アルフレッドの命令
「出て行け。お前の相手をする気はない」
皮肉げに俺は笑った。
「今の俺なら、暴君になれるかもしれないな。手当たり次第、その場にいる人間を切り殺したい気分なんだ」
「あいにくと、あなたの要望にはお答えできません」
答えるノーティスは、ひどく真剣だ。俺は眉を上げた。
「――何をしに来た?」
「あなたの力になりたいのです」
彼は言うなり、美しい所作でひざまずいた。
その二つの瞳が、まっすぐこちらを射抜く。
「かねてからのお願いを、今日こそ聞き届けて頂きたいのです」
ぐっと眉を上げた俺の前で、はっきりとした声でノーティスは言った。
「どうか王立騎士団への入団許可を。私にはその資格も実力も備わっています。争いが起こったなら、その最前列で、あなたをお守り致しましょう」
ノーティスのまっすぐな瞳は、寸分たがわずこの国の王を見るものだった。
俺はそんなものではない。
お前の思うような王じゃない。
阿保みたいに純粋な瞳をする騎士に、胸の奥から憎悪に似た感情が沸き起こった。
つかつかと歩み寄った俺は、腰から剣を引き抜くと、勢い任せにノーティスの首元へとつきつける。
依然として、白騎士はひざまずいたまま、こちらを見上げていた。
「お前はどうやら、本当に殺されたいらしいな」
「……私は――私は、あなたがどんな人間であれ、王だと知っています。ただこの剣を、あなたのために振るいたいのです」
「よくもそんな馬鹿げたことが言えるな」
こいつははっきり言って、俺よりも実力がある。
だから抜こうと思えば、腰の剣を抜いて俺に反撃することもできるはずだ。
俺は歪んだ瞳で奴を見下ろした。
この薄っぺらい忠誠心を、粉々に砕いて、偽りだと証明してやろうと思った。
「それほどまでに忠誠をほざくなら、まずは俺の命令に従ってもらおうか」
ぴたり、と剣をさらに押し付ける。
もうすぐ血が流れだすだろう。俺が力をこめれば、首の皮が裂け、その忌々しい言葉を発する喉も、すぐに動かなくなるだろう。
「命令だ。その目障りな首を寄越せ」
騎士は動かず、ただその二つの瞳だけが、まっすぐにこちらを射抜いた。
「陛下の御随意に」
「…………」
俺は静かに、彼の首から剣を下ろした。
馬鹿馬鹿しい、と思った。
こいつの首をとったところで、俺の心は満たされない。なんとなくそれが分かったのだ。
ノーティスはほう、と一つ息を吐く。
俺はそれに、胡乱な目を向けた。
「どうやらお前の忠誠心は偽りじゃないらしい。――望み通り、王立騎士団に入れてやろう。俺の傍に佇み、王の騎士として剣をふるがいい」
俺の言葉に、彼ははっとしたように笑みを浮かべた。
「感謝いたします――陛下」
真摯な瞳の白騎士は、微笑みを浮かべながらも、どこか悲しそうな目をしている。
そんな彼に、俺はつまらないものを見るような目を向けた。
ノーティスの忠誠心は本物だろう。だが残念なことに、俺にはそれが白々しく見えるのだ。
俺とこいつは、きっと良い主従になれるだろう。
俺がこいつに命じれば、この男は例えかつての友でも殺しに行くはずだ。
くだらない。こんな従順さ、俺にはいらない。
俺はかつての友が懐かしくなった。
カインは今、どこにいるのだろう。スノウベルと二人で、どこへ行ったのだろう。
リナリアも同じ。あの少年と、仲良く笑い合っているのだろうか。
頭が変になりそうだ。
「俺の命令をなんでも聞くと言ったな」
「はい」
「それでは命令だ――」
俺は口を開いた。
窓の外はひたすら暗く、どこまでも夜の闇が続いている。




