リナリアの友人
リナリア視点はとりあえずここまでです。
*
十四歳のマルセルの入学時、わたしは十六歳になっていた。
そう、結局すべては物語の通りになってしまったのである。
でも入ってみて、原作と違ったところもあった。
それは黒騎士がわたしと同じ転生者だったことや、スノウベルが悪い子ではなかったことだ。
そう、わたしと同じ魔法科のスノウベルは、原作ではキツめの性格だったけど、実際のところは違った。
もともと生真面目だが、勉強のことを聞くと「そんなことも分からないの?」というような高飛車なキャラクターだったはずだ。
それを実際の彼女は、仕方ないという目をしながらも、一つ一つ丁寧に教えてくれるのだった。
実は初めて会った時、申し訳ないけれど、わたしは少しスノウベルを警戒していたのだ。
もし敵意を持たれたら、殺されるENDに行きかねない。どうにかして気に入られるか、目立たないようにするしかないと思っていたのだ。
けれど、その心配はなくなった。
この子は黒騎士カインと、相思相愛なのだ。
何回か一緒の授業を過ごすうち、わたしはスノウベルが、とってもかわいいことに気がついた。
その日のことは、よく覚えている。
授業が終わった後の休み時間、スノウベルは熱心に、ノートに何かを書きこんでいた。
どうやら授業でやったものとは、関係ない雰囲気だった。
「ねえ、さっきから熱心に書いてるそれ、なに?」
わたしが机越しにノートを覗き込むと、スノウベルは両手でばっとそれを隠した。
確かに突然覗き込むのは悪かったけれど、なぜ頬を染めるのだろう。
もしかして想い人へのポエムでも書いているのだろうか。そんなふざけたことを考えていると、スノウベルはぽつぽつとこぼした。
「わたし、魔法がうまく制御できなくて……その、このノートのことなんだけど……誰にも言わない?」
「言わないよ」
わたしが頷くと、スノウベルはしばらく考え込んだ後、何かを決意したように、おずおずとノートを見せてくれた。
そこには授業でやったことより、ずっと難しい魔法の図や呪文が書きこまれていた。
丁寧に描かれた絵を見て、わたしはあることを確信する。
「これ、もしかして誰かにあげるの?」
「え、べ、別に。わたしが使おうと思って……」
「だってこれ、カインがもらったら喜びそうだよ」
「ほんと!? ……あ、」
墓穴を掘ったスノウベルは、みるみる顔を赤くさせる。
白い頬は薔薇色に染まり、紫の瞳は恥ずかしさを押し隠すように、大きく揺れた。
ノートを握りしめる指先に、わずかに力が入る。
わたしが意味ありげな目を向けると、彼女の唇がきゅっと引き結ばれた。
分かりやすい。スノウベルは、あの黒騎士に恋をしているのだ。
かわいいなぁ。
これはカインが悩殺される訳だわ。
わたしはカインの気持ちを教えてやりたくなったけど、そこは我慢した。
だって、そんなのは余計なお節介以外の何物でもない。
その代わりほんのちょっとだけ、アドバイスをしてやることにした。
「これ、わたしよりマルセルに聞いた方がいいんじゃないかな。彼、魔法に詳しいから、色々教えてくれると思うよ」
マルセルに女の子が近づくことに、何も思わない訳じゃない。
でもこの子なら大丈夫だと思った。
わたしが教えてやると、スノウベルは思わずと言った風に顔を上げた。
目をきらきらさせて、すごく嬉しそうにはにかんで見せる。
「そうね、……そうするわ! ありがとう!」
ぱたぱたと走って行く後ろ姿は、恋する乙女のそれだ。
なんかこう、女のわたしでも、ぎゅっとしたくなるかわいさである。
今日は見逃してしまったけど、次は少しだけ抱きしめてもいいだろうか。
だって彼女はもう、わたしを殺す敵には見えない。だからきっと、大丈夫だ。
わたしが黙って後ろ姿を見送っていると、不意に同じ科の女の子が声を掛けて来た。
「リナリア、ちょっといいかしら」
この子は原作でリナリアの友人、カトリーヌだ。
カインは知らないようだけど、この物語の作中に登場した女の子は、主に三人いる。リナリアとスノウベル、そしてこのカトリーヌだ。
男キャラだって、モブキャラを含めれば、他にも数人いたはずだ。
カインは攻略本を読んだことで、物語の概要を知った気になっている。でもこうした知らない情報がまだまだあるみたいだから、わたしが教えてあげないと危険だ。
このカトリーヌというキャラクターも、ちょっと複雑な背景を持っている。
カトリーヌのお兄さんは聖ドルムト協会で働いているのだが、彼は妹のことをあまり顧みない。そのお陰でカトリーヌは孤独を抱えており、ヒロインと会って友達になることで、穏やかな表情を浮かべるようになるのだ。
でも今目の前にいる本人は、会った時からなんとなく、穏やかな雰囲気を持っている。
たぶんわたしがマルセルに出会ったように、わたしの知らないところで、別の物語が動いているのかもしれない。
鮮やかなキャラクター達の中で、彼女は穏やかな雰囲気と同じ、落ち着いた色合いをしている。
灰っぽい髪は背中まであり、一部を編み込んでいる。二つの瞳は琥珀の色だ。
おしとやかな彼女は、わたしと同じ三年生。わたしもこの科に入ってから、原作程ではないけど、彼女と時折お喋りをするようになった。
「こんにちはカトリーヌ。わたしに何か用?」
わたしが首を傾げると、カトリーヌは穏やかな顔で言った。
「私にも光の魔法を教えて欲しいの。光の魔法って言ったら、傷の治療とかだけど、その、光そのものの動かし方を知りたくて」
なかなか難しい質問だが、言わんとしたいことは分かる。
感覚的なものだけど、出来ないことはない。
そもそも光の魔法は、スノウベルの結晶のように、生まれ持つ素養がないと使えないものだ。
でも話を聞くと、カトリーヌも少し、光に近い魔力を扱えるらしい。
わたしは彼女の頼みに頷き、魔法を手伝ってやることにした。
来月には共同試験があるし、練習にもちょうどいいだろう。




