第17話 ありきたりな御曹司のよくある求婚
次の日。
結局前回の魔物は、他の人が対応したよ。さすがに今回の出撃は無理だった。寝込んだばかりの中学生を叩き起こして戦わせるほど、梅園家はブラックじゃあないし。
だからほ乳瓶で栄養剤は当然飲んでないよ。愛依も飲むか訊いただけ、ネタだよネタ。愛依の目がちょっと真剣だったのが気になるけど。
「なるほど咲見君。なかなかいい動きだ!」
ま、それはそれとして。唐突でアレなんすが。
「良し! じゃあ援護を頼む! 任せたぞ!」
あの、梅園本家の。
「よし! こっちは任せろ! トドメはオレが刺す!」
若様と共闘しています。
経緯はこうだよ。
愛依の治癒能力の調査が一向に進まない(本家に愛依が行きたがらない)ので、若様のほうからこちらに出向いてきたんだ。
僕の退魔任務に、若様が飛び入り参加する形で。
愛依は、僕の治癒になら法力を使うから、そこに若様も相席するみたいな形だよ。
同時に、愛依の能力予想。
「分家術者の副作用症状の劇的な回復、及び法力の回復が、咲見暖斗以外でも発現するのか?」
目下この命題が退魔一族の関心事になっていて。
それを、僕と若様とで同時比較することで確認できるから。
「や、これで最後か」
流れるような動きで、若様が魔物を滅殺して。
街の郊外に静寂が訪れる。
「どうも、お疲れ様です!」
「ありがとうございました!」
ハキハキした声。こういう所、なんだよな。
若様は、自分が一番激しい戦闘をしていたのに、僕らとか自衛隊の人とかに深々と、丁寧に頭を下げる。
礼儀正しくて、謙虚なんだ。
愛依が若様を評して「立派な人」っていうのが良くわかる。
対して、僕がまるでガキなのも、図らずも見えてきてしまう。
いや、SPさんとかに失礼をしたつもりは無いよ? でも若様みたいに、キチンと挨拶してたか? というと‥‥。
本当に若様は立派な人だ。
だからこそ、なんだけど‥‥‥‥!
同時に比べられたくない。横に立ちたくない。
「では、右腕をこちらに」
愛依の前で、人として男として目劣りする僕を、晒したくない。
「今からわたしの法力を行使します。腕はそのままに、お願い致します」
いつもの病院、の「授乳室」ではなくて一般外来。
そこで若様と僕。ふたり並んで、愛依からの「癒しの法力」を受ける。
実は、愛依が本家に行かない間も、先日の事案「僕が法力ゼロになって、副作用も発症したにもかかわらず回復。法力も回復した可能性」は、検証されていた。
逢初一族は愛依だけじゃないからね? 親類の人が本家とかに「癒しの法力」を行使していたそうだ。結果は‥‥‥‥。
件のような、特別な効果は確認できず。
あくまでも「癒しの法力」、その効果は今まで通り。キズの治癒促進だったり、分家筋が副作用になった時の回復促進だったり、だそうだよ。
逆に言えば、そこまで検証をやり終えたからこそ、もう直接愛依を調べるしか無くなったとも。
「あ、動かさないで下さいね。そのままで」
椅子に座った僕と若様。‥‥あ、ちなみに今回、僕は副作用を発症していない。
そこまで法力を使わなかったというか、ほぼほぼ若様が滅殺してくれたからだ。
台の上に乗せたふたつの右手に、それぞれ愛依が手をかざしている。
手の輪郭が微かに光ってるから、癒しの法力を発動しているのがわかる。
僕と若様は椅子に座って机に右手を乗せて、愛依の法力をじっと受けとめている。
***
診察室でじっとしていると、嫌が応でも実感してしまう。
若様は身長185センチ、肩幅の広い細マッチョ。
一方僕、170センチ、中肉中背。
若様は短めの髪に指を通して、人懐っこい笑顔で白い歯を見せた。
「咲見くんと違ってオレは副作用出ないからどうかな? ふたりは退魔後はいつもここに入院してんの?」
全国の皆さんの好感度MAXの、実に爽やかな笑顔だ。
「はい。は‥‥咲見くんはわたしが担当なので」
愛依さん今「暖斗」って言いそうになったな。
「そうか。もしこれでオレの法力が回復するようなら、これからも君にお願いすることになるだろうけど、どうだろうね?」
「そうですね。結果が出てみないと何とも、ですが」
ハキハキとした若様にずっと言葉を返す愛依。うう。会話に入れない。
「愛依ちゃんは見たことある? 今日は咲見君と戦ったけど、中々良い動きだったよ。うん。愛依ちゃんといい、今の中学生は有望だなぁ」
これだよ。若様の「気配り」。僕もちゃんと話題にする。
こういう人だから憎めないし、何なら「褒められてうれしい」まである。
でも今さらっと「愛依ちゃん」呼びしてたよなあ。うう。いつの間に。
なんか、家に帰りたくなってきた。
「ところであの件、君はもう聞いてるよね?」
いくつかの雑談の後、若様は唐突に切り出してきた。
「ええ。お話しは両親から伺っております」
あの件。
「愛依が本家へ嫁入りする件」だ。イキナリぶっこんできた。え? ここ僕もいるけど?
「急に大人の事情でこんなことになってしまって、申し訳ないと思う。でもオレは真剣に考えている。もちろん逢初家の血筋を本家に、って目的もあるんだけど、でももうオレはそういうの関係無しに、君とのことを真剣に考えている」
えっと。‥‥‥‥けっこうガチ目のプロポーズですか?
なぜ今? ナゼここで?
梅園本家の御曹司の、愛依への事実上のプロポーズ。
頭が混乱して考えがまとまらない。ただ、愛依の横顔を見つめていた。
それしかできなかったし、愛依のくちびるが動くのが恐かった。
「治癒の法力の行使、終わりました。わたしの保有法力の、九割は使えたと思います」
愛依は、僕と若様ふたりの手首に、そっと控え目に置いていた指を離すと、背を向けて器材の片付けを始めた。
僕らがまくっていたシャツの袖を戻して、衣服を整えていると。
「梅園さん」
立ち上がった若様に、すっと愛依が歩み寄った。




