王族の権限
一週間お疲れ様です。
「ヴァレリウス、レイモンドだ。第一王子が応接したいとのことだ。出てこい。」
身体がびくんと反応する。
(あぁ。なんだそのことか。)
(でも、今はそれでころじゃ。)
「早く出てこい。第一王子がお待ちだ。」
「は、はい。」
日記を抱えて実験室の扉から廊下へと出る。
「では着いて来てくれ。」
とぼとぼとしかし、先程のような絶望感は薄らいだ気がした。
「レイモンドさん。第一王子とは初対面なんですが、何か注意事項とかはありますか。気をつけたほうがいいといいこととか。」
「んー。そうだな。特にない。お主も小耳に挟んでいるだろうがあの方は人格者で有名だ。次期王として相応しいという声がほとんどだ。特に魔法学校での成績がとても良くそれが民の求心が最もだ。」
(人格者か。どんなんだろ。でも気乗りしない。いつもならなぁ。)
今頃エリシアと自信と希望に満ちた足取りでこの廊下を歩んでいるに違いない。
しかし、右にも左にもそんな姿はない。もちろん後ろにも。
「ヴァレリウス、聞いていいかわかないが、お主はエリシアのことをどう思っていたのだ。」
何かを見かねたレイモンド。
「どう、ですか?それは素晴らしい魔道具開発者だと思います。それに性格も素晴らしいです...。」
「ふむ。それだけか?」
どこか優越そうな顔をしながら尋ねる。
「それだけ...。ですかね。」
「それがお主の答えなら構わないが。」
そんなのをしてると荘厳な扉をした応接間の前に立った。
「さぁ。行ってこい。」
「え、でも。まだ、心の準備が。というより...。」
とても大きな溜息をついた。
「お主を五年も見ていたがお主は助けてって言える人間が少なすぎる。それだけ覚えていってこい。」
「え、でも。」
有無を言わさず扉を開ける。
「レジアムサブリミス第一王子アルベルト・レジアムサブリミス様、お待たせいたしました。魔道具開発者の一人のヴァレリウス・シルバリオンです。」
レイモンドのお辞儀を真似る。
「君がヴァレリウスくんか。君たちの栄光は聞いてるよ。魔力の流れを可視化できるメガネと魔力を光で伝達する電灯を作ったんだってね。すごいね。」
「い、いえ。」
立ちながら苦笑いをする。
「あ、座り給え。ほらほら。」
レイモンドを一瞥すると顎で座れと言われる。
「で、では失礼。」
「ヴァレリウスくん。僕は今日君と女の子に話を聞きに来たんだよ。あれ...。でも、その子が見当たらないけどどこにいるのかな。」
単純に疑問そうな顔をして聞いてくる。
「そ、それは。そのですね。」
助けを求めるようにレイモンド視線をやるが顎で命令されるばかりだ。
「えーっと。その。」
顔をしかめるアルベルト。
「なんだい?僕に言えないようなことでもあったの?ははーん。さては恋仲だな。このやろう♡。十歳でそんなことにうつつを抜かしやがって♡。」
目を細めながら指で突くふりをしている。
(こいつ、うざいというかあれだな。)
「い、いえ。そんなことでは。」
(恋仲ねぇ。しかもあの言葉、なんだったんだろう。)
ふと手紙の最後の一文を思い出す。
(でも、もう俺の知ったことではないか。もう遅いし、今更わかったところで。)
無意識に肩を落としてしまう。天井を仰ぎながら、何か助けを求めるように。
「どうしたんだい。」
はっと我に返る。
「す、すみません。ちょっと色々と思うところがあってちょっと最近結構張り詰めてるんですよね。」
少し眉にシワを寄せて身を乗り出す。
「色々と思うこと?なんのことだい。」
「あぁ。いえ、そんな大したことじゃないだからいいんですよ。」
肩をすくめて少し落とす。
「それでいいなら構わないんだけど。だけど、一国の王子としてどんなに身分があろうが貴族も民だと思う。だからその民の悩みを私が効くのは間違っていないはずだ。違うか?」
(こいつ。人のところに土足で。)
「それは。ご立派なことを。」
思わず嫌味な言葉が出てしまう。
「おい。王子様に向かってそのような言葉までの態度、看過できんぞ。王子が聞いてあるのであれば包み隠さず全てを話すのが礼儀ではないのか。」
後ろの屈強そうな鎧を着た兵士が腰の剣の鞘に手をかける。
「あ、すみません。そんなつもりは一切。」
全力で謝罪しようとするがどこが間や気が抜けている。
「あぁ。大丈夫だよ。でもヴァレリウスくん。僕も一応王族の人間だ。これでもできないことは少ないと自負してるんだ。だから心置きなく君の悩みを聞かせてほしい。」
(ふーん。こいつよく言うな。まぁじゃあ試しに言ってみるか。言ってみるだけ言ってみる。まぁお前にできるわけないだろうがな。)
「では、いいます。」
なぜか固唾を呑むアルベルト。
「エリシア・ヴァレンフォルドは...、オズヴァルド・グランディールに側室として嫁ぎにいきました。」
激震が走った顔をしたのはアルベルトだけだった。
「そ、それは本当なのか。十歳の女の子が結婚?おかしいんじゃないか。何かの間違いなはずだ。」
周りな微妙な空気に支配される。
「おい、それは本当なのか。」
「はい。事実です。」
後ろの兵士が事実確認をする。
「ま、まじか。それは倫理的にだめじゃないのか。」
「い、いえ。この国の法律としては問題はないです。」
少しにやけを隠しながら語りかける。
「どうでしょうか。できますか。」
おどおどしながら熟考するアルベルト。
(待てよ。もしやこいつ結構使えるんじゃないか。こいつ結構馬鹿そうだし。法律も熟知してないし。これわんちゃん利用できるんじゃね。)
笑みを心の中で浮かべる。
(一抹の可能性にかけて博打に出てみるか。)
「アルベルト様にお願いがあります。」
周りを一瞥して頭を下げる。
「な、なんだ。私は今考えてて忙しいんだ。」
「すみません。けどそれの解決案でございます。」
「そ、そうか。では述べてくれ。」
「この問題を速やかに解決する方法は15歳以下の結婚を法律で禁止し、今回は特例とアルベルト様の権限でこの結婚をなかったことにするんです。そうしたら民からは益々慕われますよ。「素晴らしい王子様だ!!これで国は安泰だ!!」って。」
ぱぁっと明るい顔をし始める。
「そ、それだ!!それがいい。そうと決まっては速やかに実行する。」」
「お、お待ちください。そのようなことをしてしまえばグランディール公爵家の反感を買います。どうかお考えを改めて、、」
不機嫌そうな顔をして兵士を見下ろす。
「う、うるさい。俺は民に慕われたいんだ。」
そうして計画は実行された。
後のこの談義はアルベルト王子の株を上げた。
民衆はこの決断を哀れな少女を無理な結婚から救ったと思いアルベルトを評価した。
しかし、これはやはりというかある一部の人間の反感を買った。
しかも噂でこれをヴァルが唆したという噂まで出回った。
——
この談義の後世での評価は半々に分かれていた。
ある民衆は王国に混乱を引き起こした張本人であると言う。一方で他はこれがなければ後世で語り継がれるヴァレリウス・シルバリオンはなかったと言う。
しかし、いずれもヴァレリウス・シルバリオン史を良くも悪くもある意味では転換点であったと言われる。
——
(しめた。うまくいった。よし、このまま行け。)
アルベルト時事に詳しくなさすぎだろ。
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