第7話 公園で
休日の午後。
その日は、ただ立っているだけで肌からじっとりと汗が噴き出すような、うだるような猛暑日だった。
一緒に出かけた帰り道、容赦ない直射日光に体力を奪われた私は、たまらず公園のベンチにへたり込んでしまった。
「うう……苦しい……」
「おい、大丈夫か」
お兄ちゃんが心配そうに身をかがめ、私の顔を覗き込んでくる。
(うわー……顔、近い……)
至近距離にある、お兄ちゃんの整った顔。 猛烈な暑さのせいか、それともお兄ちゃんが近すぎるせいか、頭がぼーっとしてうまく思考がまとまらない。
すると、お兄ちゃんが私の顔にさらに顔を近づけ、ジリジリと鳴く蝉の声に紛れるような低い声で囁いた。
「――熱中症か?(ねっちゅうしょうか?)」
ドクンッ!! 私の心臓が、今日一番の大きな音を立てて跳ね上がった。
(え? なに? 今……『ねえ、ちゅーしよっか?』って言った!?)
な、な、な、何言ってるの!? こんな暑さで弱って抵抗できない妹に、お兄ちゃんの方からキスを迫ってくるなんて!
チラッと横に視線を動かすと、公園で遊んでいた子供を連れたお母さんたちや、犬の散歩中のおじいさんが、ベンチで密着する私たちをジロジロと見ている。
(今するの!? ここで!? みんなが見てる前で!?)
うう、もう何も考えられない。
脳みそが完全に沸騰しそうだ。
でも……こんな千載一遇のチャンス、逃すわけにはいかない! 私は「……んっ」と小さく声を漏らし、真っ赤な顔でゆっくりと目を閉じ、少しだけ唇を尖らせてお兄ちゃんからの『ちゅー』を待った。
さあ、来い……っ!
――ガンッ!!
「ひゃんっ!?」
突然、私の首筋に『氷のように冷たい円柱状の物体』が力強く押し付けられた。
「えっ……? な、なに……!?」
驚いて目を開けると、お兄ちゃんが自販機で買ったばかりの『キンキンに冷えたスポーツドリンクのペットボトル』を、私の頸動脈に真っ直ぐ押し当てていた。
「首、脇の下、そけい部を冷やせ。熱中症の初期症状だ。ちびちびでいいからこれ飲め」
「……へ?」
「どうした、口なんか尖らせて。吐き気があるのか?」
お兄ちゃんの顔は、いつもの『100%実用的で冷静な無表情』だった。
周囲の視線も、
「あらあら白昼堂々キスなんて……」
という好奇の目ではなく、
「あらあら、あの子熱中症で倒れちゃったのね、お兄ちゃんが看病してて偉いわね」
という、完全にほっこりした親目線に変わっている。
(『ねっちゅうしょうか』……熱中症か!!)
聞き間違いに気づいた瞬間、私は夏の暑さとは全く別の意味で、全身からドッと嫌な汗が吹き出した。
「な、なんでもないわよ! 自分で持てるから貸しなさいよーーっ!!」
私はお兄ちゃんからスポーツドリンクをひったくると、真っ赤になった顔を隠すように、ボトルの口を咥えてごくごくと一気飲みするのだった。
続く!




