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新たな目標




スノウベルが俺に剣をくれた。

魔法の原理はよく分からないけれど、とにかくとても美しくて、割れないガラスの刃を持つ、鋭利な剣だった。

俺がどれほど嬉しかったかは、言うまでもないだろう。

その上彼女が、自分から初めて口づけをしてくれた。

あの柔らかな唇が額に触れた感触に、俺は心臓が震えるのを感じた。

抱きしめた彼女の、柔らかな温もり。

そう、俺は割と頑張っていた。

余裕じみた笑みを張り付けて、緊張を押し隠して、だいぶ頑張って彼女の背に腕を回していた。



そこへこの珍客である。


「先輩、もしかしてまだ昨日のこと根に持ってます?」

「もういいじゃん、邪魔しちゃったのは謝るって!」


せっかく珍しく、俺とスノウベルはいい雰囲気だったはずなのに。

こいつらのお陰で気分は台無し。

こうして俺とスノウベルのちょっぴり大人(?)な逃避行は、お子さま修学旅行へと変貌を遂げ、幕を閉じたのであった。完。


「でもわたしは楽しいわ。二人がいてくれて。最初はちょっと、驚いたけどね」

柔らかな日差しの中、スノウベルが微笑む。

「それに二人だって、逃げて来たのでしょ。味方は多い方がいいわ」

そう言う彼女の瞳は、ひたすら澄んでいた。

いや、俺だって本当は分かっている。

本当はこんな浮ついた気分でいてはいけないのだ。

彼女は魔女だとばれて、俺は彼女を庇うことで、国を敵に回した。

敵は未だに俺達を探し回っているだろう。

でも、時折追手に追われ、血を見ながら戦っている俺達だからこそ。

たまにはちょっとした触れあいをしても、許されてはもらえないだろうか。


いいや、そんなのは詭弁(きべん)だ。

俺達はこんなことをしていないで、やるべきことをしなくちゃならない。

俺はアルフレッドを見捨てた。

そしてリナリアも、彼の所から逃げて来たのだという。

今頃あの可哀想な王様は、血眼になって俺達を探しているかもしれない。


きっと原因があるはずなのだ。

彼がこうなってしまった原因が。

前王を殺した犯人を見つけなくては。

アルフレッドを正気に戻すため。そしてスノウベルの名誉のためにも。


「カインってば、さっきから一人で百面相してる」

「考え事してるんだよ。俺なりにな」

「スノウベルのこと? それとも……その、アルフレッドのこと?」

「全部だよ、全部。――俺はやっぱり、協会が裏で何かしら動いているんじゃないかと思うんだ」

「――聖ドルムト協会のことですよね。仰る通りです」

マルセルがちらりとこちらを見上げる。俺はこの生意気で賢い後輩を見下ろした。

「僕、以前から陛下の身の回りを少し調べて回ってたんです。……前に先輩達の試合に割って入ってしまったでしょ。あの件は申し訳ないと思っていますが――あの時も、怪しい影を追っていたんです」

俺はちょっぴり首を傾げた。このいけすかない少年が、結局誰の味方か分かりかねたのだ。

「お前は結局、何者なんだ?」

「僕はもともと、田舎の魔法使い見習いでした。でも師匠の補佐をしたかったし、学園で勉強もしたかったから、王都に行ったんです。師匠は王都で働く魔法使いですが――彼に遭った時、陛下の周りの影を探る役目を仰せつかったんです」

「それが今ではこのザマか。国王に反逆する立場になったと」

「はい」

マルセルは、どこか食えない表情で告げた。少し申し訳なさそうだが、その瞳に後悔はなかった。

「だってあの新王はリナリアを傷つけようとしましたから。僕にも限度ってものがあります」

「マルセル………!」

わっとリナリアが場違いな声をあげる。

「ありがとう。わたしをそんな大切に思っていてくれたなんて」

そのまま彼女はマルセルを抱きしめようとしたが、マルセルはひょいとそれをかわした。

「勘違いしないで。友達を傷つけられたら、誰だって怒るでしょ」

「友達……友達……。うん、いいの! わたしは赤の他人から、マルセルの友達に昇格したんだ!」

健気すぎて呆れる。というか少しかわいそうになってきたが、それにしてもうるさい。こいつは少し静かにできないのか。

「離れてよリナリア。邪魔」

「相変わらず冷たい。わたし達友達じゃないの!」

ああめんどうくせえ。ちらりと視界の端を見ると、スノウベルが非常に羨ましそうな顔で二人を見ている。俺はなんとも言えない気持ちになった。

「――とにかく、ええと、とりあえず協会へ潜ってみないか。このまま逃げ続けるより、手掛かりを見つける方がいい」

「そうですね」

ふといつもの冷静さを取り戻し、マルセルが口を開く。

隣でうるさくしているリナリアは無視だ。スノウベルがやっとおちついたような様子で、こちらの輪に入ってくる。

「敵の懐に入り込むようなものだわ。うまく行くかしら」

「その件ですが――メイアス先輩には別の場所の探索をお願いしたいんです」

「別の場所?」

俺が片眉を上げると、マルセルは真面目な顔でこちらを見上げた。

「最近、魔灯(ロードリンデ)について、何か聞いていませんか」

魔灯(ロードリンデ)……。――!」

俺は唐突に思い出す。真っ黒いさんが言っていたはずだ。

「国にとって危険だから、どこかへ移して破壊するって……。もう移動させたみたいだったけど――その場所を、真っ黒いさん……ロディオに聞かれたんだ」

「なぜ彼はそれを知りたがったんでしょう」

マルセルは至って真剣な目をしている。きっとこれは謎の核心に近いことなのだろうけど、俺にはさっぱりだった。

「分からない。そもそも、あいつはアルフレッドの一番の側近と言っても良かったんだ」

本当は俺が一番であったら良かった。今はもう、そんなことを口に出す資格もないけれど。

「ロディオは場所を知っていておかしくない。でも教えられていない。――なぜアルフレッドは教えなかった……?」

「考えても答えは出ないわ」

すっと歩み寄り、口を開いたのはスノウベルだ。

「わたしはその魔灯(ロードリンデ)を探しに行けばいいのね。――それについては、少し目星がついてるわ」


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