おまけ 兄の日記帳
【〇年〇月〇日】(今から5年前) 古い写真の載ったアルバムを見つけた。 そこには若い頃の父親と若い女性。そして、二人の赤ちゃんの写真。 親父に聞くと、親父とお袋と俺と妹らしい。 子供ながらに母はいないものだと思っていたが、訳あって別居しているらしい。 自分に母と妹がいるということを知って、嬉しかった。
【〇年〇月〇日】(今から3年前) 母と妹と再会した。 妹は俺たちの存在を認知していなかったみたいだ。 俺にとっても「初めまして」みたいなモノだから、お互い様だな。
【〇年〇月〇日】(今から1年前) 昨晩、ヒナの部屋からドスドスと運動する音が聞こえてきた。 ダイエットしたい年頃なのか、それとも好きな男でもできたのかな。 朝、風呂上がりのヒナに遭遇してしまった。 ダイエットが必要な体型には見えなかったが、年頃の気にするポイントもあるだろうから何も言わないことにした。
【◯月×日】 ヒナはまた寝坊したのか、ブラウスのボタンも留めないだらしない格好で朝食を食べていた。パン屑をとってやったが、まだまだ手のかかる妹だと思った。 その夜、ヒナがいるのに気付かずに風呂に入ってしまった。出直そうかと思ったが、ヒナが一緒に入ろうと言ったのでそのまま一緒に入った。まだまだ兄に甘えたいのだろうか? 上がり際、顔が赤かったのでのぼせてないか心配になった。
【◯月×日】 今日はヒナに頼まれて洗濯物干しを手伝った。 下着を別洗いしているらしい。年頃の女の子らしくなったなと思う。 そういえば、夜な夜な部屋で運動していることをつい口にしてしまった。 あまり効果が出てないことを気にしていたのか、顔を真っ赤にして怒っていた。 これは言わない方がよかったかもしれない。別に今のままでも十分だと思うんだが。
【◯月×日】 今日は放課後に文化祭でやるクラスの出し物のアンケート集計をしていたら、ヒナが手伝いに来てくれた。 面白そうな案を持ってきたので試そうと思ったら、なぜか走って逃げてしまった。顔が赤くなっていたように見えたのは夕日のせい? それとも熱でもあったのだろうか?
【◯月×日】 今日は体育倉庫の片づけを頼まれた。今回もヒナが手伝いに来てくれたが、誰かが間違って倉庫の鍵をかけてしまったようだ。 倉庫の小窓から脱出を試みたが、倉庫内のモノが崩れてヒナを閉じ込めてしまった。ヒナはなんとか救出出来たが、制服をダメにしてしまい申し訳なく思った。足を捻挫してしまったらしく保健室で診てもらった。俺のシャツを着たヒナは妙に落ち着かなかった。俺もなんだか落ち着かなかった。やっぱり兄妹だな。
【◯月×日】 今日は近年まれにみる猛暑日だった。俺とヒナは買い物に出ていたが、途中ヒナが熱を出して倒れてしまった。 いろいろ様子がおかしかったが、飲み物を渡すと元気になった。よかったよかった。
【◯月×日】 今日はヒナに映画に誘われた。ジャンルは俺の好きなSFアクションだったが、ヒナはどこか上の空だった。 好みの映画じゃなかったのか、それとも俺が誤って胸を揉んでしまったからか? そのあとカラオケに行って二人で歌っていたら、ヒナが俺のジュースを欲しがった。せっかくなので俺もヒナのジュースを勝手に少しもらったが、あんなに怒ることもないだろうに。 帰りの電車は疲れて眠ってしまったが、相変わらずヒナは怒っていたような気がする。反抗期なのか、少しさみしくも感じた。
【◯月×日】 ヒナの部屋の蛍光灯を交換するために部屋に呼ばれた。 その日のヒナはいつもより元気がなかったが、俺からあれこれ聞き出すのも野暮かと思い、用が済んだならすぐに退散しようと思っていたが、急にヒナに押し倒された。 どうもヒナは、俺たちが義兄妹だと思い込んでいたらしい。 もし、本当の兄妹じゃなかったら、俺はヒナのことを……
* * *
「ううぅ、ぐすんっ……」
張り詰めていた糸が切れたような安堵感と、こみ上げてくる嬉しさで、私は思わず鼻をすすった。
「お、おい。どうした?」
突然ポロポロと泣き出した私を見て、お兄ちゃんが少し慌てたように顔を覗き込んでくる。
「んーん、何でもないっ。……ねえ、お兄ちゃん。この日記、ナニ?」
私は指で涙を拭うと、背中に隠していた『それ』をバッと目の前に突き出した。
「げっ」
「げっ、てことはないでしょ」
「……いいから返せよ」
「いいけどぉ、もう全部読んじゃったよ?」
「……あっそ」
私がニヤニヤしながら見つめると、お兄ちゃんは気まずそうにスッと視線を逸らした。
「でもさ、最後、書きかけで終わってたんだけど?」
「……そうだったっけか」
「最後、なんて書こうと思ったの?」
私は追及の手を緩めず、お兄ちゃんの顔を下から覗き込むように、さらにピタリと距離を詰めて聞いてみる。
するとお兄ちゃんは、少しだけ照れくさそうに頬をポリッと搔いて、小さくため息をついた。
「……言わなくてもわかるだろ」
ピシッ。
「いったーい! もう、お兄ちゃんのいじわるっ!」
私のおでこに軽いデコピンを食らわして、お兄ちゃんは真っ赤になった耳を隠すように、足早に部屋を出て行った。
じんじんと痛むおでこをさすりながら、私はその不器用で愛おしい後ろ姿を、いつまでも嬉しそうに見つめるのだった。
(ほんとにおーしまい!)




