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第12話 ありきたりな逆夜這いのよくある雑談

 




「ごめんなさい。こんな時間に」



 その声は。


 授乳室のドアを開けたのは、愛依さんだった。



「‥‥暖斗くんが3Fに来てるの、看護師さんが教えてくれて」


 愛依さんも眠れなかったらしい。4Fを散歩していたら、3Fで僕と話した看護師さんに声をかけられたそうだ。


 彼女は僕の担当医で、医師権限がある。この病院で検査を受けている、とはいえ。


 ぼくのいる「授乳室」を訪問するのには、何ら問題はないそうだ。


 マジかよ?



 この部屋には、愛依さん用の診療用丸椅子(ドクターズスツール)がある。

 けど、彼女はベンチに腰掛けるみたいに、僕の隣り、ベッドに並んで座った。


 僕と同じ、浴衣型の患者着を着ていた。色は女子用でピンクだけど。


 消灯時間後に室内の照明が煌々と点いているのもおかしい。

 そんな理由で、枕元のナイトライトだけスイッチを入れた。桃色の体のラインが、うす暗い室内に浮かび上がる。





「‥‥とはいえ、医師とは関係ないの。‥‥何だか落ち着かなくて。お話がしたくて」


 それは僕もだったから。


「あれから病院食をいただいて、お風呂入って、検査は明日から、ってなったの。学校は休むけど、勉強道具は持って来たかったの。でもそれが来るのも明日」


 ふ~~ん。


「それでね。手持ち無沙汰なのかな。少し寝たんだけど、すぐ起きちゃって。あ、妹の勉強見てあげる約束してたの。でもしょうがないよね? こんなことになったら」


 ‥‥本当に医師とは関係ないね。完全に雑談だ。


「妹はふたりいてね。すぐにわたしを頼るの。だからわたしは『自分で考えなさい』ってよく言うんだけど。あ、一応実家には、今回の経緯は報告したよ。本家にもすぐ報告が行ったよ」


「そうなんだ。本家はどう動くんだろうね? 僕は今日、確かに一度後遺症で動けなくなったよね? なのにすぐ回復するなんて」


 あ、「回復した」のかすら不明だ。果してあれが「後遺症」だったのかも。


「‥‥‥‥。梅園家の長い歴史でも、『前例がない』そうよ。職員総出で過去の文献調べてみるって。暖斗くんも、明日からその検査があるでしょう?」


「え? そうなの?」


「うん。今回不思議と後遺症状が軽いでしょ? それも含めて精密検査の予定が入ってるよ。医学的な検査と、法力とか、梅園一族系の能力の検査」


 マジか!? 身体が動くから、すぐ退院できると考えてた。

 甘かった。僕の場合は、動けるならそれはそれで、調べるべき対象になるんだよ。



「うっふふ。残念でした~~。数日はこの病院ね? わたしと一緒に」


 彼女はちょっと、嬉しそうだった。そして。


「ふ~~~。ありがとう暖斗くん。色々お話しできて、ちょっとすっきりしたよ」


 両腕を前に伸ばして、深呼吸をする。

 この()、本当に、雑談をするために僕の部屋まで来たのか‥‥。




「また、こんな感じでお話ししに来ていい? 夜中になっちゃうかもだけど‥‥?」





 ‥‥‥‥‥‥え? はい?





 ***





 病院の朝食はキッカリ7時。それはそう。


 ただ昨晩、深夜徘徊と明け方トークをした僕の脳は、重い。


 果たして予告通り、彼女は来るんだろうか? またあの時間?


 などなど考えながら、言われるままに検査&検査をしていく。

 採血。注射は嫌い。


 その合間はベッドの上でうとうとする。寝不足でもそこで帳尻を合わせられるのは良い。





「来ちゃった」


 マジで来た。


「ごめんなさい」


 あ、いや。


「ホントに来ると思わなかったから、驚いただけだよ。こんな時間だし」


 彼女は僕のベッドの上。昨日と同じ場所にちょこんと座る。

 時計は午前4時だ。


 実は、夜になっても寝れなかった。昼間多めに仮眠を取ったから。つまり昼夜逆転しちゃってるってことだけど。


「わたしもなの。なんだか夜は寝れなくて。誰かとお話したくて」



 彼女の妹の話。学校の様子。あ、僕も愛依さんも一応オンラインで授業は受ける。明日から、検査の合間にだけど。そして。



「‥‥‥‥ここを退院したら、梅園本家に呼ばれてるの。‥‥若様と『実験』するんだって」


 唐突にその話題になった。


「実験!?」


「そう。今日の検査でわかったでしょ? 暖斗くんは昨日の戦闘で法力を使い切っていた。それで副作用を発症して倒れ込んだ。‥‥でも」


「あの時は、気がついたら動けるようになってて。その後は法力使って鳥型を滅殺した‥‥!」


「そうよ。その時にわたしが暖斗くんに覆いかぶさっていたから、わたしが癒しの法力を直接、暖斗くんに流しこんだ可能性が出てきたの。わたしも必死で、憶えてないけど」


 そうだった。「逃げろ」って言ったのに、愛依さん僕から離れなかったんだよ。


「それでね。若様にもわたしが同じことをしたら、同じことが起こるかも、って仮説が」


「え? 『同じこと』!?」


 確か、泣きながら僕の首に巻きついてた。あれを!?


「うん。『同じこと』をやってみて欲しいって」


「‥‥‥‥」


 言葉がない。想像したくない。あれ? 本家の人は法力使い果たしても副作用で倒れたりしないよね? ‥‥あ、違う。法力が回復するのか調べたいんだ。


「えっと、『治癒の法力』って人体に使うと法力(MP)全回復、とかする?」

「しないよ。しないもん。怪我が治ったりはするけど。それだって普通の治療と組み合わせて、少し予後(よご)が良くなるくらいだし」


「予後?」

「あ、ごめんなさい。処置や治療をしたその後の経過、って意味よ。法力は後遺症を治すために、秘薬に込めるものなの。人体に使ってそうなるなら、もう暖斗くんにそうしてるわ」

「医学用語か。さすが医者志望。はは」


 そりゃそうだよな。僕もそう説明を受けてきた。今までは。

 でも今回、僕は後遺症から復活してしまって、直後に能力を行使してる。


 もし、逢初一族の中でも彼女にだけ、そういう能力が発現しているのなら。

 魔物との戦いの様相が変わる。


 検証しないワケにはいかないだろうな。



「でも、本家からの指示じゃあ断れないか。」

「うん」


 僕のすぐ横、ベッドの上、ベンチ座り。





 愛依さんは、両手のひらをぎゅっとして、俯いていた。





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