第9話 カラオケで
映画の帰り道。
私は「ちょっと歌いたい気分かも!」とお兄ちゃんを強引に誘い、カラオケボックスへとやってきた。
密室、薄暗い照明、そして防音。
映画館での不完全燃焼(自爆)を取り戻すべく、私はドリンクバーで別々のジュースを持って部屋に戻った。
お互いに歌い、ある程度ジュースを飲んだところで、私は仕掛けることにした。
「ねえ、お兄ちゃん。そっちのジュース、少し味見していい?」
「ん? ああ、いいよ」
お兄ちゃんは全く気にした様子もなく、自分のグラスをすんなりと差し出してきた。
私はそれを受け取り、ストローに口を近づける。
(これって完全にお兄ちゃんとの『間接キス』じゃない!! なんでお兄ちゃんは何の躊躇いもなく差し出せるの?)
自分から言い出したことなのに、いざストローを目の前にすると、急に心臓がドクドクと音を立て始めた。
お兄ちゃんの唇が触れたかもしれないストロー。これを咥えるということは、つまりそういうことで……。
「……」
私はグラスを持ったまま、恥ずかしさで数秒間フリーズしてしまった。
「なんだ、飲まないのか?」
「えっ、あ、いや、今飲もうと……」
「じゃあ、俺もそっち少しもらうわー」
「え?」
お兄ちゃんは身を乗り出すと、なんの躊躇いもなく、私のグラスに刺さっていたストローをヒョイと咥え、ゴクゴクと一口飲んでしまったのだ。
「――っ!?!?!?」
(のっ、飲んだ!? 私のストローから!? それこそ本当の間接キスじゃん!!)
「ん、これ結構美味いな」
悪びれもせずグラスから口を離すお兄ちゃん。
私は顔がカァァァッと限界まで熱くなるのを感じた。
幸い、カラオケボックスの薄暗い照明のおかげで、私が真っ赤になっていることはバレていないはずだ。
「か、勝手に飲まないでよーーっ!!」
恥ずかしさを誤魔化すために、私は思わず大声で怒鳴ってしまった。
「なんだよ、減るもんじゃないだろ」
お兄ちゃんはキョトンとした顔で私を見た。
「そういう問題じゃないの! 私のだし!」
「ケチだな。足りなくなったなら、またドリンクバーで新しいの頼めばいいだろ。ほら、グラス持っていってやるから」
「そ・う・い・う・こ・と・じゃ・なーーーいっ!!」
マイクを通さずに響き渡った私の絶叫は、カラオケの伴奏にかき消され、お兄ちゃんには「怒りっぽい妹」としか伝わっていないようだった。
ああもう、お兄ちゃんのバカバカ!!
続く!




