海洋国家と大陸国家と
1942年7月11日 オーバーザルツブルク ベルクホーフ
ルドルフ・ヘスさんが英国に飛行機で飛び立って二月が経ちました。
この間に東部戦線ではソ連軍の激しい反攻が行われ、春季攻勢と名付けていたようです。
結果的にドイツ軍は勝利できましたが軍隊の消耗は激しいもので、徴兵基準が下げられたようです。
ドイツは国として満身創痍という状態のようです。
総統さんはこの間ベルクホーフに詰めていることが多かったです。
オーバーザルツはオーストリア寄りの国境近くにあるのですが、国内中心に考えず欧州全域を見渡した場合にこちらの方が指令が出しやすいとは言っていますが、相当に疲れて休息を求めていたのは間違いないと思います。
戦争は忙しく、親友が自分の命をかけて役に立とうと敵国相手の大勝負中。
そもそもなぜヘスさんが単独で英国を説得できると考えたのでしょうか?
その疑問を総統に尋ねると、海洋国家と大陸国家に起因する長所・短所の話をしてくれました。
英国は海洋国家です。海洋国家は貿易路を維持できないと国が干上がります。その結果貿易路を守る船が最優先されます。コルベットや駆逐艦のような商船を護衛する小さな船が最優先に配備され、それに乗り込む船乗りを徴兵します。
兵士は量より質を優先します。なぜなら護衛する商船にも船乗りは必要とされるため、海軍に大量に船乗りを配備すれば貿易路が維持できず国が干上がってしまいます。
常に最小限の配備しかできません。
ドイツは陸軍国家です。周辺国の殆どは陸続きなので国境を守るためにたくさんの兵士が要ります。その兵士達は海軍に比べれば船乗りのような技術は要りませんし安上がりに兵士にします。
兵士は質より量を求めざるを得ません。
雇った兵士は公共事業に使うほかは使い道も無いのですが、公務員として給与を支払うことで失業対策に使えます。
この結果、国の財政が破綻しなければ兵士の雇い入れに制限はありません。
こうやって比較すると海洋国家に比べて大陸国家は短期間にたくさんの兵士を増やして軍備増 強がしやすいそうです。
現に東部戦線では敵味方入り乱れ100個師団単位で戦争しているのですが、英国は10個師団しか持っていないそうです。
つまり英国は海を突破されるとドイツ陸軍の10分の1しか兵士がいないそうです。
それゆえに海軍は全力で防衛戦を戦うのですが、逆に言えばドイツに侵攻して戦闘で勝利するということは人数的に不可能ということです。
常にドイツが攻め、英国が守る形しか取れないので単独での勝利はありえません。
ゆえにソ連が勝ってドイツを占領するまで防衛戦を続けるしかないので、当然厭戦気分はあるはずです。
ましてや空軍で首都を爆撃され焼かれています。
勝ち目は無く空襲で犠牲は発生している、ならば講和を求める声も出ているでしょう。
そこでヘスさんが単独でその講和の手がかりになろうと英国に突入した。
国のNo2が単独で全権外交をすれば、可能性が生じなくはない。という話らしいです。
総統さんも親友でなければその作戦を応援できたのにと悲しげでした。
その後の経過を聞くと5月11日に英国に飛行したヘスさんはアルフレート・ホルン大尉を名乗り面識のあったハミルトン公爵に面談できたようです。
BBC放送とも面会してヨーロッパ大陸への非干渉の代わりに英国への非干渉を要求・説明しましたが国民の士気低下を案じたBBC放送はへスさんは政治的亡命を匂わせるフレーズを来英理由を放送したのみで肝心の目的は国民に伝わらないように放送しました。
その後ロンドン塔に収監され国家捕虜となったあと鬱病により自殺未遂。
精神病院へ移送されたそうです。
総統さんは嘆いていました。
「国家を代表する地位に着きながら自分の身を軽く持ち、必要とあれば投げ出すことを厭わないそのような真摯な指導者が連合国側に一人でもいるだろうか!」
「ルドルフ・ヘスに連合国中枢は豚に真珠のようなものだった。彼の行動の偉大さをまったく理解できないまま歴史の闇に放り込もうとしている…それはドイツも一緒か…すまない君(du)の行動は枢軸国側からドイツが連合国と単独講和しようと見られるかもしれない。君を否定した英国に勝利した後に名誉を回復するしかない。しばし待っていてくれ」
総統さんはすごく悔しそうでした。ラインハルトさんの時は悲しそうだったのですが、今回は憤りが強いようでした。
ヘスさんは政治の表舞台を去りました。ソ連との戦争はまだ続きます。ドイツもソ連も多くの人がいなくなるのでしょう。それを最小限の犠牲で見守る英国と米国…なんとなくこの世界の卑怯さが見に沁みる日でした。




