表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

第14話 ありきたりな回復実験のよくある予行演習

 




「‥‥‥‥おねがい‥‥‥‥だめ?」


 微かに兆候はあった。


 こんな夜中に、僕の部屋「授乳室」を訪ねてる時点で。


 気がつくと、膝の上にあった彼女の両手。応援する意味で軽く添えた僕の指は、熱く握り返されていた。


 振りほどけない。



「‥‥でも」

「‥‥あくまで『実験』よ」


「‥‥いや、だめだよ」

「‥‥おねがい。男の人にハグとかしたら、顔がものすごく赤くなるの」


「え? それダメなの?」

「だめよ。‥‥‥‥すごく恥ずかしい」


 あ、「赤面症」って聞いたことある。女の子は気にするんだって。

 調べたいけどスマホが。


「予行演習?」

「うん、そうよ。‥‥暖斗くんとは昨日、もう一回してるし」


「いや! その言い方は‥‥」

「だって本当だもん。魔物戦闘で夢中だったけど、そうだったし」


「元カレじゃないんだから」

「え~。だって。本家で再現実験するにも、本番と同じシチュで、してもいいんじゃない?」


 ちゃんと「実験の練習を」と入れてくれ。


「暖斗くんとしたい」


「‥‥いや‥‥その言い方‥‥」



 設定忘れてた。



「そういう意味での、『あなたとはもう、一回経験済み』よ?」



 この()、頭はいいけど天然だった。




 ***




「現場を再現しましょう」


 愛依が、馴れた手つきでベッドメイクをし直す。よれたシーツがたちまちピンと張られる。


 ああ、実家の医院を手伝うからか。患者用ベッドの扱いに長けてるよ。


「はい。じゃあここに仰向けになって。あの時は後遺症を発症して、倒れてたんだよね?」



 時計を見る。午前4時32分。


「そうそう。‥‥そしてこうして‥‥わたしがここまで駆け寄って‥‥‥‥」



 町はずれのとある病院、の。

 とある「授乳室」。



「こんな感じで、‥‥‥‥覆いかぶさったんだよね‥‥‥‥」



 この現代日本に、「魔物」と呼ばれる未知の怪物が出現した。

 我々梅園一族が対応しているものの、その存在を初めて知った国民の動揺は、如何ほどのものだろう。

 比喩とかじゃなく、騒然としてるんだ。この、日本という国全体が。

 そのパニック寸前のこの国の片隅で。

 世界から隔絶された空間で。――それを嘲笑うかのように、僕らは身体を重ねた。



「じゃ、いくよ。‥‥‥‥はい」



 逢初愛依の「治癒の法力」の。

「法力回復効果確認実験」の。

「予行演習」が始まった。




「‥‥‥‥‥‥‥‥どう? 暖斗くん」

「どう、って?」

「何か身体に変化は?」

「う~~ん。どうだろう?」


 あの時と同じ格好。僕はベッドの上で仰向けに倒れて、愛依が僕に泣きつくポーズで首に手を回している。


 ひとつ違うのは、あの時は、彼女は完全に僕に体重を預けていたけど、今は胴体は離している点だ。


「何かおとといと違う感じが」

「そ、そうね。おとといは身体をもっと密着させてたわ」


「お? え?」

「照明消していい? すっっっごく恥ずかしいの」


 深夜に照明が点いてるのもおかしい、と、この部屋は枕元のライトのみにしてたけど。


「それだと予行演習にならないんじゃ? だって、本家では明るい部屋で実験するだろうし」

「で、でもわたしが希望したら、灯りくらいは消してくれるはず」

「でもそれって、真っ暗な部屋で若様と‥‥‥‥あっ?」

「ひあああっ!! ‥‥だめ。‥‥それはだめ!?」

「そうなるよね」

「‥‥‥‥ありがとう。本家の実験の時は、誰か女の人に同席してもらうわ。お母さんとか。灯りをどうするかも考える」

「あっ。ああ。そうだね」

「うん。ありがとう。やっぱり暖斗くんと予行演習やるのは意味あるよ。こういう問題が可視化するから」


 そうなのか。


「あと、やっぱり照明消していい?」

「うん。いいけど」


 僕の首に手を回したまま、彼女の頬がみるみる赤らむ。



「ね? その‥‥‥‥明るいとやっぱり‥‥‥‥色々恥ずかしいの」

「えっと? さっきから一体何のこと?」



「だから‥‥‥‥照明消していい?」



 少し怒らせてしまった。



「大丈夫。暖斗くんとは一回してるんだから。大丈夫。恥ずかしくない。恥ずかしくない。‥‥‥‥えいっ」


 真っ暗闇の部屋。謎の呪文とともに、彼女のぬくもりが、寝そべる僕の肋骨に当たった。


 彼女は柔らかかった。


 彼女の身体の中心線が、僕の中心線と重なった。



「‥‥‥‥‥‥‥‥どう? 暖斗くん」

「柔らかい」

「そうじゃなくって。何か身体に変化は?」

「ああ、そっちか」

「そっちって何? じゃなくて、後遺症は? 法力は?」

「う~~ん。どうだろう?」




 女の子用のシャンプーの、花のような甘い香りがする。


 それとは別に、果実のような新鮮な香りもうっすらする。


 彼女が僕に身体を預けている。やわらかくてあったかい。


 暗闇の中。思わず形を確認したくなる。



「だめよ」


 両手で彼女に触れようとして、止められた。


「‥‥よくわかったね‥‥?」

「胸の筋肉が動いたから。だめよ? 暖斗くんは首から下が動かない設定だもん」


 その設定は生かすのか? 14年の人生で初めて知る。


 自分の腹の上の女の子を抱きしめられないって、なかなか我慢が難しい。


「でもさ。それだったら僕の法力、空にして本当に副作用にしたほうがいいし、当日の服とかも再現したほうがいいよね?」

「‥‥ごめんなさい。これ‥‥そもそもわたしが本家でやる実験に馴れるための予行演習だったね。わたしも混同してたわ。‥‥ごめんなさい」


 そう彼女は謝りながら、申し訳なさそうに付け加えた。



「‥‥‥‥でも、やっぱり両手は動かさないでほしいな。だってこんな暗闇で暖斗くんの手がわたしの肌に触れたら、びっくりしちゃうもん」


「あ‥‥‥‥」




 なかなかにエグいことをイメージしてしまった。


 若様、あのさわやかイケメンは、このシチュで我慢するだろうか? 本家の密室で。


 悪い方向を想像してしまった。


 でもなんでだろう。愛依が明確に否定してないからなのか‥‥!?


 そのシチュエーションの中の愛依って。





 あんまり嫌な顔をしてないんだよな。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ