第5話 体育館倉庫で
放課後の薄暗い体育館倉庫。
今日はお兄ちゃんが委員会の仕事で、体育倉庫の片づけを頼まれる日だ。
私は手伝いを口実についていき、密かに作戦を実行に移した。
友達に頼んで外からガチャリと鍵をかけてもらい、二人きりの完璧な『密室』を作り上げるまでは完璧だった。
見上げれば、高い位置に人ひとりがやっと通れるくらいの換気用の小窓が開いている。
「お兄ちゃん、あそこから出られそうじゃない? 私の方が体重が軽いし……肩車してよ!」
(ふふふ、私の柔らかい太ももでお兄ちゃんの顔を挟み込む『太ももドキドキ作戦』よ! これならさすがのお兄ちゃんも理性を保てないはず!)
「いや、肩車は不安定だろ。これだけ跳び箱とマットがあるんだ。階段状に並べれば二人とも安全に出られるぞ」
お兄ちゃんは淡々と跳び箱を積み上げ、マットを重ねて、あっという間に見事な『脱出用階段』を完成させてしまった。相変わらず無駄がない。
(むぅ……! 合理的すぎて可愛くないんだから!)
でも、このままじゃ引き下がれない。私は階段を登る途中で立ち止まり、後ろを振り返った。
「……やっぱり高くて怖いわ。お兄ちゃん、後ろからお尻を支えて……ううん、しっかり『押して』くれない?」
(そう、これこそが即席の新・作戦『お尻プッシュ・密着アタック』!)
「そっか。じゃあ、しっかり踏ん張れよ」
お兄ちゃんが私の背後に回り、大きな掌が私のお尻に添えられた。
(キタキタキタ! 密着! さすがにこれなら――)
「せーのっ」
お兄ちゃんが力を込めた、その瞬間。
ガシャァァァン!!
「きゃあぁっ!?」
急ごしらえの階段が、私の妙な踏ん張りとお兄ちゃんの力加減のせいでバランスを崩し、一気に崩壊した!
なし崩しに倒れてきた棚や用具の隙間に、私は挟まって身動きが取れなくなってしまった。
「おい、大丈夫か!」
「イタタ……引っ張ってもらった方がいいかも……っ」
お兄ちゃんは私の両腕をがっちりと掴み、力強く引っ張ってくれた。
ズズッ……ビリッ!
「え? やばい、制服が――」
「いけそうだ。せーのっ」
ちょっと待ってちょっと待ってお兄ちゃん! 私が止めるのも束の間。
スポンッ!!
私の身体は、見事に用具の下から抜け出した。 ――が。 ブラウスもスカートも用具の隙間にガッチリと挟まり、抜け出した私は『ブラとパンツ、靴下に体育館シューズ』という、あまりにも無残な姿になってしまっていた。
(……想定外すぎる。でも、この姿を見れば、さすがのお兄ちゃんも……!)
「えっと……あの……」
ドキドキして顔が真っ赤になる。私はギュッと目を閉じ、お兄ちゃんの反応を待った。
スッ……。 お兄ちゃんの手が、私の素肌の肩や腰に触れてくる。
(ついに我慢できなくなったの!? やばい、どうしよう……!)
バサッ。衣擦れの音がして、お兄ちゃんが自分のシャツを脱ぎ始めた。
(ひゃあっ! ほ、本気だ!)
私が恐る恐る目を開けると――。
「……よし、骨に異常はないし、怪我はないみたいだな。とりあえずこれを着ておけ」
お兄ちゃんは、脱いだ自分のシャツを私の肩にバサッと羽織らせた。
「……へ?」
そこには、純度100%の『怪我人を心配する冷静な無表情』があった。
「俺が窓から出て鍵を開けてくる。お前はそこで大人しくしてろ」
お兄ちゃんはシャツ一枚(インナー姿)になり、軽々と小窓から外へ飛び出して行ってしまった。
残されたのは、ぶかぶかのお兄ちゃんのシャツを着た、下着姿の私。
「あー、もう! 何なの何なのーーっ!!」
お兄ちゃんの匂いにすっぽりと包まれながら、私は埃っぽいマットをバンバン叩いて一人悔しがるのだった。
続く!




