第6話 保健室で
「イタッ……」
体育館から歩いて帰ろうとした矢先、私は先ほどのハプニングのせいか、少し足を痛めてしまったことに気づいた。
「打ち身か? 念のため保健室に寄って行こう」
お兄ちゃんは私の身体を心配し、そのまま保健室へと連れて行ってくれた。
私はといえば、お兄ちゃんのぶかぶかな長めのシャツで必死に下着姿を隠しながら、半ば引きずられるように歩く羽目になった。
保健室に着くと、先生が私の足を見て言った。
「軽い捻挫みたいね。ちょっと処置してあげるから、そこのベッドに座ってなさい。……あ、ごめんね、ちょっと急ぎの用事を思い出しちゃった! 少しだけ待っててくれる?」
そう言い残し、保健の先生はバタバタと慌ただしく保健室を後にした。
(えっ……何これ。保健室のベッドに、ほぼ下着丸見えの『彼シャツ』状態で、お兄ちゃんと二人きり……!?)
しかも私はベッドの上に腰掛けている状態だ。 やばい、ものすごくドキドキする。けど、これはお兄ちゃんの無表情を崩す絶好のチャンスとも言える!
……いやでも、もしこれでお兄ちゃんが本気で来ちゃったら?
今の私は足も痛いし、下着にシャツ一枚という無防備すぎる格好だし、絶対に逃げられないよ!
私が一人で顔を赤らめてパニックになっているというのに、ベッドの横のパイプ椅子に腰掛けたお兄ちゃんは、いつもの無表情で淡々とスマホをいじっていた。
(はぁーあ……どうせ何やっても無駄なんだろうな)
完全に空回りしている自分にため息をつきながら、私は半分ヤケになって、ふと口を開いてしまった。
「ねえ……この状況って、ちょっと変な感じになったりしない?」
(はっ!? 私、何を口走って……!)
これまであまりにも無関心だったお兄ちゃんに対して、とんでもなくストレートなジャブを打ってしまった。
「……そうだな。変な気分になるな」
お兄ちゃんはそう言うと、スマホを横に置き、真っ直ぐに私の方を見てきた。
(ええぇぇ!?)
どうしよう、まさかこのタイミングでそんな空気になるなんて!
お兄ちゃんの静かな瞳が、私をじっと捉えている。
もしこのままお兄ちゃんがベッドに押し倒してきたら、二人きりの密室では絶対に抗えない……っ!
私がギュッと目を閉じ、次の展開を覚悟した、その時。
「やっぱ、俺のシャツ着てるお前って、違和感しかないし」
「……え?」
「そもそも保健室なんて滅多に来ないから、変な感じだな。このパイプ椅子も座りにくいし」
「…………は?」
お兄ちゃんは淡々と、この空間に対する『物理的・環境的な違和感』を並べ立てた。
そこに色気やエロスなど、微塵も存在していなかった。
「ごめんごめん、待たせたわね! それじゃ足を見せて」
ガラッと扉が開き、保健の先生が帰還する。
「それじゃ、俺はお前の教室からカバンとジャージ持ってきてやるよ。終わったら声かけろ」
お兄ちゃんは座りにくいと評したパイプ椅子から立ち上がると、無表情のまま、私のパシリとして教室へ向かっていった。
「…………っ(怒)」
私の顔は、ドキドキの赤面から、瞬時に『怒りの赤面』へと変わっていったのだった。
続く!




