第12話 式場で
あれから数日後。
私の心には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
初恋が「実の兄妹だった」という最悪の形で散ったのだから無理もない。
事情を知る由もない母が、落ち込んでいる私に気分転換にとショッピングモールへ誘ってくれた。
アクセサリーや服を見たりして、少しは気が紛れた気もするが、完全に気分が晴れることはなかった。
そろそろ帰ろうかという時、参考書を買いに来ていたお兄ちゃんと偶然遭遇した。
今日は母が車を出してくれていたので、そのまま一緒に帰ることに。
車の中、運転席の母と助手席のお兄ちゃんは他愛もない世間話をしているが、私は何を話していいか分からず、後部座席で一人じっとしていた。
「ねえ、帰りにちょっと式場に寄っていい?」
突然、運転席の母がバックミラー越しに妙なことを言い出した。
言われるがままに到着した結婚式場。
母はロビーで、式場のスタッフさんとあれこれと熱心に打ち合わせをしている。
「……お母さん?」
「ああ、ごめんね。もう少しで終わるから」
「いや、時間はいいんだけど。誰の結婚式の打ち合わせ?」
「ああ、私とお父さんのよ。籍だけ入れて式をしてなかったから、落ち着いたらしようってずっと言ってたの」
まあ、そういう夫婦もいると聞いたことはあるが、まさか自分の親がそうだとは。
「ちょうど籍を入れた時が感染症の影響で、こういうのが軒並みキャンセルになっちゃったのよねぇ」
「……え? 感染症って、今から6年くらい前のこと?」
「そうよ」
「え、籍入れたのって16、7年くらい前じゃないの?」
「いいえ、6年前よ」
頭の中に「?」が浮かぶ。
「え、じゃあ私、未婚の時に産まれたの?」
「何言ってるのよ、ちゃんと結婚してから産まれたわよ」
「???」
わけがわからない。一体何がどうなっているのやら。
パニックになっている私を見て、お兄ちゃんが「ちょっと大丈夫か?」と声をかけてきた。
「待って! わかるようにちゃんと説明して!」
私は半狂乱になりながら、母から事の顛末を聞き出した。 まとめると、こうだ。
• 私の『本当の父』は、今の『お父さん』の弟にあたる。つまり兄弟。
• 本当の父は若くして病死。(よく考えてみたら、幼い頃にそんな話を聞いた気がする)
• 当時、今のお父さんも別の人と結婚しており、子供(お兄ちゃん)がいた。
• 従兄妹同士ということもあり、小さい頃の私はお兄ちゃんと遊ぶことも多かった。(アルバムの写真はその時のもの)
• 転勤の多かったお父さんは、生活のすれ違いから前妻と離婚。その後、シングルマザーだった母と私の生活の面倒を見てくれるようになった。
• 6年前に、二人は再婚。でも、その頃は仕事の関係で別々に暮らしていた。
• 3年前から、今の家で全員同居を開始した。
……なんと、お兄ちゃんもこの辺りの複雑な事情をすっ飛ばして勘違いしていたらしい。
「あれ……?」
私は恐る恐る口を開く。
「じゃあ、私とお兄ちゃんの関係は……」
「戸籍上は兄妹になったけど、血縁としては『従兄妹』でしょ?」
うう、頭が追いつかない。
でも、これだけは、これだけははっきりと分かった。
私とお兄ちゃんは、本当の兄妹ではない。
一連の話を横で聞いていたお兄ちゃんは、「うーん」としばらく考える様子を見せた後、私の方を向いて、さらりと言った。
「じゃあ、俺たちも結婚する?」
「……は?」
はぁあああああ!?
突然何!?
プロポーズ!?
いろいろ段階を飛ばし過ぎじゃない!?
ていうか、それ以前に!
「な、なんで!?」
「だって俺、お前のこと好きだし」
「なあぁあにいいいいいいぃぃっ!?」
私の頭は完全に飽和状態だった。
プロポーズからの、告白!?
顔が一気に真っ赤になる。
久しぶりにドキドキが止まらない。
いや、このドキドキはこれまでの空回りなんかと比じゃない!
お兄ちゃんの口から「好き」って……!
「えっと、私は、、、」
「ダメよ」
「……え?」
私が震える声で返事をしようとした瞬間、母が冷たく遮った。
え?
ダメ?
私達は、結婚しちゃダメ?
ダメなの?
どうして?
なんで?
法律上?
倫理上?
頭がぐるぐると回る。やっぱり、私たちには越えられない壁が――
「だって、あなた達、まだ結婚できる年じゃないでしょ」
母が呆れたようにため息をついた。
「……あ、そういえばそうだね」
お兄ちゃんが、ポンと手を打ってあっさり納得する。
「………………っ(怒)」
一瞬でもシリアスに悩んだ私がバカだった。
「もう、一体なんなのよぉおおおおおおおおっ!!!」
私の絶叫が、美しい結婚式場のロビーにいつまでも虚しく響き渡るのだった。
(おわり??)




