チェコスロバキア細断
ズデーデン地方割譲は他国の一部分を有利に操作して自国に吸収するという点で連合国側にとっては非常に危険な手腕に見えたはずです。
元領土のルール地方占領、国と国の合併のアンシュルスに比べて使いやすい侵略手段(合法的な住民投票で決定)と認識したはずです。
これに成功したことで、ドイツの領土拡大は次のステップに入ったと思います。、
1938年10月1日 バイエルン州 ミュンヘン 総統館
ようやく今日からチェコスロバキアのズデーデン地方がドイツ人のものになる。
昨日まで行われた4カ国首脳会議で決まったことが誠実に履行されることを望むだけだ。
5月に緑作戦準備命令を行って以来、絹糸をわたるような綱渡りの日々がようやく終わった。
今回は軍の出動は無かった上に外交だけで完全な勝利だ。
代わりに、しばらく休憩を取りたいぐらいには疲れた。
ともあれこれでズデーデン地方で差別されていたドイツ系住民を救うことができるだろう。
チェコスロバキアにおいてドイツとのズデーデン地方はドイツ系住民が過半数を占めるドイツに近い雰囲気の地域である。
そのためかスコダ財閥を始めとした重工業の発達した工業地帯でもある。
しかしチェコスロバキア政府はこの地域の統治に非常に苦慮していた。
なぜならドイツ系住民が過半数を占めることでチェコスロバキアからの分離独立しドイツへの編入が起こしかねないと判断していた。
ワイマール共和国の時代にはドイツの混乱ぶりからそのような心配はしないで済んだが、ナチス党が政権をとってからあれよあれよと国力が上昇して、小国であるチェコスロバキアよりは大ドイツ連邦の一員のほうがメリットが大きくなっていた。
そのような分離独立を防ぐためドイツ人に対しては公務員への登用はできないように法律で定めてあった。
この法律に対し人種差別だと住民達の不満が高まっていた。
確かにチェコスロバキアでのドイツ系住民の不満は高まるだろう。
何しろニュルンベルク法でユダヤ人に与えたのと同じ権利しかドイツ系住民は受け取ることができなかったのだから。
この状態の改善を求めるのは当然のことである。
最初はチェコスロバキア国内で平和的に人種差別の改善を求める運動から始まったが、一向に改善はなされず、ドイツ連邦としては同胞であるドイツ系住民解放のためチェコスロバキア侵攻計画(緑作戦)の準備を行うことになった。
それが5月であり、10月まで時間を与えたにも関わらず、軍部から上がってきたのはチェコ外縁部での浸透とその地域の陣地化によるチェコ包囲作戦とも言うべきもので、無駄に資材を消耗する割には得るものが少ない作戦だった。
軍部はあまり鮮やかな侵攻を行うと英仏を刺激して、欧州大戦を招くと考えているようだ。
だが国家元首の思考で考えてみると、他国しかも小国のために自国の若者を投入できるかというと極めて大きな賭けであり、普通は望まない。
おそらく、戦争にはならないと判断できる。
それもあって緑作戦の概要をコントロールしながら流出させることで、交渉カードの手持ちとして使うことにした。
参謀本部の慎重な計画も彼らにとっては現実的でやりかねない作戦計画と判断してもらえたようだ。良かった、よかった。
ともあれその結果、ソ連が騒いだりしてポーランドとルーマニアが尻馬に乗って領土割譲を言い出したせいで、英仏との緊張は高まった。
幸いにイタリアのムッソリーニ首相が仲介役で英国チェンバレン首相、フランス ダラティエ首相との4カ国首脳会議をミュンヘンで開くことができた。
この場ではすでに戦争をいかに避けるかで流れが変わっていてドイツの要求は問題なく認められた。若干調整があったのはポーランドとルーマニアの割譲地域の問題ぐらいで大きな波乱もなく無事に声明を発表することができた。
各国の世論を見てみるとヒトラーを操縦して欧州から戦雲を遠ざけたと英仏での両首相の支持率はうなぎ上りだった。
我々としては欲しいものも手に入れたし、操縦されたという不名誉は別に気にならない程度の些事に過ぎなかった。
何よりもドイツ系住民の編入による人口増加、工業地域入手による経済活性化。
原住民の動産移動をい10月1日より禁止することを共同声明に盛り込めたので脱出する人物は財産没収の上で移動することになる。
これがドイツ民族に対する人種差別の報復として我々に残された権利だ。
ニュルンベルク法に基づき割譲地域を公正に統治させてもらおう。
それにしてもユダヤ人への人種差別で槍玉に挙げられるニュルンベルク法だが、今回の交渉の中でもたびたび交渉材料になった。
英仏からは廃案にすべきとは言ってくるが……
ドイツの立場としては国内に宗教のゴタゴタを持ち込みたくない、しかも法の施行後も周辺国からユダヤ人が流入してきている。
法改正の変わりに彼らを引き取ってくれる国があるなら国外出国させて、豪華客船でお送りしたいのだがどなたか手を挙げないか?
そういったら全員が黙り込んだ。
結局どこもユダヤ人は要らないというわけで、労働力不足のドイツに流れ込んでいる現状は幸いであるという本音が見えた。
今回で知れたこと民族の母国が無い場合には人種差別は受けてもやり返すすべがない。
母国が強力ならその庇護かに置けるので人種差別は是正できるということだった。
さて次はスロバキア人を独立を餌にチェコと争いを起こさせて、住民投票でドイツに入りたいと言わせる工作を進めないと。
それにしても今回のポーランドとルーマニアの火事場泥棒のような振る舞いは酷く気に触る行動だった。将来的には東方生存圏のなかに組み込んでソ連との戦乱地域として有効に活用させてもらおう。




