第18話 ありきたりなSPさんのよくあるシカト
うわ。人がプロポーズするとこ、生で初めて見た!!
いや待てよ。そもそも生でそういうシーンに出くわすこと、普通無いような?
梅園本家の若様の、愛依へのプロポーズ。
僕の脳みそを置き去りにしたまま、ゲームのイベントシーンみたいに進行していく。
「梅園さん」
愛依が若様への歩み寄る。僕は棒立ち。
「先ほどのお言葉、身に余るお話です。えっと、でも、わたしもまだ気持ちの整理がつかないので‥‥そのぅ、まだ14歳ですし、これから色々な人との出逢いもあるかもなので、親と相談したりして‥‥ええと」
ぺこり。
両手を揃えて可愛らしく頭を下げる愛依を見ていた。白衣の間から、セーラー服のリボンがふわりと垂れた。
「いやいや。そっかそっか。わかったよ。今どき政略結婚も無いもんな。ごめんね。愛依ちゃん」
「‥‥‥‥いえ」
ふたりともバツが悪そうだった。愛依の台詞も曖昧だったし。でも若様が雰囲気で察した、みたいなやりとりだった。
ちなみに僕にはもはやリアクションの選択肢も正解も無い。動けないまま、ひたすら空気になることに徹していたよ。
「あっはは。いやまあこれから。これから色々考えてくれればいいんだ。‥‥そうだ。愛依ちゃんのハートを射止めたら恋愛結婚だろ? じゃあオレにもワンチャンある? その路線で頑張るとするかぁ~~!」
う~ん。さっきの愛依のセリフのニュアンスは僕でもわかる。丁寧で遠回しだけど、愛依がやんわりと断る雰囲気を出した。
でも若様は「色恋になればワンチャンある」思考に秒で切り替えている。
この人、家柄、人間性、退魔スペック、ルックス全部最強だけど、一番つよつよなのはこのメンタルだよなきっと。僕だったら、この場に居られずに逃げ帰って部屋で泣いてるよきっと。
そんなわけで、僕と若様は診察室を後にする。このまま移動して自衛隊さんの演習場に行くんだよ。そこで光柱とかを発動させて、今時点の残存法力の記録を取るんだ。
どっかのマンガみたいに「体内の法力残量」を測定する機械とかがあればいいんだけど、あいにくそういう便利アイテムは無い。技の威力と回数で、ざっくり把握する感じだよ。
もし、さっきの戦闘と合わせて合計の法力が多いようだったら、僕も若様も愛依の治癒で法力が回復したってことになるから。
いよいよ診療室を出ようとする。「ああ、やっとこの気まずい空間から解放される」と弛緩した瞬間。
ドアノブに手をかけた若様が愛依に振り返った。
「愛依ちゃん、さっき『9割の法力を行使した』って言ってたね? どうして?」
「あ、はい。実家で治癒の稽古をしていて、法力を使い切った時の感覚を掴んでいたので。あくまでわたしの感覚ですが」
そうなんだ。さっき言った「法力計測器」は無いんだけど、術を発動する練習をしていれば、法力ゼロになることはある。‥‥っていうかゼロになるまで稽古をする。
そうしていれば当然、例えばどのくらい光柱を発動すればゼロになるか、数えても感覚的にも把握することになる。
だって。魔物滅殺中に「あと何発撃てるか?」わからなかったらヤバいよね? だから数値として正確にはわからないんだけど、自分の法力の量のおおよそは把握してるんだよ。
まあ僕はそれ苦手な部類かな? 毎回法力ゼロまで使い切ってるからな‥‥!
「あ、そうじゃなくて。なんで『9割』で止めたの? 全部使い切らなかったの?」
「えっ!?」
あっ!? そうか。
感覚的に残存法力を把握してるのは、たぶん愛依も同じ。
その上で、なんで全部出しきらなかったのか? を若様は訊いてるんだ。‥‥‥‥そういえば‥‥どうしてだろ?
「愛依ちゃんの法力、全注入してくれたほうがさ、『回復したかどうか?』の答えの正確性が増すんだ。愛依ちゃんの『9割』は感覚でしょ? 毎回全部使ったら、毎回同じ法力量になるから」
なるほど。その通りだ。感覚で「9割」ってやると、その感覚が狂った時に誤差が出るか。
まあ僕は、愛依はそんなミスはしないと思うけれども。
「もし時間大丈夫なら、残りの治癒の法力行使してもいいよ? な? いいだろ咲見君も」
若様に肩を叩かれる。
うんまあ。僕は別に大丈夫だけれども。
「9割でお願いします!」
叫んだのは愛依。‥‥今「叫ぶ」って言い方をしたけれど、そのくらい大きい声だった。
なにげにこの子のこんな大きな声、初めて聞いたかもしれない。
愛依は、大声を出したせいか「ごめんなさい」とうつむいて、足を閉じてもじもじしていた。
「そっか」
ひと言発して若様が立ち去る。
僕も彼女に手で挨拶をしてから後を追いかけた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
SPさんの黒塗り高級車で、演習場へと向かったけれど、車内の若様はびっくりするくらい無口だった。
別に禁止されてはいないので、僕はひたすらスマホをいじっていた。
あ、充電切れそう。助けて。
ピコン。
え? メール?
愛依からだった。咄嗟に若様に見えないように角度を取る。
『さっきはごめんね。は~びっくりしちゃった』
『もしかして若様?』
『うんだって。いきなりあんなこと言うんだもん。断り文句をお母さんと考えといてよかったけど、しどろもどろになっちゃったよ』
『そんなの用意しといたの!?』
『正直今、結婚とか言われたも。あ、まだ演習場着かない?』
『うん。若様と車内』
『ごめんなさい。じゃメールするの良くないね』
『大丈夫。バレでないし、着信音も消したから』
『暖斗くんそういうコトは如才ないのね?』
「え?」
思わず声を漏らして、メールを打つ手が止まる。「如才」って何? 愛依ってたまに難しい言葉使うんだよな。
あ、そうだ。スマホで調べればいいんだ、と他のアプリを出そうとした所で電源が落ちた。
「あ~~充電が」
「あ、コレどうぞ」
神レベルの反応速度で、運転中のSPさんから充電器を渡された。ちなみに赤信号で停止中にだよ。
うお!? 速い!?
さずがはSPさんだと思った。普段は政治家とかの要人警護をしていると聞いた。
そのデキるSPさんにひとつ確認をしてみる。
「充電器助かります、ありがとうございます。‥‥で、あの『授乳室』の表札は‥‥いつ直してもらえますか‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
シカトされた。解せぬ。




