないのではないか、ミキになりに考えており、その考えや気持ちを言葉にすることができないのだろう、とコウは思った。

 

 それからすぐ、テントが張り終えたのでこの少し嫌な空気を少しでも変えようと、コウは二人の間に割って入るかのようにテントの設置が終わったことを告げ、夕食を取り、しばらくしてコウとミキは就寝した。

 

 次の日は朝早くから、銀竜さんの体を掃除し、お昼ごろになれば銀竜さんの頭あたりに戻っては食事休憩を取り、また忙しなく掃除をして、夜になればその日使った体力をすぐにでも充電するかのように、泥のように眠った。

 

 3日目になると、ギザギザ角の鹿の仲間らしき森の動物たちが森の食料や近くに川があることを教えてくれ、食事が少しだけ豪華になった。

 

 森の動物たちは、耳が体の3倍はあるウサギに酷似したもの、体毛が黄金に輝いているキツネのような動物、なぜかずっと足でリズムを鳴らして踊っているクマのような動物、クシャミをすると頭に花が咲くタヌキのような動物など、外の世界では絶対に出会うことのない動物ばかりだった。

 

 この動物たちが所謂”魔法生物”で、外の世界では珍しく、中には高い値段で取り引きされたりするのだろう。これまでに幾度となく外からきた密猟者たちに狙われてきたはず。そのたびに怪我をしたり、仲間を失ったりしたはずだ。コウたちも密猟者たちと同じ外から人間なのに、彼らは怖がるどころかすぐ心を開いてくれた。

 

 コウはこの日から、ミキや森の動物たちが寝静まったのを見計らって、魔法の練習をするようになった。体は疲れているが、一分でも一秒でも早く色んな魔法を――ミキまでとはいかずとも、使いこなせるようになりたいと思っていたからだ。

 

 この日は、ミキから教わった盗人隠しの魔法を練習していた。

 目の前に置いた自分のサコッシュに杖を向け、「盗人から隠せ」と念じながら杖先をらせん状にクルクルと回す。海の門の中でミキがやったようにはうまくいかず、肩掛けの部分が見えていたり、あまり透明になっていなかったりと失敗続きだった。

 

 そして翌日。また朝早くに起床しては、朝食を済ませたらすぐ掃除をしに行く。

 

 この日からは、森の魔法動物たちが掃除の手伝いをしてくれるようになった。と言っても、デッキブラシはコウとミキの分、魔法で動いている分の3本しかないので、葉の付いた木の枝を使って砂を簡単に払ってもらう程度だが、それでも力を使って磨く箇所が減ったので進みが早くなった。

 

 いつしか尻尾の付け根、腰のあたりから両足の太腿と進んでいき、銀竜さんの下半身は日光を浴びてピカピカと輝き、まるで若さを取り戻したかのようにも見えた。

 

 コウとミキが銀の門へ入って一週間ほど経った頃だろうか。ミキと交代でコウがお昼休憩を取っていると、銀竜さんがコウに話しかけてきたのだった。

 

 「昔、あの娘と少し似た性格をした攻略者がいた」

 

 ミキの性格とは、掃除好きなところだろうか、それともちょっと強引なところだろうか。コウが少し悩んでいると、銀竜さんは続けた。

 

 「この森にやってきた密猟者を追い払ってくれたヤツでな。追い払ってくれたまでは良かったんだが、今度は俺と戦いたいと言い出してな」

 

 銀竜さんの言葉にコウは、「強引な性格のことか」とすぐに理解した。

 

 「銀竜さんと戦うって、よっぽど腕っぷしに自信がある攻略者だったんですね」

 僕にはそんな度胸ないや、と付け加えそうになったがコウは言葉を引っ込めた。

 

 「女の攻略者でな。仲間を何人か連れていて、その仲間は「早く出口にいこう」ってそいつを説得していたのになかなか折れなくてな。結局一か月も居座りおったが、諦めて出口に向かった」

 銀竜さんは、開いていた目を閉じて続ける。

 「人間の中にはいいヤツもいることはわかっている。今言った攻略者の女と、お前たち2人だけだけどな」

 

 銀竜さんはそう言うと、寝息を立て始めた。狸寝入りなのか本当に眠ってしまったのか、コウにはわからなかったが、銀竜さんが少しだけ心を開いてくれたことはわかった。

銀の門はもう少し続きます。


そしてお知らせです。

諸事情で忙しく、執筆する時間があまり取れないため

銀の門以降、3月~5月中旬まで不定期投稿となります。

新しく投稿した場合はX(旧Twitter)でもお知らせいたしますので

気になる方はフォローしていただけますと幸いです。


個人的な事情とはいえお待たせしてしまうことをお詫び申し上げます。

今後とも「門の塔」をよろしくお願いいたします。

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