赤ん坊は落ちるわけにはいかない。
遅れました
転生して、数日。
母は時折俺の様子を見に俺の寝室へと足を運ぶ。
顔を見てかわいがって、去っていく。
世話は使用人にすべて任せている。
(金持ちな家みたいだな。安心した。これなら、最悪...)
(だめだ。そんなことをしたら良くないのは目に見えている。)
そんなことを考えていたら母が入ってきた。
「この子、ほんとにかわいいのよぉ〜。」
甘い声が聞こえる。
(使用人と俺のことについてでも話しているのだろうか)
「そらかわいいだろうな。俺の息子だから。」
「そうよぉ〜。あなたの息子は可愛いものぉ。」
「ところで、ミレイナ。いつになったらもう一人妊娠するんだ?ヴァルだけじゃやっぱり、そのだめだったとき心配だからさ。」
「もぉ~。そうねぇ。どうだろ。」
父ーガルドは俺を数秒笑顔で見つめた後、母と退室した。
ガルドが俺に向けた目はどこか「代替可能なもの」を見るようだった。そうー壊れても代わりはいくらでも作れるのだ。
数日後。
「ヴァル様、これからおしめの交換を致します。」
このおしめ交換。その時だけ俺は壁がないベビーベッドから出せてもらえ、通常のベッドの上でおしめを替えてもらう。
(チャンスだ。動き回って観察だ。)
ベッドの際の方に頭を回し視線を向ける。そこは下にあるはずの白いシーツが見当たらなかった。
ーーそう。絶壁だった。
(この使用人、狂ってるんじゃないか。乳幼児をこんなところに寝かせるなんて。まだ、首だって座ってないんだぞ。)
頭を勢いよく左にまわした反動で前進が少し左にずれる。
(やば、このままだと落ちる。)
体の左半分に力を入れる。落ちないように尽力する。
(おい。使用に気づけよ。くそ、こんなところで落ちて後遺症を患ってたまるか。)
声を上げようとしたが、未熟な腹筋を落ちないように使っているため声が出せない。
(頼む気づいてくれ。声を出せ)
「ぁ、あぁ。」
(でた!!おっしゃ!これで気づいてもらえる。)
そう思って脱力しかける。
しかし、使用人はそれでも気付かない。
(やば、まだ気づいてないぞこいつ。もっと大きい声で助けを求めないと。)
一瞬の脱力のせいで少し地面との距離が縮まる。
(もっと大きい声を出すんだ!!)
「あああぁ。ああぁぁぁ!!」
次の瞬間、水桶に手を無造作に突っ込んでいた使用人がめんどくさそうな顔をしてようやく振り返る。
しかし、その顔はすぐ青に変わる。
「ヴァル様!!」
振り向いたことを確認した俺は筋力が限界に達し、脱力してしまった。
「危ない!!」
そう言って使用人は両手を出した。
右手は後頭部へ、左手はおしりへ。
足に負荷がかかる。
(おっと、あぶねーな。)
「大丈夫ですか?!!ヴァル様!!」
「うわーーーん。ああぁああ゙ー」
(なんで俺泣いてんだ?おい泣きやめよ。大事になるだろうがよ)
必死に泣き止むように指令を出すが、一向に泣き止む様子はない。
「ヴァルちゃん!!どうしたの?!!」
ドアがバンと開き、母が涙目で飛び込んでくる。
「すみません。奥様。わたしの不注意です。」
泣きながら言う使用人をよそに母は俺を使用人の腕からひったくる。
「大丈夫?!!ヴァルちゃん?!」
必死に俺に訴えかける。
俺は段々と泣き止んでいた。
「あなた!ヴァルちゃんに何したの?!」
「すみません。ヴァル様のおしめを変えようとベッドの縁に置いたら落ちそうになっていて...」
母はそのことを聞いて血の気が引いた様子で俺に目をやる。
「落ちたの?!!まだ首すらも座ってないのよ!!」
「すみません。奥様。しかし、落ちる直前にわたくしめが受け止めました。首は多分大丈夫です。」
その言葉を聞いて母は少し安堵したようだった。
「そう。なら、良かったわ。けど、気をつけてください。今後とも。わたしはこの件をガルドに報告するつもりはないので。安心なさい。」
「ご配慮感謝いたします。」
「でも、一応心配だから。」
母が俺をベッドに横にさせ右手の平を俺に当てる。
「神聖なる神の加護よ。かのものが失いし力をもとに戻せ。」
そういうと緑色のつぶつぶが俺に降り注いだ。
(なんだ?あれは。これって俗に言う魔法ってやつじゃないか?)
傷みが少し消えたような気がしたが、元からない傷みをどうこうしても変わらない。
(しかしまぁ。危なかったな。本当に。)
(やぁー良かった良かった。咄嗟に力込めて。)
(この調子で逃げずに頑張る。いや、頑張ってみせる。待ってろ異世界。)
明日も2話出すつもりです。




