アルフレッドの激昂
「……陛下、どうか誤解なさらないでください。僕はあなたの味方です」
神妙な瞳のロディオに、俺はもう何を返したらいいのか分からない。
「前を向くのです。あなたは前王の仇を取らねばならない」
「…………」
「あなたのお父上は、魔女に殺された。犯人は間違いなくスノウベル・メイアスです。あの娘はあなたの忠実な黒騎士をもたぶらかし、未だのうのうと逃げ回っています」
「……俺は、」
そうだ、きっと、こいつの言う事は正しい。
でも俺は、そんなことをしたくない。
「だけど――俺は知ってる。カインがどんなに、スノウベルを愛しているか。あれを勝手に、俺が殺すなんて――」
「裏切り者に、情けが必要ですか?」
思わず視線を上げる俺に、ロディオは冷ややかな目を返して寄越す。
「カインはあなたを裏切った。彼がスノウベルをかばうのは、完全に私情です。彼は犯罪者をかくまう、国家の敵です」
「や、やめてくれ」
「僕は真実を言っているだけです。お願いです陛下。どうかお父上のためにも、賢明なご判断を。あなたがやらねば、誰が彼の仇をとるのですか」
「…………」
なぜロディオは、俺にそんなことを言うのだろう。
もう何もかもが分からない。ただ胸の内にある、犯人への憎しみだけが真実だった。
父は無残に殺された。そうだ、俺は犯人が憎い。
寝ていた王にナイフを下した、無慈悲な人間が。
「迷う必要はないのです。証拠はすべてそろっています」
ロディオは当然のごとく告げた。
「それは彼女の動機と動向です。スノウベルには、王を殺したり得る動機があった。あの娘の母親は、前王の部下に殺されている。……そしてあの日の彼女の動向を、誰も知らない」
「……だが俺が、俺が彼女を殺したら、――俺は彼女と同じではないか?」
「いいえ、違います。これは制裁です」
「制裁」
「そうです陛下。あなたは王として、この国を管理しなければならない。これはあなたの、当然の務めです」
「で、出て行ってくれ……」
俺はこぼした。
「俺は王だ。それが務めだと言うなら、お前の言う通りにしよう。犯人があの女だと言うなら、殺してしまおう。――ただ今は、一人にしてくれ。お前の顔など見たくもない」
「……僕は、」
「出て行けロディオ」
もはや俺の声は王のものではなかった。まるで駄々をこねる子どものようだ。
ロディオの言葉はまるで危険な薬のように、俺の頭を掻き乱す。
正しいと信じた物は間違っていて、間違っていると思った物は、真実だった。
「出て行け――出て行けロディオ! お前の顔など見たくもない!!」
「御随意に」
胸糞悪くなるほど丁寧に一礼して、彼は出て行った。
でも俺は、きっとまた彼を呼び寄せるのだろう。
そうして王の役目を果たすのだろう。
今の俺にできることは、それだけしかないのだから。
俺はスノウベルを殺す。
ロディオの言う言葉は真実で、俺は確かに、あの魔女が憎かった。
それなのにどうして、こんなに泣き出したいのだろう。
涼しい風が、窓から入り込んでくる。
依然として、白いカーテンは揺れていた。
リナリアは逃げた。俺の手からすり抜けて、暗闇の向こうへと。
カインは俺を見捨てた。今のあなたは、王ではないと。
唯一残ったロディオも、以前と変わってしまった。
皆――皆俺を置いて行ってしまう。
俺に残されたのは、父の仇をとると言う、憎しみに塗れた務めだけだ。
「……失礼します。ノックをしても返事がなかったものですから」
不意に扉が開き、一人の男の声がする。
俺は顔を上げた。
「なんだロディオ、出て行けと――」
振り返った俺は、わずかに眉をしかめた。
そこにいたのは、普段学園でしか会わない相手だ。真っ白な服の青年は、麗しい声で言った。
「ノーティス・セルグライド。本日はあなたの学友ではなく、一人の騎士として参りました」
白騎士は、静かな面持ちでこちらを見つめている。彼の長く白い髪が、風にわずかに揺れていた。
俺は正直、こいつが好きではなかった。
彼が俺に向ける盲目的な尊敬の念は場違いなものだ。いつもならただ鬱陶しいだけだが、今の俺は違う。
一人の時間を邪魔された腹いせに、彼の頓珍漢な頭をかち割ってやりたい気分だった。




