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スノウベルのお友達


「ごめんねカイン。知ってたら邪魔しなかったんだけど」

リナリアが困ったように笑う。わたしはもう見ていられなくなって、自分のベッドに黙って座り込んだ。


「すみませんね、メイアス先輩。本当に、お邪魔するつもりはなかったんですよ」

気遣うように言ってくれたのはマルセルだ。顔を上げれば、彼はちょっぴり申し訳なさそうな顔をしていた。

「別にエーベルト先輩の方に気を使う気はないですけど――いや、なんでもありません。とにかく、すみませんでした。僕たちは先輩方と合流しようと思ったんです。敵が同じなら、一緒に居た方が良いと思ったので」

その言葉に、わたしは思わず彼を見る。

「敵が同じ?」

「ええ。――まあ、言い方は良くないかもしれませんが、僕らも国王陛下に逆らう者なんですよ」

その言葉に、カインも驚いたように振り向いた。

「お前たち、なんで――――ああ、……ああ、そうか。お前がリナリアを――なるほど」

彼はなんだか何かを理解したらしく、うわぁ面倒くせえ、と呟いて額に手を当てた。

一体どういうことだろう。

なぜこの二人は、国王に背を向けたのだろう。


マルセルはじっとカインを見上げた。

「誤解しないでくださいよ。リナリアが困っていたから、仕方なく逃亡を手伝ってあげただけです」

「それほんとか? ……まあお前も、大概お人好しだよな」

「誰よりお人好しのエーベルト先輩に言われたくはありませんね」

「なあそれ褒めてる? なんか貶されてるように聞こえるんだけど」

「褒めてますよ」

マルセルはなんだか確信に満ちた瞳で言う。


そこにリナリアが割って入った。

「ねえカイン聞いてよ。マルセルがさぁお城にね、」

「余計なこと言わないで、リナリア」

「面倒くさいから俺は寝る」

「えーちょっと聞いてよー」

「うるさいわ。お前の話いつも同じじゃないか」

「同じじゃないもん」


わあわあと二人は騒ぎ始める。

マルセルがため息をついて、開けっぱなしだった部屋の扉をしめた。


それにしても、カインとリナリアは楽しそうだ。

前から思っていたけれど、あの二人は仲が良い。

なんだかカインも、素の表情を見せている気がする。それもリナリアに対して、わたし以上に。


カインはきっと、わたしを少しぐらいは特別に思ってくれているはずだ。そう信じている。

でもやっぱり、仲良く言い合いをしている二人を見ると、ほんのちょっと、切なくなってしまう。

わたしはちゃんと分かっているのだ。カインがわたしにやさしくしてくれるのは、幼馴染だからかもしれないってこと。彼は昔から、困っている人間を放っておけない性分だから。


彼が誰を好きになろうと、それを止める権利はわたしにはない。カインが幸せであれば、わたしはそれでいい。


無意識に、もっていた毛布をぎゅっと握りしめてしまった。


「ね、ねえ」

不意に声を上げたわたしに、二人はぴたりと動きを止めた。

「ベッド、二つしかないけど、――その、もしかして、リナリアはカインと寝るの?」

「いやいやいやいやいや」

重なるように二人が言う。

そんなところまで、息がぴったりだ。

思わず眉を下げたわたしに、慌てたようにリナリアが言った。

「ええと、その、スノウベル。迷惑じゃなければ一緒に寝ても?」

「え……」

やさしい微笑みは純粋で、友達を見つめるものだ。

他の人と一緒に寝るのは初めてで、わたしはちょっと照れてしまう。

「か、構わないわ……もちろん」

ちょっぴり赤くなったわたしを見て、カインが突然声を上げた。

「あーずるい。そういうことするんだ」

「うるさいなぁ、ほらそっちも諦めてマルセルと寝なよ」

「えー。じゃあ俺床で寝るわ」

「いえ、僕が床でいいです」

「あーもういいよ。半分ずつだ。あーあ、なんで俺が野郎なんかと」

「僕も正直寝たくないです」

「二人とも、騒いでないで寝るよ。――失礼、スノウベル」

「え、ええ。リナリア、毛布ちゃんと足りてる?」

「大丈夫だよ。あったかいねえ」

「うわあ……俺もそっち行きたい」

「先輩、往生際悪いですよ」

部屋はその後もしばらくうるさかったけれど、やがて騒ぎは少しずつ収まって、結局わたしとリナリア、カインとマルセルが同じベッドで寝ることになった。こちらのベッドが静かなのに対し、向こうはしばらく揉めていたみたいだけれど。



灯りの落とされた部屋の中、天井は暗闇に包まれている。

ふふ、とわたしはこっそり笑った。

なんだか、友達とこんな風に騒ぐのは初めてかもしれない。


楽しい時間なのだから、何も難しいことを考える必要はない。

胸をよぎる些細な不安なんて、大きな問題の前には、ちっぽけなことなのだ。


カインはリナリアの前で、いつもよりも素を出していられる。

二人はとても近い関係で、リナリアはとってもいい子だ。

それでカインが笑ってくれるなら、それが一番正しいこと。


わたしは毛布を握りめたまま、そっと隣を見る。

すぐ傍に眠るリナリアは、とても温かい。

その寝顔は、とてもやさしいものだ。

温かさと切なさに、なぜか胸がしめつけられる。

これ以上余計なことを考えては駄目だと、わたしはどうにか目を閉じた。

リナリアの温かな寝息を聞きながら、やがて眠りへと落ちて行った。



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