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官僚主義との勝者なき戦い

 1941年10月27日 オーバーザルツブルク ベルクホーク

 

 今日の総統さんは大荒れです。

 原因となったのは訪問してきた参謀本部の作戦局の面々でした。

 総統命令として直ちに西部戦線から航空艦隊を引き抜いて東部戦線へ移動させるという命令に対し参謀本部から反対が上ったのです。

 大規模な作戦変更ですので組織内での調整も大規模かつ速やかに方針変換しなくてはいけないことを考えると膨大な仕事量にはなります。

 当初総統さんも参謀本部の意見を聞いていましたが参謀本部からの「前例がありません」という拒否の返答に対し、「何たる官僚主義、前例主義だ。それで戦争に勝てるか!」と怒り出しました。

 そのあと総統さんはすぐに航空艦隊を移動させた場合の人的損失と資源についてしばらく演説していました。

 それを聞いた後で「軍令にこのような場合の対応がありませんので検討が必要です。」と言われその決定までに兵士が何人死ぬと思っているんだ。すぐにやれ!と総統権限で押し切りました。

 総統さんが一旦機嫌が悪くなってしまうと、酒も飲まず趣味も無いため、気分の切り替えに物凄く苦労します。

 一緒に住み始めたころは理解できていなかったのですが、基本的に異性に対しても興味と関心が低く、辛うじて美術品を眺めるのが唯一の嗜好という感じがします。

 このため、今日のような日はスケッチブックと鉛筆とフランスパンを用意すると服を脱いでソファーにもたれ掛ってデッサンのモデルをかって出るのが唯一の対応になります。

 今日の指定は黒のストッキングにキャットガーターと脚の脚線美を強調する組み合わせでした。

 彼は脚が好きなのです。

 総統さんは時々コーヒーを運ばせながら一心不乱にデッサンを続けます。

 時折、漏れるのは官僚制度への愚痴です。

 あまりに長い時間、愚痴を聞いているせいで官僚制度の利点と欠点の講義を受けているようなものでした。

 今日の事例に関して言えば総統権限で押し切るのがもっとも正しい判断だったでしょう。

 総統さんがそのような追従を望まないのはわかっているので、口に出して言うことは無いのですが……


 官僚制とは基本的には一人の一人の人間に一人分の仕事をさせる非常に優れた手法です。

 これは10人を投入すれば10人分の仕事をこなすということで計画を立てられるということで非常に優れています。

 ただし割り当てられる一人分の仕事というのは一人の全力での仕事に比較すると少なくなります。

 これについては必要ロスと諦めるしかないのです。

 そして官僚制度がもっとも苦手としているのが進捗途中での計画の急激な方向転換です。

 特に前例が無い場合、もしくは類似例がない場合には、トップダウンで強制的に方向性を変えないと方向性の変更が目的になってしまい変更に対する事例収集や摩擦の無い方向変換への追及が始まってしまい時間が多くかかって急激な方向転換は不可能と位置付けて穏やかな方向転換に切り替えようとしてしまいます。

 戦争や災害など時間が人命の損失を招くような状況において、まず効率は無視して進むべき方向を明確にし動かさないと急激な方向転換はできません。

 それは官僚から言えば効率が悪く、無駄の多い作業であり、準備時間さえもらえれば、いくらでも挽回して見せるだけの能力を持っていることを宣言して見せるでしょう。

 そしてそれは事実でもあります。

 準備時間さえ残っていればなのですが……

 軍官僚は総統さんの気まぐれな戦争計画に振り回され、無駄が多く出ていると批判します。

 事実、無駄な計画や生産も多いのは確かです。

 しかし一方で間に合わせで用いられるものが多くの戦果を出し、それを他の部隊でも取り入れようとしたときに軍法制が妨げになる場合は総統権限で現地改修できるようにしてしまう方が短時間で多くの兵士の命を救ってきました。(Flak88の照準への距離尺追加などです。)

 これはパニックになりかかったフランス戦線で前線部隊の創意工夫によってシャールB1やクルセーダーなどの3号戦車や37mm対戦車砲では手も足も出ない状態を撃破するために対空砲を用いたのですが、重量が重く高価な対空砲を地上戦に用いることを空軍が渋っていました。

 このため地上用の装備を加えることで対空砲が地上目標も射撃対象にすることを宣言する手法でした。

 おかげでバルバロッサ作戦でも主力戦車では撃破できないものを対空砲が撃破していくという状態が続いています。

 官僚制度は前例と制度さえ整えれば維持に必要な力が激減し、改良に力を注げることがメリットですので主たる制度として存在するのに異論は出ないでしょう。

 問題として効率を追求すると組織が硬直しかえって非効率になる場合が発生することです。

 それも組織の問題ではなく組織を含む世界・環境が変化することで変化を求められた際に変化を妨げるものとして現れてくることが多いようです。

 その時に必要なのがトップの決断と権限なのですが、それを十分に持ち合わせる総統さんですら陰口等の陰湿な抵抗は精神をすり減らさざるを得ません。

 見ててつらいのですが、せいぜいモデルになって気分転換の手伝いしかできないのがもどかしいです。

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