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バルバロッサ作戦

 1941年7月9日 ベルリン 参謀本部

 

 今日は参謀本部に若手参謀将校の意見を求めにやってきた。

 将軍クラスの参謀になると誤魔化すのも非常にうまい。

 とりあえず佐官連中から現状を正直に報告してもらうことにした。

 地図の上に敵味方を示す駒を並べながら作戦の進捗について中佐参謀から説明を受けていく。

 バルバロッサ作戦の初期段階、この1ヶ月の侵攻経過は極めてよい。

 「総統閣下、このように我が軍は大きく分けて北方、中央、南方の3つの軍集団に分かれています。」

 前線で敵と向かい合っている駒を指揮棒で指差しながら説明していた。

 「まず北方集団ですが北海に面した東プロイセン地方から侵攻を始め海岸線に近い地方バルト三国を制圧しています。リトアニアは制圧完了し、ラトビアも順調に制圧中、これからエストニアの攻略が始まります。」

 重要な貿易拠点であるリガ港も押さえ終わっているので順調な侵攻だろう。

 およそ400km程進んでいる。

 エストニア経由でレニングラードまでは200~300km程か?秋までには越冬拠点を作って冬に備えないといけない。

 「次に中央集団ですがオストランド軍管区から出発してポーランド全域をすでに確保しました。北方集団の側面防御という面からこちらも侵攻を続けざるを得ませんのでさらに西、ベラルーシを進んでいますが南方集団との連絡戦域がやや停滞気味ですがこれもじきに解消できるでしょう。中央集団も東に400km進んでおり、南側の街キエフ近郊では激しい抵抗にあっていますが南方集団が合流した時点で一気に包囲殲滅する予定です。」

 確かにベラルーシ中央のプリピャチ川南岸で侵攻が大きく遅れているが、地図に手書きで湿地の範囲が書き込んである。尋ねると、退去するソ連軍が河川の土手を破壊して洪水を引き起こし一面湿地になったせいで電撃戦が行えず、砲兵と歩兵になったようだ。航空優勢はとってはいるが飛行機が戦場にいられる時間は燃料の問題から短い時間に留まる。

 そしてソ連軍は湿地の肥料にするつもりで歩兵を消耗している。単なる時間稼ぎにしかなっていないが、それでもほぼ無制限に歩兵を投入してくる。ありえない。

 「最後に南方集団ですが、同盟国のルーマニア・ハンガリー・スロバキアの多国籍軍が主力になります。彼らがウクライナで足止めされているのは、ドニエプル川の渡河に予想以上の抵抗を受けており、その排除が進み次第に前進する予定です。」

 南方集団でも100km程度は東進しておりオデッサを臨む場所まで進んでいるのを見ると順調といってよいのだろう。

 そもそも北方のレニングラードや中央のモスコーのように終わりにする目標が無いことを考えるとあまり進んでないのも悪いことのみではない。

 一月の時点でここまで一気に押し込めたのだから大成功といっていいだろう。

 しかし何か違和感がある……詳細な報告書を眺めてもいまいち明瞭にならないのだがなんだろうこの違和感?

 

 1941年 9月 1日 ウクライナ キエフ周辺


 ドイツ国防軍が侵攻を始めて3ヶ月、赤軍相手の戦いは凄惨なものになり100万単位の戦死者が双方に発生しています。

 特に北方集団はエストニア平定の時点で突破力が尽き、レニングラードまで30kmの地点で周囲の残敵掃討に行動が変わりました。

 南方集団はドニエプル川渡河後は緒戦の足踏みを一気に挽回して300kmの東進に成功しています。

 唯一大きな進展が無いのはプリピャチ川の湿地帯を頂点とする三角形の戦域に圧力をかける中央集団ですが、すでにほぼ包囲網は完成しており、後方からベラルーシとウクライナを出発して、包囲殲滅する行動に入っています。

 赤軍のエリート部隊である親衛隊もまだ姿を見せず、もともとはウクライナ・ポーランド・ベラルーシの国民だった元市民が時間稼ぎのために放り込まれた戦場のせいで、士官不足もあって100万人の捕虜、500万人もの戦死者がすでに赤軍には発生しているのですが、国防軍も100万人を超える戦死者を発生しています。

 国防軍の被害は主に市街戦に集中しており、村一つ、街一つ毎に止まることの無い出血のように国防軍を疲弊させていました。

 赤軍は多くの武器を委棄して後退していますが、その工作精度は粗く、スカスカのガタガタというのが参謀本部の見解でしたし兵士も同一見解でした。

 銃はとりあえず前方に弾をばら撒けるだけで命中精度という概念はありません。

 狙って当てるというのは無理です。

 ゆえに近距離の市街戦以外は被害が殆ど出ません。

 鹵獲品の銃が唯一評価できたのはド素人が操作・分解できる簡単さと多少の泥なら洗えば動くという丈夫さです。

 デザインも無駄に大きく、部品数が少ない割には大きな体積を必要とする等、ドイツ的な工業品からすれば子供の玩具としか思えないデザインでした。

 この時点ではこれが真冬のロシアで分厚い防寒着をつけたときに評価がどのように変わるか誰も想像できませんでした。

 そして1週間後にはキエフを含む、包囲殲滅が完了し500万人規模に膨れ上がった捕虜をどうするのかで軍首脳部は頭を抱えることになるのです。

 同時に重要都市にあったはずの工作機械や製鉄設備は撤収されており、簡単な戦車の修理すらできないようになっていたのです。

 ここに至り国防軍は徹底した焦土作戦に対抗する覚悟を決め、補給線の確立を行うべく工兵隊の全面協力のもと兵站腺の確立を行ったのですが、主たる輸送方法が河川での船による輸送であるため結氷期には代替手段が見つからず、冬季には作戦継続が不可能と判断せざるを得ませんでした。

 その間にもソ連は赤軍を増員しており、開戦当初とまったく同規模の軍団を維持しており国防軍はすでに1割減といった状況になっています。

 冬季にあわせて軍部は後方への後退を準備していましたが、北方集団の鹵獲品の中に数台のGM製のトラックを見つけた叔父さんはレニングラードの奪取と確保の最優先命令を宣言。反対する将軍を交代させ陣頭指揮でレニングラード奪取を主目的に作戦を運営し始めました。

 軍事的に市街戦は赤軍に有利というか国防軍の優位を捨てるようなもので将軍達の反対は至極もっともと受け止められました。


 ただし叔父さんは早くも気付いていたのです。

 アメリカ産の軍事物資がレニングラードの港湾経由でソ連に流れ込んでいることに……

 レニングラードを奪取できればアメリカからの援助物資はその兵站腺を断ち切ることができます。

 冬の間だけでも開けっ放しにすれば米国製の装備で固め再編なった赤軍との戦いというありがたくない状況が待っています。


 ここに死力を尽くしたレニングラード攻防戦が始まったのです。

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